第325話 グレッグ・ヴァン・ブラバ

 王国最強と名高い騎士グラーゼンと、ローンデル領の領主であるレストール伯爵が私を睨んでいた。

 状況は絶体絶命。どうにかして切り抜けなくては……。

 それがすぐに思いつくはずもなく、一筋の汗が頬を伝う。


「グレッグ。シルビアとセレナは何処だ!」


 声を荒げたのはレストール卿。どうやらまだ2人の娘を諦めきれない様子。

 既に死んでいるというのに、自分から弱点を晒すとは愚の骨頂である。

 それを失言というのだ。レストールよ。


「グフフ……。私を殺せば、それも闇の中だ。どうする?」


「フン。どうせ屋敷に幽閉しているのだろう? 言い逃れは出来んぞ!」


「それは何時の情報だ? 本当にそう思うのか? ならばその剣を私に突き立ててみるがいい。それはお前の娘の死と同義だがな」


「どういう事だ!」


「期日までに私が街に戻らなければ、部下がお前の娘を殺してしまうということだ。私が馬鹿正直に街を出るとでも思ったか? バカどもが!」


 この機転のおかげで、1度は侯爵という地位まで上り詰めたのだ。私はこんなところで躓く人間ではない。

 これは神からの試練なのだ。この窮地を脱してこそ、私はさらなる高みへと至る。

 ピンチをチャンスに変えるのだ。逆にここでレストールを亡き者へとすれば、私が成り代わることも出来る。


「どうした? 私を殺すんじゃないのか? そういう計画だったのだろう?」


 ニヤリと不敵な笑みを浮かべ、限りなく上から目線で煽る。

 何処から出て来るのかというほどの自信。それは貴族こそが天命であることの証明だ。

 私はいずれ国の頂点へと立つ人間なのだ。それは当たり前の行為であり、自然の摂理。人の上に立つ者は非道になり切らねばならない。それくらい出来て当然のこと。

 それができないから、レストールは何時まで経っても伯爵止まりなのだ。


「私は帰るぞ。道を空けろ!」


 それ見たことか。お前等の表情からは迷いが窺えるぞ。


「お前達は黙って私に従っていろ! レストールは誰のおかげで伯爵になれたと思っているんだ!」


 形勢逆転だ。悔しければ言い返してみろ。


「覚悟がないなら、我が覇道の邪魔をするなッ!!」


 人生唯一の汚点は、曝涼式典だけだ。

 死の王と呼ばれたアンデッド。さすがは魔術の名門アンカース家といったところ。

 素直にあれには舌を巻いたが、金輪際アンカースと関わらなければ済むことだ。アンカースは私が返り咲いた後、直々に引導を渡せばいい。

 それよりも先に九条を殺してやるッ!

 青二才が……。私を騙した事を後悔させてやらなければ気が済まない。

 プラチナとは言え所詮は死霊術師ネクロマンサー。従魔を連れていない九条など赤子の手を捻るようなものだ。

 今頃はドルトン達に返り討ちに合っているに違いない。それとも、私が死んだことを伝え、何食わぬ顔で降りて来る頃かな?

 それこそ私の思う壺だ。そのまま全員の息の根を止めてくれる!

 その扉を開けた時。私が死んでいないことに絶望しろッ! そして首を垂れ、許しを請うのだッ!!

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