第二章 パダ セルダー オクト(勇者オクトのパーティー)

第4話 野垂れ死ぬかパーティーに入るか

「お前、転生者だろ? 何してんだこんな所で?」


 村の入口から少し離れたところにしゃがみ、ふてくされているオレに誰かが声をかけてきた。知ってる言葉だ! 日本語だ!!


 オレが顔を上げると、白銀の鎧に身を包む男が立っていた、その後ろには何人かの男女が付き従っている。全員、見覚えのある顔立ち……日本人のものだ。


「そうだけど……アンタは?」

「俺は坂江オクト。この世界では勇者オクトと呼ばれている!」

「ゆうしゃ……」


 そうだ。俺も転生者として魔物を倒し、魔王の手から民を救う旅をするはずだった。「勇者ゲン」と呼ばれるはずだった。


「どしたの? 村に入らないの?」


 オクトの後ろでローブに身を包み、長い杖を持った少女が声をかける。明るい茶髪の可愛い子だ。その姿はRPGで見かける魔導師そのもの。パーティーの後方支援と言ったところか?


「いや、それが……言葉がわからなくて入れてもらえないんだ」

「言葉が……ははぁ、さてはお前、女神にスキル付け忘れられたクチだな?」

「スキル? スキルなら持ってる! 女神はSSR級だって言った」

「ちがうちがうちがう」


 オクトに背後にいるもうひとりが首を振る。こちらは男だ。体格はオクトよりガッシリとしていて坊主頭、肌は日焼けで浅黒い。元の世界では高校球児か何かだったのだろうか? 重そうな鎧に身を包んでいるその姿は、パーティーの前衛としてタンク役をやっていそうな雰囲気だ。


「ガラガラポンするやつじゃなくて、全員に付けられるやつだよ。自動翻訳スキル」

「じどうほんやく……」


 なんだそれ聞いてないぞ?


「その顔、やっぱり知らないんだな。あのテキトー女神め… いいか? 転生者は、その世界の言葉が理解できるように、転生前の世界の言葉に自動的に翻訳されるスキルが付与されるんだ。 だから本当なら、村人の言葉はお前には日本語に聞こえるはずだ」

「はぁ!!?」


 何だそのスキル!? この世界で生きるには必須じゃねえか!!


「俺もこの世界に来て結構たつけど、時々いるんだよな。スキル付与漏れの奴が…」

「そそそ…そんな……そんなの聞いてないぞ!?」

「あちゃー、やっぱり?」

「そのスキル持ってないやつは…どうすればいいんだ?」

「そうだな、二つに一つだな」


 オクトは、人差し指を真下に向けて言う。


「ここで野垂れ死ぬか……」


 続いて、くるりと指を真上に向ける。


「どこかのパーティーに加わって、魔王討伐の冒険に旅立つか!」

「どこかのパーティーって……?」

「んーー、たとえばウチとか?」


 魔導師の格好をした女の子が言う。


「ねえねえオクト、勿論いいよね!」

「ああ、人出が増えるのは大歓迎だ!!」

「よっしゃ決定!!」


 丸坊主の男が手を差し伸べてきた。


「オレの名前は飯房いいぶさアグリだ! 人呼んで戦士アグリだ!!」

「杉白ゲンだ…よろしく」


 そういいながら手をにぎる。アグリの手はオレのふたまわりくらいデカくて、握手すると握りつぶされそうな圧力が右手にかかった。


「痛って!!」

「はっはっは!! 足引っ張るなよ新人!?」

「ったくアグリは! 転生したばっかのコにそーゆーこと言わないの! アタシは椎名ジュリア。魔導師ジュリアってとこかな?」


 今度は魔導師の女の子と握手。アグリとは対象的に細く白く、柔らかい手だった。女子の手をにぎるなんて、小学校のフォークダンス以来かもしれない (中学では「握るふり」で済まされていた……)


「よし! 新メンバーも加入したことだし、村に入るか!」

「そうだな! ここにあるといいな、例のモノ…」

「大丈夫よ。この辺りの自然は、生命力が溢れている。良質なマナが溢れている証拠よ」


 …例のモノ?


 何のことかはわからないけど、とにかくオレは三人の後についていった。

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