第10話 海デート

夏祭りに行った次の日。

俺は加奈とメッセージのやりとりをしていた。


「せっかくだしさ、夏の間に夏っぽい事したいね」

「私、海に行きたい!!」

「海か。良いね!!じゃあ次の休みの日は、海に行こうか」

「やったー。水着用意しなくちゃ」

「うん。俺も海なんて行くの久しぶりだよ。楽しみにしてるよ」


それから一週間が経ち、休みの日になった。海に行く日がやってきた。

忘れ物がないか確認する。財布にスマホ、それかから水中ゴーグルに浮き輪にビーチボール、着替え。

よし、問題なしだ。加奈との待ち合わせ場所であるバス停に向かった。

待ち合わせ場所に十五分前に着いて待っていると、時間通りに加奈がやってきた。


「ごめん。待たせちゃったかな?」

「ううん、今来たところ。じゃあ行こうか」

「うん」


二人で海水浴場近くに停まるバスに乗り込む。


「今日は天気も良くてよかったね」

「ほんとだね。絶好の海水浴日和だよ」


バスの中では、先週見たアニメの話をして盛り上がっているうちに停留所に着いた。

バスを降りて五分程歩いたら、そこには海が広がっていた。

そして多くの海水浴客で賑わっていた。


「うわー、やっぱり人多いなー」

「天気も良いもんね」


一旦、加奈と別れて更衣室でそれぞれ水着に着替える。

海に来るなんて小学生の時以来だ。しかも今日は、初めて出来た彼女と二人で来ている。

ひょっとして俺って人生勝ち組なんじゃないか。

なんだかテンションが上がってきた。

浮き輪とビーチボールを持って更衣室の前で待っていると、加奈が更衣室から出てきた。


「お待たせ―」


当たり前だが、そこには水着姿の加奈がいた。

水色の水着がとても似合っている。可愛い。


「おお……」


俺は思わず声を出してしまった。


「は、恥ずかしいからあんまり見ないでよ」

「い、いや……つい……」


加奈って結構、胸大きいんだな。

俺は、ついつい加奈の胸ばかりに目がいって見てしまう。

しょうがないじゃん、だって男の子なんだもん……。


「は、早く行こうよ」


恥ずかしがっている姿の加奈もまた可愛い。


「うん。行こうか」


俺達は、砂浜に駆け出していった。

早速、海の中に入ってみるととても冷たい。


「おおっ……。冷ぇえー」

「気持ちいいね」


俺はテンションが上がり、加奈に向かって水をかける。


「きゃあ!!やったなぁ!!えいっ!!」


加奈も俺に向かって水をかけ返してくる。

しばらく波打ち際で水の掛け合いをした。

ああ、これだよ。これ。

これこそが俺の求めていたもの。まさに夏の海デート。

彼女と水をかけあって、キャッキャッとはしゃぐ。

しばらく波打ち際で遊んだ後、砂浜に上がってビーチボールをする。

何回ラリーが続くか挑戦して、最高で五回ラリーが続いて盛り上がった。


「ふぅー。ちょっと疲れたね。休憩しようか」

「そうだね」


しばらく動き回って疲れてきたので、二人で砂浜に座って休憩する。


「俺、海の家でかき氷買ってくるよ。かき氷は、何味が良い?」

「じゃあ、私ブルーハワイ」

「飲み物は?」

「オレンジジュース」

「わかった。じゃあちょっと行ってくる」

「うん」


俺は海の家に行き、かき氷のイチゴ味とブルーハワイ味を買った。

ジュースが持てないので、一旦加奈のところに戻ってかき氷を渡す。


「はい。ブルーハワイ。これも持ってて。ジュース買ってくる」

「うん」


俺は、オレンジジュースを二本買って戻ってきた。

すると加奈が二人組の男に絡まれていた。


「ねぇ。お姉さん。今日は誰と来てるの?」

「もしさ、女の子同士で来てるんだったら俺達と遊ばない?」

「いえ、彼氏と来てるので」

「えー、なんだよー。彼氏と来てるのかぁー」

「ちぇーっ、残念だなー。行こうぜー」


ナンパ男達は、その場を去っていった。


「ごめん。一人にさせたから変な男に絡まれたんだね。大丈夫だった?」

「うん。大丈夫だよ」


加奈が彼氏と来ていると言ってくれたのが、実は少しうれしかった。

まあ確かに彼氏なんだけど、改めて言われると嬉しかった。

俺は加奈から預けていたかき氷を貰い、イチゴ味のかき氷を口の中に入れる。


「くー!!頭にキーンときた」

「砂浜で食べるかき氷って美味しいね」

「そうだよね。なんか美味しく感じるんだよな」


しばらく休憩した後は、貝殻を拾った。

綺麗な貝殻を沢山拾い、飲んだジュースの缶に入れて記念に持って帰る事にした。


「なんかさ、こうやって海で貝殻を拾ってるとさ。あの映画思い出す。何だっけー」

「アニメ?」

「ううん。違う。実写のやつなんだけどー。あー、タイトルが出てこない」

「何だろう。どんな話?」

「引っ越し作業中に昔、海で出会った女の子からもらったオルゴールを見つけて懐かしくなって海に行くやつ」

「赤色のオルゴールじゃない?」

「あっ!!そうそう!!赤色のオルゴール!!」

「オルゴールの箱の中に、こういう貝殻入れておくと、なんだか良い感じになりそうだね」

「あー!!それいいかも!!ロマンチック!!やりたい!!ねぇ、帰りにさ。お店寄ってオルゴール買って帰って良い?」

「うん。いいよ」


そんな話をしながら貝殻を沢山集める。

たまに硝子だったり、よく分からない誰かの忘れ物っぽい物を見つけたりもした。

すると加奈が……


「ねぇ。智也君」

「ん?」

「ここに寝転んでよ」

「寝転ぶの?なんで?」

「いいから」


俺は加奈に言われたまま、訳も分からず砂浜に寝転ぶ。

太陽がまぶしい。

すると加奈が、俺の足に砂をかけ始めた。


「何やってるの?」

「智也君を埋めようと思って」

「ええ!?俺、埋められちゃうの?」

「うん」


俺はそのまま加奈の手によって、砂浜に埋められた。

顔だけが砂を被らず無事でいて、後は全身埋められた。


「うおお……。動けない」

「あはは!!面白い!!そうだ、写真写真!!」


俺は加奈にスマホを向けられ、写真を撮られた。

加奈が撮った写真を見せてもらい、自分が砂浜に埋まった写真を見て俺も爆笑した。

その時だった。波が勢いよくやってきて、身動きが取れない俺は、海に浸かった。


「ごぼっ……。げほっ……げほっ……。しょっぱい!!」

「あはは!!」


それからまた二人で波打ち際で遊んでいると、俺はどこまで遠くまで行けるかやってみたくなった。


「ちょっと遠くまで泳いで行ってみるよ」

「気を付けてね」


そして俺は、遠くまで歩いていった。

結構歩いていって、浜辺からこっちを見てる加奈に手を振った。

すると加奈が手を振り返してくれた。

その時だった。


チクッ!!

太もも辺りに物凄い激痛が走った。


「痛っ!!な、なんだ!?」


太ももを見ると、アンドンクラゲがいた。

俺は、目の前にいたアンドンクラゲに自分が刺されたのだとすぐ理解した。

俺は痛みに耐えながら、加奈がいる砂浜へと戻っていった。

更に焦って急いで戻っていたからか足が吊った。


「痛い!!痛い!!痛い!!」


アンドンクラゲに刺されるし、足は吊るし最悪だ。

なんとか砂浜へ戻った俺の苦しそうな顔を見て加奈が言った。


「えっ!?ど、どうしたの?そんな顔して」

「アンドンクラゲに刺された……」

「ええー!!大変!!」


俺の太ももは、ミミズ腫れになっていた。


「あー、痛ぇえ……。調子に乗って遠くまで行くんじゃなかった」

「氷とかで冷やした方がいいのかな?ちょっと調べるね」


加奈がスマホを使い、アンドンクラゲに刺された時の応急処置を調べてくれる。


「海水でよく洗い流してって書いてある。水道水はダメみたい。刺胞を刺激して、さらに毒液が出てくる可能性があるって書いてあるよ」


俺は太ももを海水で洗い流した。

幸いにもアンドンクラゲなら痛みと腫れだけで、それ程毒の強いタイプのクラゲではないらしい。

俺はペットボトルを氷代わりにして太ももに当てて冷やしながら、加奈と一緒に病院へ行った。

やはり刺されたのは、アンドンクラゲで間違いなかった。

塗り薬を処方された。


「足大丈夫?」

「うん。なんとか……。調子に乗った俺が馬鹿だったよ。大人しく波打ち際で遊んでればよかった」

「まさかクラゲがいるなんてね」


海って怖いね……。

帰りのバスの中、二人でそう話しながら帰ってきた。


「そうだ。雑貨屋かどこかに寄ってオルゴール買うんだよね?」

「うん。寄りたい。でも足大丈夫?寄っても平気なの?」

「うん、大丈夫。俺もオルゴール見たいしさ、行こうよ」


俺達は、雑貨屋に寄ってオルゴールを探した。

すると綺麗な木目のオルゴールが置いてあった。


「これ可愛い!これにしようかな」

「じゃあ俺もこれにしようかな」

「お揃いだね」

「そうだね」


二人して木目の模様が奇麗なオルゴールを買った。

そしてバス停に戻ってきた。


「それじゃ、今日はここで。智也君、足お大事に」

「ありがとう。まあ薬貰ったし、大丈夫だと思う。それじゃ、またね」


ああ、今日は楽しかったけど酷い目に遭った一日だったな……。

大失敗してしまったな。

そう思いながら、俺は自分の部屋でオルゴールの中に貝殻を入れて飾った。

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