あれから二年

第2話新学期

 ちゅんちゅんと聞こえる小鳥のさえずりから俺の一日は始まる。ぐっと背伸びをして布団から出ると、適当な冷凍食品をレンジに入れて温める。その間に干してあるワイシャツを取り出し、制服に着替える。その間約40秒。そして着替え終わると同時に、電子レンジもチンと音を鳴らす。朝の準備は最適に、最速に。それが俺の心がけているモーニングルーティーンだ。冷凍食品の鶏肉と炊いておいたご飯をすぐさま食べると、洗面所に向かう。まず歯を磨き、髭を剃り、そして金色に光る寝癖を整えると、それを隠すように目元までかかる長いカツラを被り、丸メガネをかける。

 これで準備完了。そう、俺には秘密がある。と言っても、そこまで大それたものじゃない。ただ単純に、ものすごく顔が整っているってだけだ。大きな瞳に、筋の通った鼻。透き通るような肌に、ぷっくらとした唇。そして178センチという少しだけ大きな身長。

 これが俺の秘密。俺はこの顔の良さを、高校生になってからずっと隠し通している。誰しもが羨ましがる容姿を、どうして隠しているかと疑問に思うかもしれないが、俺にとってこの顔は呪いだ。俺は自分の顔が嫌いだ……。母を亡くしたあの日から……。いや、多分それよりもずっと前から……。

 だから隠す。誰からも好かれず、関わらないようにするために……。

 家を出てから数十分。自転車に乗りながら、俺は春の肌寒い空気を身にまといながら呑気に通学する。今日は高校三年最初の登校日だ。高校一年生にとっては入学初日。入学初日というと、あの日のことを思い出す。俺の高校生活が壊れた……というより俺が自ら壊した日。あの日以来俺は嫌われ者を続けている。

 自分が望んだ結果に後悔はない。最近では言われ慣れすぎて、もはや他人の会話全てが俺の悪口なのではないかと思うほどになってきている。


「はぁ……」


 重い溜息が自然と口からこぼれる。憂鬱だなぁ。学校に行く前の俺は、いつもこんな気分だ。でも思い返せば、学校に行くとき憂鬱じゃなかった時なんか一度もない……。

 小学校、中学校、学校に行くのが楽しいと感じたことなんて、今の今まで一度もない。でもなぜだが嫌な気持ちというものは慣れない。人から嫌悪される苦しみも、大切な人を無くす悲しみも、嫌な気持ちというものは慣れることができない。

 

「はぁ……帰りたい」


 新学期早々、そんな独り言を漏らしながら俺は重い足を進める。












 

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