第8話 映画デート
それからまた一週間経った。今日は映画デートの日だ。
映画館が併設してあるラックスで直接待ち合わせて行くという事にした。
俺は待ち合わせ時間の十分前に着いて待っていると、加奈が時間通りにやってきた。
「お待たせー!いつも先に来てもらって待たせちゃってごめんね」
「ううん。俺も今来たところだから気にしなくていいよ。じゃあ行こうか」
「うん」
販売機のところまで行き、映画のチケットを購入する。
「席、どの辺にしようか?一番後ろの真ん中くらいがいい?」
「うん。一番後ろが見やすくていいね」
「次の開始時間は20分後か。先にトイレ行ったり飲み物とポップコーン買ったりしてたら丁度良い時間になるかな」
「そうだね」
トイレを済ませ、飲み物とポップコーンを買う。
「あっ……」
「えっ?どうしたの?」
「これ見てよ。風神雷神パッケージのポップコーンだ」
「本当だ!なんか嬉しいね」
「分かる!」
劇場に入れるようになりましたという開始十分前のお知らせのアナウンスがあり、風神雷神を上映する五番スクリーンへと入っていき、席に座る。
「映画を見る時ってさ、始まる前に公開予定映画の予告編やるじゃん。俺、あれ見るの結構好きなんだよね」
「それ分かるー!へぇー、次はこんなのやるんだーってなってつい見ちゃうよね」
そして公開予定映画の予告編が終わり、いよいよ劇場版風神雷神、三人目の神の本編が始まった。
悪の組織の四天王のうちの一人が現れ、迫力ある激しいバトルが繰り広げられた。
だがとてつもなく強力な魔力を持った四天王の一人を相手に、風神と雷神は歯が立たずにやられてしまいそうになる。
絶体絶命のピンチの中、そこに現れたのは、三人目の神である水神だった。
水神の扱う水に雷神の電を流し込み、風神が風に乗せて雷を誘導する。
三人の神の連携攻撃で、今までで最も強い敵を見事にやっつけた。
水神、俺達と一緒に来ないか?と雷神が言うと、お前らだけでは弱いからな。仕方ない。俺もついて行ってやる。と水神は答えた。
そこでエンドロールが流れた。
俺は、この予想外の展開に画面に釘付けになった。
風神雷神はダブル主人公で、二人の神が戦っていく物語だと思っていたのに、まさか三人目の神が出てきて仲間になるなんて!!
劇場から外に出ると、加奈が興奮気味に……
「水神仲間になっちゃったね!!ビックリしたー!!」
「今までは、雷を風に乗せて相手を倒すって戦い方だったけど、水が加わる事で雷の威力が上がるとはね。いやー、やられたわ!凄い映画だった!!」
「水神のツンデレキャラも良い!!イケメンだし、声優さんも鷹峰悟さんだよね!!あの声でわかっちゃったよ!!」
「鷹峰ボイスは、特徴的だから分かりやすいよね。水神のキャラ絵と声もよく合ってたね」
「凄かったー!」
「それに今まで謎に包まれていた四天王を束ねるボスの竜王の狙いも分かってきたし、これは見所が多い映画だった」
俺と加奈は、映画の興奮を語りまくった。
とても楽しい時間を過ごすことが出来た。
加奈と別れて家に帰っている時、俺はふと思った。
今日のデート、俺は凄く楽しかったけど、加奈は本当にちゃんと楽しんで満足してくれていたのだろうか……。
俺にとって加奈は初めての彼女だけど、加奈は今まで何人かと付き合った事があると言っていた。
俺は、今までの加奈と付き合ってきた元彼達よりも楽しいデートを出来ているのだろうか。
会話だってそうだ。俺は気が付いたら、いつもアニメやゲームの話ばかりになってしまう。
もっと笑えるような話や勉強になる話とか色々な話題があればいいけど、俺には面白おかしく話せる話術も話せるような話のネタもない。
加奈は良い子だし、まさか本当はつまらないのに、俺に気を使って楽しい振りをしているだけなんてことはないだろうか。
家に帰ってからもそんな事ばかり考えてしまい、楽しいデートの日だったはずなのに、夜はあまり眠る事ができなかった。
次の日になった。今日は仕事だが、朝から昨日の続きをまだ考えてしまっていた。
加奈は、俺みたいなつまらない男と付き合って本当に良いのだろうか。
これから加奈の元彼達よりも楽しいデートをできるかどうか不安だ。
仕事中もそんな事ばかりが頭の中でずっと強く残っていた。
その時だった。足腰が弱いデイサービス利用者の田口さんというおばあちゃんの介助をする為に引いていた田口さんの手がスッと抜けた。
しまった!
そう思ったが、もう遅かった。手遅れだった。
田口さんは、俺の手を離れて転倒してしまった。
「田口さん!!す、すみません!!大丈夫ですか!?」
田口さんは幸い、打撲だけで済んだ。
俺は上司に事故報告をした。
施設長からは酷く叱責された。
やってしまった……。介助中に利用者を怪我をさせるなんて、介護職員として一番あってはならない失態だ。
俺は、事故報告の書類や今後二度と同じ事が起こらないようにする対処法等をまとめた書類を提出して残業し、いつもよりも遅めに家に帰ってきた。
帰ってきて落ち込んでいるところに、加奈から電話がかかってきた。
「もしもし。智也君。もう仕事終わった?今、電話大丈夫?」
「……ああ、うん。だい……じょうぶだよ」
「どうしたの?何かあった?なんか凄く辛そうな声だけど」
「うん……。今日、仕事でミスしちゃってさ。足腰が弱いおばあちゃんを移動させてたんだけど、手が滑って転倒させて怪我させちゃったんだ」
「大丈夫なの!?」
「うん……。幸い田口さん……あっ、転倒したおばあちゃんの名前ね。田口さんは、打撲だけで済んだんだけどね」
「そっかぁー。大怪我しなくてよかったよ。不幸中の幸いだね」
「ねぇ……。加奈」
「ん?」
「加奈はさ……。その……俺といて楽しい?」
「楽しいよ」
「俺さ……。俺にとって加奈は、初めての彼女だけどさ。加奈にとっては、俺は初めての彼氏じゃない。だから今まで付き合ってきた元彼達よりも楽しめてもらえてるかなって凄く不安なんだ。実はさ……仕事中もそんな事考えてて、少しぼーっとしてたのかもしれない」
ほんの少しだけ間があって加奈が話し始めた。
「そんな事で悩まなくていいんだよ。私、過去の人となんて比べないよ。私にとっては、もう終わった人達だし。それに今まで付き合った人の連絡先も全部消したよ。今どこで何してるのかなんてのも全然分からないよ。今の私には、智也君しか見えてないから安心して」
「そっか……。ありがとう……」
加奈に直接そうやって言ってもらえた事で安心した。
俺は、この子を本当に大切にしよう。そう思った。
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