第9話 お祭りデート

それから一週間が経った。俺が誤って転倒させてしまった田口さんは、あれから特に何事もなかった。

仕事をしていると田口さんの孫娘が、浴衣姿で田口さんに会いに来ていた。


「まあ!!里奈ちゃん。綺麗な着物だね」

「うん!おばあちゃんに見せに来たの」

「そっかぁ。そういえば今日から夏祭りだもんね」

「うん!」


俺は、職員のおばちゃんと田口さんの孫娘の会話を近くで聞いていた。

そうか。そういえば今日から三日間、夏祭りがあるのか。

季節のイベントだし、加奈と一緒に夏祭り行けたら楽しいだろうな。

俺は昼休み、加奈に夏祭りに行かない?とメッセージを送った。

すると明日なら大丈夫と返事が来た。

次の日になり、加奈との待ち合わせ場所に着いた。

待ち合わせの時間を過ぎても加奈は、なかなか現れなかった。

遅れる事ニ十分、加奈がやってきた。


「ごめんー!お待たせ―!浴衣着てたら時間かかっちゃった」


加奈は浴衣姿だった。

き、綺麗だ!!凄く綺麗だ!!


「いいね!凄く似合ってるよ。綺麗!!」

「ありがとう!」

「サンダルだと歩きにくいよね?少しゆっくり歩くよ」

「うん、ごめんね」

「いや、俺の方こそごめんよ。自分が誘っておいて浴衣着てこなかった」

「ううん。いいよ。私が浴衣着たかっただけだから」

「そっか。じゃあ行こうか」

「うん」


祭りの会場に着くと、大勢の人が来て賑わっていた。

沢山の屋台があちこちに出ていて、太鼓の音が鳴り響いている。


「やっぱり凄い人だね」

「ねー!普段は田舎なのに、どこからこんなに人が来たんだって感じだよね」

「ほんとそう。さてどこから回ろうか」

「あっ!たこ焼きある!たこ焼き食べたい!」

「たこ焼きか。よし、食べよう」


たこ焼きを二つ買って歩きながら食べる。


「おっ!焼きとうもろこし美味しそう!良い匂い。加奈はどうする?食べる?」

「じゃあ食べようかな」


焼きとうもろこしを二つ買って、また食べながら歩いていく。


「喉渇かない?なんか飲み物買おうよ」

「私、お茶がいい」

「オッケー。俺もお茶にするか」


二人分のお茶を買って飲む。


「あー、俺なんか甘いの食べたくなってきたかも」

「林檎飴食べたい!!」

「あー!やっぱり祭りといえば林檎飴だよね」


二人分の林檎飴を買ってベンチに座って食べる。


「なんかさ、こういうお祭りの時って色々食べ歩きたくなるよね」

「うんうん!」


そしてまた歩いていると、金魚すくいが目に入った。


「あっ!!ねぇ、金魚すくいしない?」

「よしっ、やるか」

「どっちが上手いか勝負ね!」

「よーし、負けないぞ」 


お金を払って金魚すくいをする。

アミが破れないように慎重にいき、一匹すくった。


「よしっ!!一匹目!!」


加奈も狙いを定めてすくい上げる。


「私も一匹!!」

「おっ、やるな!!」


今度は黒い出目金を狙ってすくいあげた。

しかしアミが破れてしまった。


「うわあー!!ダメだったーー!!」

「よーし、私も出目金狙っちゃお!!」

「頑張れ、加奈」


加奈は出目金に狙いを定め、サッとすくい上げる。

見事に出目金をゲットした。


「おお、加奈。上手いな!!」

「へへっ!!もう一匹いくよー!」


次は、大きめの赤い金魚に狙いを定めた。

しかし加奈の持っていたアミは破れてしまった。


「ああー!!ダメかー!!」


俺は赤い金魚一匹。

加奈は、赤い金魚と黒い出目金の二匹を貰った。


「出目金可愛い!」

「よかったな、出目金ゲットできて」

「うん」

「加奈の家、水槽ある?」

「うん。あるよ」

「俺の家、水槽ないからさ。俺のこの金魚、もらってくれない?その方がコイツも幸せだろうし」

「うん。いいよ」


加奈に金魚の入った袋を渡した。


「あっ!わたあめ食べたい!」

「よし、買いに行くか」


わたあめを買って食べる。


「うわああーーん!!おかあさーん!!どこー?」


わたあめを食べていると、小さな女の子が泣いていた。

加奈が近寄って行って声をかけた。


「どうしたの?迷子になっちゃったの?」

「ぐすんっ。うん……」

「しかし、この人混みの中だと、なかなか探すのも大変だぞ」

「智也君、こういう時ってどうしたらいいのかなー?」

「そうだなー……。お母さんも探しているだろうし、こういう時は放送してもらうのがいいんじゃないかな」

「ねぇ。じゃあお姉ちゃん達と一緒にお母さん呼んでもらいにいこう?」

「ぐすんっ……。ううっ……。うんっ……」


加奈が女の子の手を繋ぎ、三人で迷子の放送をしてくれるところまでいく。

そして放送で呼んでもらい、一緒に待っていた。

すると女の子のお母さんが見つかった。


「よかった。もう一人で勝手に歩いて行ったらダメって言ったでしょ」

「ぐすっ……。ごめんなさい……。あのね、お姉ちゃんとおじさんが連れてきてくれたの」

「本当にすみません。ありがとうございます」

「いえ。見つかってよかったです」


うぐっ……。おじさんって言われちゃった……。

それを聞いて加奈が大爆笑していた。


「お姉ちゃん、ありがとう」

「うん。もう迷子にならないようにね」

「おじさんもありがとう」

「う、うん……」


また加奈が爆笑していた。


「お母さん無事に見つかってよかったね。おじさん」

「やめて!!俺の心の傷を抉らないで!!」

「あはははは」


そして祭りの時間は終わり、お開きになった。


「いやー、やっぱり祭りは楽しいな」

「そうだね」

「来年もまた来たいね」

「うん」

「それじゃ、帰り気を付けてね」

「うん。またね!」


浴衣姿で振り返って手を振ってくれる加奈は、凄く可愛かった。

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