第23話 美術館デート
それから数日が経った。
俺は、次のデートで何をしようかと考えていた。
加奈が絵を描くのが好きだと言うのを知り、良い事を思いついた。
スマホで色々調べてから、加奈にメッセージを送った。
「今度、美術館に絵を見に行かない?加奈、絵好きでしょ?」
「わー、いいね!!行きたい!!」
「一ノ瀬三郎って画家知ってる?」
「ううん。知らない」
「その人の特別展示ギャラリーをやってるみたい。主に風景画を描いてる人なんだ」
「へぇー、そうなんだ」
「俺目線だけど綺麗な絵を描く人だなって思ったんだ。行ってみない?」
「うん。行こうよ」
それから一週間が経った。今日は、加奈と美術館に行く日だ。
美術館は、直通のバスが出ている。
バスに乗って一時間くらいすれば到着する。
「加奈は今日行く美術館に行った事あるの?」
「ううん、行った事ないよ」
「どこかに絵を見に行った事はある?」
「小学生の時に遠足で行った時くらいかなー。それは県外の美術館だったんだけどね」
「そうなんだ」
「うん。あの時は、じっくり見たかったけど時間が押しててさ。見れなかったんだよね」
「じゃあ今日は、思う存分じっくり見ようよ」
「うん」
バスが美術館に到着し、中に入った。入館料を払い、パンフレットを貰った。
そのまま順路と矢印が書いてある方向に進んでいき、一つ目の絵が額縁に入れられて飾ってあった。
向日葵と夏の照り付ける太陽が描かれていた絵だった。
「タイトルは、向日葵か」
「夏の暑そうな太陽の感じと、それに負けずに咲いてる向日葵が良い味出してるね」
「向日葵が堂々とした面持ちで咲いてるなぁ」
「太陽の日の当たり具合とか凄く緻密な計算して書いてるね。凄い」
次の絵を見た。次の絵は、草むらに蛍が沢山いる夜の絵だった。
「うわー!!これは綺麗な絵だな。タイトルは、蛍だってさ」
「うん。これも良いね。幻想的な感じ」
「空も丁度良い暗さで、蛍を引き立ててるな」
「草むらにもさ、どこか風が当たって揺らいでいるような感じに見えるね」
「あ、ほんとだ。草が揺れてるみたいに見える」
「草がゆらゆら動き出しそう」
「うん。凄いね」
次の絵を見た。次の絵は、花火が空に打ち上がっている街の絵だった。
「タイトルは、花火の街か。これも綺麗だなー」
「花火の絵で使われてる色が細かくて鮮やかだね」
「なんだか花火の音が聞こえてきそうだ」
「凄いなぁ。私、こんなの描けないなぁ」
次の絵を見た。着物を着た女性が、後ろを振り返っている姿を描いた絵だった。
「タイトルは、振り返り美人か」
「綺麗な女の人だね」
「これは着物で夏祭りデートでも行った時なのかな」
「けど女の人の表情が、どこか切ない感じがする」
「確かに表情がちょっと悲しそうな表情なのは、どうしてなんだろうね」
「楽しい夏の終わりを悲しんでいるのかな?」
「あー、なるほど。そういう事なのかなー」
次の絵を見た。金魚すくいをしている様子の子供の絵だった。
「タイトルは、金魚か」
「金魚が主体なんだね」
「子供が全体的に見て、大きめに描かれているな」
「金魚にとっては、子供は怪物に見えるのかも」
「なるほど。金魚すくいは、金魚からしたら恐怖でしかないもんね」
「多分これは、金魚目線で描かれた絵なんだと思う」
次の絵を見た。イルカの上に子供が乗っている絵だった。
「タイトルは、海の子だってさ」
「うーん、これは難しいなぁ。どういう解釈をすればいいんだろう」
「子供とイルカは、仲良さそうに見えるよね」
「うん」
「地球上の生き物、全てが海から生まれたから海の子って事なのかなぁ」
「きっとそれだ!!」
「子供とイルカは、どこか楽しそうに泳いでるもんね」
「イルカの肌質とか凄くリアルに表現されてるな」
「うん。かなり細かく描かれてるよね」
次の絵を見た。ビーチサンダルとその隣には、フォークが描かれている絵だった。
「タイトルは、夏休暇だってさ。何じゃこりゃ……」
「うーん……」
二人して首を傾げながらじっくり見る。
なぜビーチサンダルとフォークが一緒に写っていて、夏休暇なのか。
しばらく見たけども、その謎が解ける事はなかった。
「ダメだ。全然分からない」
「私も」
「何だろう。でもなんか引き込まれる」
「うん。なんか凄く印象に残るよね」
これが芸術という事なのだろう。うん。きっとそうに違いない。
次の絵を見た。スイカ畑にスイカが沢山並んでいる絵だった。
「タイトルは、スイカ畑か。これはシンプルで分かりやすいな」
「でも良い絵だね。手前のスイカが大きく表現されてて、奥のスイカが小さいの。なんか可愛い」
「ほんの少し、青空と雲が描いてあるのも良いな」
「私、この絵好き」
次の絵を見た。真っ暗な背景に、大きな目玉が描かれた絵だった。
「タイトルは、目か。ちょっと不気味だな」
「夢に出そう……」
「あれかな。肝試しとかそっち系?」
「ホラーチックな絵だよね。目が合っちゃった」
「うん。俺も目が合ったよ……」
「この目は、一体何を訴えてるんだろうね」
そして最後の絵にやってきた。最期の絵は、大きな額縁に入っていた。
大きな蝶々の絵だった。
「タイトルは、夏蝶々だってさ」
「緑色の蝶々なんだね。綺麗ー!!」
「これは凄いなー。なんか宝石みたいな輝きを放ってるね」
「うん。エメラルドっぽい」
「確かに夏って緑色っぽい気がする」
「でもただの緑じゃなくて、光を放つ緑色なんだよね。綺麗だなぁ」
「神秘的だね」
「これは、ずっと見てられる絵だなぁ」
加奈はしばらくの間、夏蝶々の絵に釘付けだった。
絵を堪能して美術館を出た。
「加奈は、一番どの絵が好きだった?」
「夏蝶々かなぁ。やっぱりあの緑色の表現は、凄かったよ」
「綺麗だったよね」
「智也君は、どの絵が好き?」
「俺は海の子かなー」
「あのイルカと子供の絵だね。あれも綺麗だった」
「でも一番何が印象に凝ってるかっていうと、やっぱりサンダルとフォークのやつ」
「夏休暇だね。あれは頭から離れないよね」
「しばらく考えてしまいそうだよ」
「私もー」
帰りのバスの中で、見た絵の事をずっと語り合っていた。
絵の事を語る加奈は、とても楽しそうだった。
連れてきてあげてよかった。
そう思った一日だった。
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