第3話 出会い
横山に言われたように美容院へ行って美容師にお任せでお願いしますと伝えて髪型を変えてもらった。
初めての美容室は入るのに少し緊張したけど、入ってみると案外平気だった。
良い感じに仕上げてくれただけでなく、ヘアーセットの仕方まで丁寧に教えてくれた。今まで髪を切りに行く時は、小学生の頃からお世話になっている親父が行ってる散髪屋で切ってもらっていた。髪を切りに行くといつも髭を剃ってくれていたので、楽だし嫌いではなかった。だが美容院では髭を剃ってくれないから、少し違和感を覚えた。
でも仕上がった髪型を結構気に入ってるので、これからは美容院に行こうと思う。
髭ぐらい自分で剃ればいいだけの話だし。
横山と会う事になった。
今日必ず来いと言われた。
時間は、いつものように午後一時。
十二時五十分に行くと、やはり横山は先に来ていた。
「よお。……あははは」
「え、髪型おかしいか?」
「いやー、なんていうか一気に雰囲気変わったなと思ってよ。俺の指導の賜物だなと思って。まあ先生が良いから。いや、流石は俺」
「自画自賛かよ」
「大丈夫だ。オッケー、オッケー。合格だ。見た目はリア充に近づいたぞ。自信を持て」
「それで今日はどうするんだ?」
「そうだな……とりあえず映画行こうぜ。観たいやつあんだよ」
「映画?」
「まあいいからいいから」
そう言われてラックスに併設されている映画館へと移動した。
「それで映画を観るのに何の意味があるんだよ」
「意味はない。俺が観たかったからだ」
横山はサラッと答えた。
マジかよ……。
宝物はそこに。というタイトルの映画だった。
無人島にある伝説の秘宝を発見するため、冒険するという話だ。
日本でも今、結構話題になっている映画だ。
まあアクションの迫力もあったし、確かに面白かったが……。
「うん、なかなか良かった」
「まあそうだな」
「よし、まだ時間あるし、ちょっとカラオケ行こうぜ」
「ええ、カラオケ?」
「いいからいいから。まだ時間あるから」
横山は、にやりっとしながら携帯の画面で時間を確認する。
そして次はカラオケ店へと移動した。
「三時間コースで」
横山が店員にそう伝えて、俺達はカラオケルームへと移動した。
「さあ何歌うかなー」
横山と交代で色々歌って三時間が経過した。
「よし、良い時間だな。そろそろ行くぞ」
「え?行くってどこに?」
「まあいいからいいから」
またにやりっとして横山は、まあいいからしか言わない。
何か企んでいるのは明らかだが、移動しながら問いただしても、まあお楽しみって事でと言って何も教えてくれない。
横山が立ち止まった。
「ここだ」
「ここは……」
たどり着いた場所は、イベントホールだ。
地域のイベントがあったりアーティストがライブに来たりすることもある。
「えっ?今日なんかやってたっけ?」
「発表します。今から行くのは、ででん!! 婚活パーティーです」
「えええええ」
「どうだ、ビックリしただろ」
「待て待て待て。説明しろよ。急すぎるだろ。それに俺予約とかもしてないぞ」
「当日予約なしで参加できる婚活パーティーだってあるんだよ」
「そ、そうなのか。というかいきなりすぎるだろ。服装だってスーツとかじゃないのか?」
「私服で大丈夫なパーティーを選んだから問題ない。いいから行くぞ」
「お前……今日俺の髪型初めて見たよな。もし髪型が失敗してたらどうしてたんだよ」
「ん?それでも来てたよ。失敗するのもそれはそれでネタとして面白いだろ。経験だって」
「お前な……」
「まあ別に変じゃないから大丈夫だって。ほら行くぞ」
「だから待てって。心の準備だって出来てない」
「ねぇよ。心の準備なんて。出会いがないんだろ。だったら自分で行動すればいいんだよ。ほら行くぞ」
「おい、ちょ、ちょっと待てよ。俺会話だってお前と違って自信ないって」
「知らねぇよ。自分でどうにかしろ。このアニメオタク野郎」
強引に連れられ、人生初めての婚活パーティーに参加する事となった。
そして中に入ると、俺は分かった。理解した。
今日は、アニメやゲーム好きの男女が集まる婚活パーティーだったのだ。
「横山……。お前……」
「お前に軽快なトークなんて期待してねぇって。とりあえずアニメとかゲームの話ならお前でもなんとかできるだろ」
横山は考えていてくれたのだ。
今日必ず来いと俺に言ったのは、この婚活パーティーに参加させる為だったのか。
「それとこれな、ボールペンとメモ用紙。一応持っとけ。くれない場合もあるからな」
「お、おう……」
受付をした後、プロフィールカードなるものを書かされた。
早速、横山から渡されたボールペンを使う事になった。
意外とこいつは、いつも準備が良い。
プロフィールカードには、名前や年齢といった事はもちろん、趣味や特技など色々な項目があった。
「プロフィールカードに空白は作るなよ。どうにかして全部埋めろ」
「なんで?」
「女の子に配られるからに決まってるだろ」
「な、なるほど」
アニメ、ゲーム好きの婚活パーティーのプロフィールカードなだけに好きなアニメやゲームの作品名を書いたりする欄もしっかりと設けられていた。
好きな作品は沢山あるけど、色々悩んだ末、一番好きなデッドラインを書いた。
隣で横山もプロフィールカードを書いていたが、特に悩んでいることもなく、パッと書いていた。
プロフィールカードを書いた後、スタッフに開始時間まで少しお待ちくださいと言われ、時間が来るまで待たされることになった。
「この後はスタッフの指示に従えばいい。大体の流れとしては自己紹介があって五分か十分くらい話して席の移動を繰り返すだけだ。その中で気になった子がいたら名前とかをメモしておけ」
「それでメモがいるのか」
「まあ後はお前次第だな。頑張れよ」
「お、おう……」
お前次第と言われてもな……。
横山と話しているとスタッフに呼ばれ、ついにアニメ、ゲーム好き婚活パーティーが始まった。
大体の流れは、横山が言っていたとおりだった。
スタッフに流されるまま、席に移動して自己紹介して数分話して席を移動。これを繰り返す。確かにこれは、メモしておかないと後で訳が分からなくなるだろう。
全部で二十人の参加女性と話した。
その中で俺は、四歳年下の木下加奈さんという女性が気になった。
理由は話したときにアニメ、ゲームの好きな作品が似ていたからだ。
もっと話してみたい。
自由時間になった。
横山が近づいてきて
「気になった子いたか?」
「木下加奈さんかな」
「ならどんどん積極的に話しかけてこい。これを逃したら二度と会えないぞ」
「まあそうだな」
「じゃあ俺帰るわな」
「ええ、ちょ、ちょっと待てよ。この後どうするんだよ」
「せいぜい自由時間で頑張ってアピールしろ。その後、気になる人の名前を書いてお互いにマッチングしたら一緒に帰れるんだよ。その後どこまで仲良くなれるかは、お前次第だ。まあマッチングしないかもしれないけどな。なははは」
「なんかアピールのコツとかないのか?」
「ありのままのお前を受け入れてくれる子を探せ。変に意識するな。素直にいけ。それだけだ」
「ま、まあ……なんとかやってみるよ」
「後でどうなったか連絡しろよ。それじゃな」
本当に横山は帰ってしまった。
素直に……か。
よし、頑張ろう。木下加奈さんのところに行くとするか。
「木下さん。どうも。さっきデッドラインが好きだって言ってたんで、趣味とか似てるし話が合いそうだからいいなと思って、話に来ちゃいました」
「あ、えっと……矢口さんでしたよね。私も矢口さんと趣味が似てるなーと思ってて、もうちょっと話してみたいなと思ってました」
黒髪で大人しそうな、どちらかというと地味目の女の子だ。
俺ともう少し話したいって……!!
神展開来た。うおおおお。
心の中でガッツボーズをした。
あ、いやいや。待て待て。浮かれるな。
話してみたいってだけの話だ。
まだお互い名前と年齢、趣味がアニメ、ゲームって事くらいで他は何も知らないんだから。
「デッドラインの中で好きなキャラクターは誰ですか?」
「私はアルスが好きです。普段はやる気ないのにいざという時は恰好良くて」
「アルスですか。俺も好きです。強いですよね。また声優さんの声も恰好良いんですよね」
「男性声優の笹倉弘明さんですよね。凄い恰好良いですよね。矢口さんはゲームとかもされてるんですか?」
「ゲームやってますよ。携帯のアプリゲームもやるし、家庭用ゲーム、ゲームセンターも行きます」
「私、今エッグモンスターにハマってるんです。知ってますか?」
「あー、エグモン面白いですよね。卵をふ化させてどんなモンスターが出てくるかは、生まれてからのお楽しみってやつですよね」
「そうです」
「プレイヤーランクはどれくらいなんですか?」
「今、四十六です。中級クエストのところまでやってます。矢口さんはランクどれくらいですか?」
「百十三です」
「えっ!凄い!課金とかしてるんですか?」
「いえ、無課金でコツコツとやってますよ。効率の良いクエストを回れば、割と簡単に攻略できるんです」
「へぇー、そうなんですねー」
「良かったらクエストの攻略とかも手伝いますよ」
「えー、いいんですかー?」
「フレンド枠に空きはありますか?あればフレンド登録してもらえたら、俺のモンスターが仲間になって使えるので、かなり攻略が楽だと思いますよ」
「わー、嬉しいです。是非お願いします」
エグモンのゲームアプリを起動し、フレンド登録をした。
そして自由時間が終了とアナウンスがあって、スタッフに気になる人の名前を書いて渡した。
もちろん木下加奈さんと書いて。
まあ話は弾んだけど、結局エグモンの話しかできなかった……。
ああ……。ダメかなぁ……。
木下さん、選んでくれるかなぁ……。
あまり自信はないけど。
そう思ってカップリング結果の発表を待っていた。
すると、なんと木下加奈さんとマッチングした。
一緒に帰る事になった。
「いやー、まさか俺なんか選んでもらえると思ってませんでした。ありがとうございます」
「矢口さんが凄く話しやすかったんです」
「あ、ありがとうございます」
ま、まずい……。
この後、どうすればいいんだ。
一緒に帰るって言ってもどうすれば……。
横山に色々聞いておくんだった。
「あ、あの……。腹減ってませんか?もし良かったら今から飯でも行きませんか?時間とかって大丈夫ですか?」
「はい。大丈夫です」
「ええっと……何か食べたい物はありますか?」
「矢口さんの好きな店でいいですよ」
どうしよう……。
ラーメンとか……いや、それはダメだよな。
デートらしくない。
いや、これはデートになるのか?
「あ、えっと……。嫌いな食べ物とかありますか?」
「何でも食べれますよ。私好き嫌いないんです」
「そ、そうですか。じゃあ……回転寿司でもどうですか?」
「わあ、お寿司良いですね。行きましょう」
咄嗟に口から出た言葉は、なぜか回転寿司だった。
後でお洒落なカフェにすればよかったと一瞬そんな考えが頭をよぎったが、カフェなんて全然知らない。
ああ、横山に聞いておくべきだった。
最悪だ……。
でも喜んでくれてる?
この子、凄く良い子だー。
狐のマスコットキャラクターが目印の回転寿司の大手チェーン店、おいなりさんに移動した。
ご飯時の時間帯というのもあって結構客がいたが、回転が速い為、十五分程度の待ち時間で席が空いた。
「矢口さんは、好きな寿司ネタは何ですか?」
「んー、そうですねー。……王道ですけど、やっぱりマグロが好きです」
「マグロ美味しいですもんね」
「木下さんは、いつも食べるネタとかあるんですか?」
「私はサーモンが大好きでいつも食べてます」
「サーモンですか。あっ、サーモンで思い出したんですけど、クイズの木っていうゲーム知ってますか?」
「いえ、分からないです」
「クイズに正解すると、どんどん木が成長していくゲームなんですけど、あれで知ったんですけどサーモンって白身魚だったんですね。恥ずかしながら俺、最近まで知らなかったんです」
「ええー、知らなかったんですかー!?」
「ずっとピンク色の身の魚だと思ってました。まさか餌のエビを食べて赤くなってるとは知りませんでした」
「あはははは」
結局、そこからまたゲームの話になってしまった。
何をやってるんだ、俺は……。
寿司を食べ終えて店を出た。
「ごちそうさまでした。お金出して貰っちゃってすみません」
「いえ、大丈夫ですよ」
「今日はありがとうございました」
「あ、はい……。また……」
家が近いからその場で解散となった。
「あっ……そうだ。横山」
どうなったか連絡しろと言われていたんだったな。
俺は横山に連絡した。
「よお、どうした」
「どうしたって……。お前が後でどうなったか連絡しろって言ったから」
「どうだったんだよ」
「うん。それがな……」
木下加奈さんとマッチングして一緒に帰った事。
回転寿司を食べに行った事を話した。
「なんで寿司なんだよ」
「いや、寿司ならハズレないかなと思って」
「そこは、お前……。お洒落なカフェにでも連れて行けよ」
「お洒落なカフェなんて俺が知ってるわけないだろ」
「まあいい。それでどんな話したんだよ」
「結局、寿司ネタはサーモンが好きな事とゲームの話くらいしか……」
「なんでだよ。しょうがないな。色々カフェの店も教えてやるよ。次誘う時は、そういう店連れていけ」
「わ、わかった」
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