第七十髪 大団円 平和の下で 酒盛りを

 祝宴しゅくえんが始まった。

 それは慎太郎が歓迎かんげいの時に行われた宴より、食事などは実につつましやかなものであった。

 それも無理はない。

 先程さきほどまでこの世界は本当の意味でほろびの直前だったのであり、人々はくろかみとの最終決戦に集中していた。

 明日を考えられないほど、ギリギリの状況だったのだから。

 だが、災厄さいやくは去った。

 人々は前回と違い、酒を飲んでも時間が来ればそれぞれのやるべきことに戻っていく、というようなことはない。

 ようやく手に入れた平和な時間を、これ以上ないほどに満喫まんきつしていた。

 それは、この戦いを共に乗り切った者達も同じであった。


「とはいえ」


 大広間おおひろま熱狂ねっきょう混沌こんとん泥酔でいすいきわみに達していた。

 ハーピィの族長セファラが中央の円台えんだいに乗り、美しい身体と色鮮やかなつばさを細かくふるわせおどる様は、まるでどこぞの南米の光景のようだ。

 マリーナは慎太郎のひざの上ですこやかな寝息を立てている。

 彼女も自分の仕事を、そしていつぞやリベンジを果たしたのだ。

 落ち着いたら、彼女の生きた未来の話をもう少しくわしく聞く機会もあるだろう。

 クオーレは兵士長ルビンと共に、酒豪しゅごうナンバーワン決定戦を行っている。

 酒席での事件などで現代では滅多めったに見ることの出来なくなった光景だが、この世界では無礼講ぶれいこうだろう。

 そして――。


「慎太郎様、お代わりです!」

「ははは……、もうそろそろそこらへんで止めておいたらどうかね……」

「あに? あたしに指図するんですか?! 慎太郎さんはー、あたしの言うことを聞いてればいいんれす!」

「は、はい。……どうぞ」

「よろしい」


 酩酊者のんだくれが、約一名。

 普段は節制していたのだろう。

 髪の色を同じくらい肌を桃色に染め上げた大巫女だいみこは、際限さいげんなく杯を空けていく。

 その速度は凄まじく、慎太郎は軽く引いていた。

 だが。


「そういう日も、ある」


 それに、今日はいわい酒だ。悲しい酒じゃないのだから、良しとしよう。

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