第5話 聖水8本 薬草3個
「ガードラ ベッツ ヴァーシュト タンセル……」
「でしょうなぁ。ここに来る前にも凶暴化した魔物と遭遇しました。」
「マルダカンサ グス ナー ラノ テデット ヴェシュ ヤ?」
「恐らくそうだと思います。ですが魔王討伐は我ら転生者たちの務めです。」
「パッサ ラット ガズー ギノ ヤ?」
「もちろん! ですが、それには条件が……」
「ママヌ?」
「魔王軍の幹部モンスター1頭とそこの魔石ひとつを交換していただきたい」
「パスタンテール……」
「難しい選択なのはわかっております。ですが、魔王討伐のために我々もそれが必要なのです。どうかご協力を……」
「………タヌー バスパラビナ」
やべえ、本当に言葉が通じてるよ……
* * *
「へぇ~! じゃあ本当に言葉が変換されずに聞こえるのか?」
「あ、ああ。お前たちにはアレが日本語に聞こえてたのね…?」
俺が入った勇者オクトのパーティーは、魔王の配下が住むと言われる古城を目指し、山道を歩いている。その道中で、さっきの村長との交渉の話をしていた。
「ねえねえ! ゲンにはどう聞こえてたの?」
ジュリアちゃんが聞いてくる。興味有りげな上目づかいの視線。
「どうって……聞き取れたのはママン…? だとかタヌー? だとか……?」
「なにそれウケる! たぬきのお母さん?」
彼女は手で口を隠すようにして笑う。仕草がいちいちかわいい。たぶん、元の世界でもモテたんだろうな。あっちではクラス内のカーストに阻まれて、こんな子と仲良くなるなんて不可能だった。それが同じパーティーの仲間として笑い合えるんだから、異世界万歳だ!
「まぁ、俺たちも全くわかんないワケじゃないけどな、この世界の言葉のルール」
先頭で、道を阻む倒木や岩を取り除きながらアグリが言った。
「例えばあいつら、数え方がモノで変わらないんだよ」
「は? どういうこと?」
「例えば、このパーティーは今4人いるよな? で、このパーティーには3本の剣がある。オレが持つ大剣と、オクトの長剣、それにさっき村でお前に買ったダガーだ」
「う、うん…?」
今の装備は、オクトたちに買ってもらったものだ。革製の胴当てと兜、そして一本のダガー。最低限の武装だけど、これだけあれば十分戦いに参加できるはずらしい。
「けどあいつらにとって、人が『4つ』で剣が『3つ』なんだよ。『~人』や『~本』みたいな数え方がないんだ」
「おかげで、道具屋でアイテム買うときに大変だったよな」
「そうそう! アタシら聖水8本と薬草3個注文したんだけど、店に人が間違ってさ、聖水3本と薬草8個出てきちゃって……」
「それでオクトが、違う違う8本と3個だーって言うんだけど店に人キョトンとしてんの!」
「アレはオクトが悪いよぉ」
3人が一斉に笑い出す。冒険の中で生み出された、このパーティーにとっての鉄板ネタのようだ。
まぁ言葉が変われば、そういう細かい違いも出てくるんだろうな。でも基本的に日本語で会話が出来るのなら、その程度の違いは大した問題じゃないだろう。
「お、アレじゃねえのか?」
アグリが大剣で草木を薙ぎ払うと、一気に視界がひらけた。山道はそこから谷へ進み、更にその先の高台に、石造りの城が建っている。
「ゲン、心の準備はいいか?」
「ああ、問題ない……!」
いよいよ初戦闘だ。女神がくれたSSRスキル〈n回連続攻撃〉の威力を試してやる!
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