第十五髪 屈強な 男の過去を 知る機会
心身共にリラックスした慎太郎は、せっかくの機会と、ルビンに色々と
「兵をまとめる仕事というのは、どうかね」
「簡単ではありませんなあ」
ルビンは率直な感想を
「この国は地形に恵まれておりますゆえに、元々兵士なんてものはほとんどおらず、神殿の
「ふむ……そうなのか」
「ええ。ですが、この危機にあっては一般市民も兵として
「なるほど……」
「俺はよその国から来たんで、この国の『のどかさ』には
「ふむ。また、どうしてこの国に来たのかね」
慎太郎のもっともな疑問に、男は
「女を、追いかけてきたんですわ」
「ほう……」
実に意外であった。
先の肉体に加え、
特に先程のような笑顔は少年のように輝いていて、ほっといても女性が寄ってくるような魅力に
「いい女でしてね。
「思い切りがいいな、君は」
「ははは、大神官様もあちらでは身を固めているのですから、そこの
「ああ、実にその通りだ」
結婚して二十年近く
とはいえ、慎太郎は妻と普通に出会い、普通に付き合い、普通に結婚し、莉々に恵まれた。
ドラマチックな展開は何一つ無かったので、少しばかり物語性には欠けてしまうのだが。
そこで会話が不意に途切れる。
隣を見ると、湯煙の向こうで、男はやけに遠い目をしていた。
「ただ、死んでしまいましてね」
「……そうか」
「ちょうど
「そう、か。あれはやはり、
「ええ。まあ、
それは、慎太郎も肌で経験したものだ。
この地に召喚されてきた時、あの黒き獣達は馬車に追いすがり、荷台を破壊し、慎太郎達を
「……治療などは出来なかったのかね」
「軽傷ならば、カピツル神の力を使うことが出来る
「……すまない、辛いことを思い出させてしまったな」
沈痛な面持ちになる慎太郎に、ルビンは朗らかに笑う。
「お気になさらないでください。皆、このことは
変な考え方ですいません、と軽く頭を下げる男に、慎太郎は柔和な表情で返す。
「いや、いいんだ。君は過去と向き合いながら、未来へ歩いているんだな」
慎太郎はその生き様に、改めてこの男の器の大きさを感じた。
*
「それでは、せっかくですから、お背中も流しましょう」
断る
大きい男は勢いも違う。
慎太郎は苦笑しながらついていく。
言われるがまま座ると、その後ろにどっかりと腰を下ろしたルビンは慎太郎の背中をじっと見て
「おお、これはこれは。大神官様もなかなかの戦場を
「ああ、これか」
自分の背中を見ることなど
慎太郎には、背中に
あまりに大きいそれは、背中の中心から六割以上に渡り、実に痛々しい有り様であった。
「実は、いつこうなったか良く分からないんだ。
「ほう。ここまでのものになると苦痛もよほどか、それを感じないほどの状態だったか。こういうのもなんですが、生きているのが不思議なくらいですな。いずれにしても、災難でございましたなあ」
「まあ、そういうものだったのかな。何、痛みはないからそんなに気にはならないんだ。人に見せると顔つきが変わるから、それだけがちょっと申し訳ないんだが」
健康診断の時、毎回
医者にもよくルビンと同じように言われてしまうので、気にはなってしまうのだが。
ルビンは泡まみれの大きな手で
くすぐったいが、その優しい手つきはこの男なりに気を
「ですが、これを女達に見せたら、モテまするな」
「そ、そうなのか」
「ええ。ここでは傷は男の
そう言うと、
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