第六十八髪 高らかな 勝利の凱歌 咲く笑顔

 天馬はみ切った青い大空をゆるやかにけていく。

 荷台に乗るサイズまで小さくなったルピカは、クリームと共に丸くなって眠りに就いている。

 クオーレはそんな二頭の豊かな毛に埋まるようにして、軽くいびきをかいて眠っている。

 結界外けっかいがいでの彼らの戦いぶりは、まさに獅子奮迅ししふんじんの働きと言えるものであった。

 どれだけ感謝してもし切れない。

 エルはというと、御者台ぎょしゃだいうでを組み仁王立におうだちになって風を受けている。

 時折急に、ゲーッハッハッハ、と笑い出す。

 地下迷宮ラビリンスで出会ったの頃は耳障みみざわりに感じたそれが、今となっては少し心地良くすら感じられる。

 最後の仕事を終えた慎太郎はというと、横になり大巫女だいみこ膝枕ひざまくらをしてもらっている。

 頭部への代償だいしょうだけでなく、身体からだ節々ふしぶしも筋肉痛のような痛みと重たさが、一定間隔いっていかんかくで波のようにおそってくる。

 大巫女も力をほとんど使い果たしてはいたが、少し回復すると、慎太郎に手をかざし、少しでも回復を早めてくれている。

 慎太郎を見下ろす大巫女の表情はとても温かい。


「……」

「……」


 視線を合わせ続けるのが段々と気恥きはずかしくなり、慎太郎は無理やり身体を起こす。

 起き上がると、もうすでに都にほど近い、防衛線がかれていた辺りまで戻ってきていた。

 戦いの後は、大地に深い傷跡きずあとを残している。

 みにじられた土地は、一度れ果てた大地は、再生まで長い時間が必要だろう。

 もしかすると、慎太郎の頭のように、もう二度と豊かな地へと戻れない可能性すらある。


「大丈夫ですよ、慎太郎様」


 まるで気持ちをんだかのように、大巫女は同じ景色を見ながら、優しい口調で語りかける。


あきらめなければ、昔のように、草木が生いしげる豊かな地へと、きっといつかは、戻るんです。私はそう信じています」

「そうか。……ああ、そうだな」


 再び地上を見ると、そこでは将兵しょうへい達がせわしなく動いている。

 無事な人間はおそらく一人もいないだろう、各々おのおのが痛々しい姿ではあるが、残ったけもの掃討そうとう重傷者じゅうしょうしゃ搬送はんそうなどを行っている。

 だが、慎太郎達の姿を見つけると、元気な者は大きく手を振り、周りに伝えていく。

 空を見上げる彼らの表情は、一様に晴れ晴れとしていた。


「……慎太郎様、どうぞ」


 大巫女がおしぼりのような白い布を渡してくる。

 慎太郎はそれで顔をおおい、次から次へと目からあふれ出るものを必死にぬぐい取るのだった。


 みやこりると、それはもう、てんやわんやの大騒おおさわぎであった。

 老若男女問わず歓声かんせいを上げ、馬車にけ寄る。まるで優勝パレードだ。

 進行方向は開けてくれてはいるものの、皆、握手あくしゅを求められたり、荷台の空いているスペースには野菜や果物など様々な品が積み上げられていく。

 そして、周りを取り囲むのは笑顔、もしくは感極かんきわまってなみだを流している。

 間違いなく言えることは、そこに溢れていたのは感謝、であった。

 そんな多くの人と一つの想いを感じながら、慎太郎はふと空を見上げる。

 モノクロの世界は終わりを告げ、とても鮮やかな青がどこまでも広がっている。

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