第4話 デート
婚活パーティーの日から一週間が経った。
それまでの間に横山からおすすめのカフェの店を何店舗か教えてもらった。
「それとな、次のデートは間を空けず、なるべく早く誘え」
「どうして?」
「お前の印象を相手に強く残す為だ。例えば次会うまでに一ヶ月空くのと二週間とでは、全然違うだろ。なるべく早く次を決めろ」
「そういうものなのか?」
「そういうものだ」
きっぱりと言い切られて返す言葉が見つからなかった。
俺は横山の言葉に素直に従い、木下さんに次の誘いの連絡をすることにした。
誘い方も横山から教えてもらったアドバイス通りに言った。
まずは先日のお礼を言うこと。
楽しい時間だった事を相手にきちんと伝える事。
そして本題。内容は簡潔に伝えることだ。
無駄な事は言わなくていい。
後、そのカフェの良い点も伝えるとベストなんだそうだ。
文章は短すぎず、長すぎない程度が良いんだそうだ。
もちろん送る前に同じ文章を横山にコピーして送り、添削もしてもらった。
「こんばんは。先日はありがとうございました。とても楽しかったです。良いカフェの店があるんですけど、次の休みの日にご都合合えば一緒にどうでしょうか?ケーキが美味しいお店なんですけど」
「こちらこそありがとうございました。カフェですか!?ケーキ好きなので是非行きたいです」
待ち合わせの場所と時間の話をして、木下さんと会う約束をすることができた。
散々どんな風に誘おうかと一人悩んでいたのに、横山に相談すると数分で解決した。
横山、お前は本当に凄いな。
そして問題はその後だ。
カフェでどんな話をすればいいのかとか色々と横山に聞きたいことがあったから聞いてみたけど、後はお前次第だと言われて結局何も教えてもらえなかった。
仕方がないので、あれこれ自分でシミュレーションして、話題に困らないようにメモ帳に話題リストみたいなものを作った。
我ながらまるで、トーク番組で自分のネタを忘れないようにメモしておくお笑い芸人みたいだと思った。
ついに木下さんとのデートの日がやってきた。
待ち合わせの時間の十分前には、到着しておくように横山に言われた。
それは、ただお前の時間にきっちりというポリシーを俺に押し付けてるだけなんじゃないのかと言ったが、男はデートの日は、早めに来て待っておくのが昔から決まっているんだそうだ。
そして少々、女の子が遅刻してきても絶対に文句を言うなと言われた。
化粧治したり、髪型が気になったり。とにかく女の子は時間がかかる。
女の子は遅刻するものだぐらいに考えておけと言われた。
横山に言われた通り、待ち合わせ時間の十分前に到着した。
そして適当に携帯をいじったりして待っていたら、約束の時間から十五分遅れて木下さんがきた。
「すみません。遅れちゃって……。お待たせしました」
「いえ、俺も今来たところなんで大丈夫ですよ。それじゃ行きましょうか」
「はい」
ここまでは横山からもらったアドバイス通りに事が進んでいる。
まあ順調だろう。
問題はこの後のことだ。
カフェに入ってから何を話すか。
大丈夫だ。携帯に話題リストを沢山作ってきたからきっと大丈夫。
そんな事を考えながらカフェに向かって歩き始めた。
途中、エグモンの話を軽くしながら移動した。
カフェに着いた。
横山に場所だけ聞いていたが、実際に入ったのは初めてだった。
あまりにもお洒落なカフェすぎて、中に入るのにかなり緊張してしまった。
店員にどこでもお好きな席へどうぞと言われたので、なるべく端っこの奥の席に座った。
「凄くお洒落な店ですね」
「そうなんですよ。ここのケーキが美味しいらしくて」
「え、矢口さん。初めて来たんですか?」
しまった。
つい口を滑らせて言ってしまった。
横山の指示で何度か来たことがあるような雰囲気でいけと言われていたのに。
「は、はい……。実は初めて来たんです。俺、お洒落なカフェとか全然分からなくて友達に聞いたんです。ああ、そいつは大学の友達なんですけどね。そうしたらここがおすすめだって言われて」
「そうだったんですね」
「ええ、こうなったら正直にお話します。実はお洒落すぎて俺、今凄く緊張してます。木下さんと上手く話せるかどうかとか色々考えちゃってます」
「実は私もお店が綺麗すぎて緊張しています」
「ああ、なんか気を使わせてしまい、すみません」
「あ、いえいえ!大丈夫ですよ。矢口さんがせっかくお友達に聞いて色々調べてくれたお店なんですよね。美味しいケーキ楽しみです」
「そう言ってもらえて助かります。ありがとうございます」
注文したケーキがテーブルにきた。
見た目も良いし、味も美味しい。
お洒落だし、横山おすすめのカフェだというのも納得した。
店選びは文句なしで大成功だと思う。
「ケーキ美味しいですね。私、ハマりそうです」
「俺もまた来たいと思うくらい気に入りました。木下さんは今期のアニメで好きなアニメとかありますか?」
「風神雷神を最近見始めました」
「おおー、あのバトル漫画が原作のやつですね。あれは熱いアニメですよね。バトルシーンの作画がまた良いんだ」
「凄く迫力ありますよね。ダブル主人公ってなんか良いですよね」
「風神派ですか?雷神派ですか?」
「うわー、悩む二択きましたね。うーん、難しいですけど、どちらかというと雷神派です」
「雷神良いですよね。俺も雷神派だなぁ。ゲームセンターのクレーンゲームの景品で雷神フィギュアが今度出るので、是非ゲットしに行こうと思ってます」
「いいなぁー、私も欲しいです。でもクレーンゲーム苦手で」
「じゃあ今度、雷神フィギュア取りに行きましょう。クレーンゲーム得意なんで俺取りますよ」
「ほんとですか?ありがとうございます」
結局、色々話したい事のリストは作ってきたけど、アニメの話ばかりしてしまった。
気が付いたら三時間もカフェでアニメの話ばかりしてしまっていた。
そしてその日は解散となった。
横山からどうだったか報告するように言われていたので、連絡した。
「しもしもー」
「バブル期かよ」
「それでどうだったんだよ。カフェ行ったのか?」
「行ったよ。良い店教えてくれたおかげで助かった」
「そうだろそうだろ。雰囲気も良くなってより一層仲良くなれたはずだ。それでどこまでいった?」
「今度ゲームセンターでクレーンゲームのフィギュア取ることになった」
「いや、違うよ。正式に付き合ってくれって言ったか?」
「……いや、そこまでは。だってまだ会うの二回目だし」
「その子の事好きなのか?ちゃんと彼女にしたいって気持ちはあるか?」
「正直かなり好きかもしれない。趣味も同じで話しやすいし、こんなに自然体でいれる事に驚いてる」
「よし、なら後は、告白するしかないな」
「ええ、告白なんて早いだろ。お互いまだ敬語だし」
「いいか。よく聞け。よくある話だ。付き合いが長くなれば長くなるほど、この関係が壊れるのが怖いと思ってしまって、告白するのをためらってしまう。だから好きかもと思ったならすぐ告白しろ。ずるずるいくな。男ならすぐ行動しろ」
「いくらなんでも早くないか?」
「好きなんだろ?」
「そうだな」
「ならもう答えは出てるだろ。早く告白しろよ」
「相手の気持ちが分からない」
「お前は超能力者か?相手の気持ちなんて分かる訳ないだろう。告白してお前と付き合っても良いと思ってくれたならオッケーもらえるし、嫌なら断られる。それだけだ。それにどうせ断られても今ならダメージ少ないだろ?なははは」
「他人事だと思って……」
「次告白しろ。ゲーセン行くんだろ?その帰りにでも言ってしまえ」
「まあ考えてみる」
そうは言ったものの……
次で会うのは三回目だぞ。
それでいきなり告白されたらどう思う?
あまりにも突然すぎて木下さんに引かれてしまうんじゃないか。
そんなことばかり頭をよぎる。
そして約束したゲームセンターに行く日が決まった。
三度目のデートだ。
次で告白か……。
大丈夫だろうか。
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