第11話 はぐれ者たち

「…………」


 気がつくと、小屋の中だった。ボロボロのシーツの上で寝かされている。


「うぐっ……」


 上半身を持ち上げると身体中にズキズキと痛みが走る。


「どこだここ……?」


 最後の記憶は……あの村の入口だ。門番に殴られて気を失って……それからどうした? ここは……あの村の中か?


「気がついたのか?」


 誰かの声。日本語だ!! 俺はとっさに首を横に向ける。鈍痛。


「うぐぐ……」

「はっはっは、もう少し安静にしとけ、アツシの治癒のスキルは完全に効果が出るまで時間がかかるからな!」


 痛みを堪えて眼をゆっくり開ける。大柄の男。黒い長髪と無精ひげ。間違いない、日本人だ。


「アンタは? それとここはどこだ?」

「俺はリョウ。この世界じゃあんまり意味ないみたいだけど、一応フルネームは前沢リョウ。よろしくな」

「ゲン……杉白ゲンだ」


 リョウと名乗る男が手を差し出してきたので、俺は握り返した。アグリのように力いっぱい握り込めるようなことはしない。優しく、互いの体温を交換するような握手だった。


「で、ここは『はぐれ者の里』といったところかな?」

「はぐれ者?」

「あんな所で行き倒れてたってことは……あんたも持ってないんだろう? 自動翻訳スキル」

「あ、ああ……。という事はあんたも?」

「ああ、あのテキトー女神のせいで、第二の人生でハードモードを強いられてる転生者の一人だ」


 リョウは、丸太を切っただけの椅子に腰を下ろした。


「俺だけじゃない。他の転生者からは脱落し、この世界の現地人からは相手にされない、翻訳スキルなしの転生者が何人もここに流れ着いている。いわば、この世界の最下層と行った所だ」


 そんな場所があったのか……。


「オレはどうやってここに?」

「俺ともうひとり、アツシって奴の二人で運んできた」

「運んできたって……あの村からか?」

「ああ。俺とアツシは、この山の中で採れたキジやイノシシの肉、それに山菜なんかを、あの村で小麦と交換してるんだ。言葉無しで出来る、原始的な商売てっ所だな」


 リョウは小屋の隅に置かれた麻袋を指差した。あの中に小麦が入ってるようだ。


「で、なんでお前は、あの村の前でボロボロになってたんだ」

「え? ああ、実は……」


 俺は、この世界に転生してからの一部始終をリョウに話した。


「オクト……あいつか……」


 リョウは片手で額を押さえながらため息を付いた。


「知ってるのか!?」

「色んな意味で有名だよ。はぐれ者仲間たちの間じゃな。こずるいやり口で各地で魔石をかすめ取ってる、ろくでもねーヤローだ。そのくせ派閥づくりは有能で、世界各地に仲間を作ってる。最近じゃ、王宮の内部にもパイプがあるらしい」

「王宮……そういえば、法律に詳しい転生者と知り合いみたいなこと言ってたな…」


 村長から魔石を奪ったときのことを思い出す。


「あの村に向かう最中に、突然嵐になったからもしかしてた思ったけど……やっぱ魔石が奪われてたのか……」

「オレはせめて、ひとかけらだけでもと思って、村に返しに行ったんだ。で、門番に痛めつけられて……」

「まあ、連中にしてみれば、村の魔石をだまし取った憎むべき敵だもんな。こちらの言い分を説明しようにも、こっちが知ってるこの世界の言葉は『ウケル』くらいだ」

「は、ウケル?」

「ああ、それも知らないか? ここの言葉で『面白い』って意味だよ。要するに『ウケる』だ。偶然の一致みたいだけど、これだけは俺達の世界と同じ言葉なんだよ」


――ハハハッ! ウケル!!――


 一番最初にあの村の門番たちと押し問答したときのことを思い出す。一瞬だけ日本語を話してると思った。アレはそういう事だったのか!!


「あっ 気がついたんですか?」


 小屋にもうひとり入ってきた。小柄な少年。オレとリョウはだいたい同年代だと思うけど、彼は年下に見える。


「コイツが、庵川アツシ。お前の傷に治癒のスキルをかけた奴だ」

「アツシです。完全回復まではもう少しかかると思うので、安静にしてくださいね」


 アツシと呼ばれた少年はそう言って、オレに軽く頭を下げた。

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