誰れや詠む もうこんなにも ない地でも~頭頂部薄めのアラフィフは滅びゆく異世界を救うため、一句吟じます~

南方 華

第零髪 引き換えの 毛根何も 無い頭部

 全ての力を使い果たした男は、地面にひざと両手をつく。

 しばらくして、おもむろに頭上をあおぐと、空をおおかくしていた黒く厚い雲はゆるやかにほどけ、昼下がりの陽光が少しずつ地面へ降り注ぎ始めていた。


 ――ようやく終わったのだと、改めてそう実感した。


 そのままひとみを閉じ、こうべれる。

 すると、脱力した身体から、はらはらとソレは落ちていく。

 その様子はあまりにも物悲しく、残酷だ。枯れた大地に積み重なっていくソレが、男の戦いぶりを、選んだ生き様を雄弁ゆうべんに物語っている。

 そんな男の左肩にそっと、共に戦ってきた少女の手が乗せられる。

 後ろからそのように触れられるのは、10年前、当時の上司にされて以来だ。しかも、その後、男は転職を余儀よぎなくされている。


 まさに、トラウマ。


 だが、もしかすると。この優しく置かれた手ならば、あるいは──。

 覚悟を決め、おそるおそる目を開き、地面を見る。

 が。

 視界に飛び込んできたのは、代償としてささげられた数多あまたの毛髪であった。


「全部、抜け落ちてしまいました」


 少女は、身をさらに寄せると、耳元で切なげにそう囁く。

 の当たりにした現実に、今度は目からあふれたものがほおを伝い落ちていく。

 温かみのあるそのしずくは、荒涼とした大地をほんの少しだけ、うるおしていく。

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