第6話

 「ハッハ ハッ」乾いた笑いを吐いた。

 今いる現実は悪夢だ。この状況はそう思わせる。


 今、燃料会館の前に立っている。


 時間を失った。

 徐々にこの現実を受け止める時、顔が伴って絶望に染まっていく。


 斎花は、殺される運命なのか。

 救えない命なのか。

 

 脱力感に打たれ、膝を道につけた。

 手が異常に震える。


 諦めたらどれほど楽だろう。

 美しくいるのも悪くない、そう思えてしまう。

 時はなのところまで走る時間はある。せめて最後まで彼女を見て死にたい。


    前を進んでください


 幻聴なのか、彼女の声が聞こえた。


 「前へ進め」自分にそう言い聞かせた。

 深呼吸をし、立ち上がった。

 前へ進むんだ。


 すぐに考え始めた。

 門亜力は逃げられない、なぜなら問題は解く物だから。

 俺は少しだけ時間を操れられる、だがその分の代償は大きい。

 大博打だが、勝算はある。

 俺は考えをまとめて、行動に移した。


 目的達成するため、できるだけあの爆弾に近づけなければならない。

 ここ一帯で一番高い建物であり、一番あの爆弾に近い堅牢な建物。

 広島産業奨励館しかない。

 一か八か、試してみるしかない。

 そう決めた時、急いで走っていった。


 頭の中では奨励館の構図を考えていた。

 確かドームの中心にあるのを覚えている。

 死の商人になる前はよく商品を見にいったのを思い出す。

 今は行政機関になっているはずだ。


 チック チック チック


 秒針の音が聞こえ、焦りが再び戻った。

 端を曲がり、奨励館が目の前に見えた。

 扉の前へ立ち、コンコンと叩いた。

 一瞬だけ隙を作ればいい、それから中に入って誓うにある階段を登ればいい。


 「なんでしょう」

 中にいる人が扉を開いた。

 

 「蒔田と申します、蒔田商店のものです」

 そう言いながら名刺を相手に差し出した。すぐに名刺を出したから、相手もとっさに手を出し、名刺を受け取ろうとした。

 しかし俺は相手の隙間を通り抜け、すぐに階段へ向かった。

 業務員は驚き、反応が遅れた。


 「お、おい!まて!」

 背後に声が聞こえたが、すぐに遠ざかる。

 さっきまで走っていて披露しているが、俺には数秒のハンデがある。


 「ハァ…ハァ…」

 しかし五階を一気に登るのは流石に残りわずかの体力では対処できない。


 チック チック チック


 それでも登り続ける。


 「まて!」

 後ろからの声がだんだん強くなっている。今度は複数の足音とともに迫っている。

 足が疲れではなく、痛みより強調されてきている。


 五階に立った時、達成感とともに脱力しそうになったが、まだ戦いは終わっていない。

    

    タタタ     タタタタタタ

     タタタタタタタタタタ   タタタ

  タタタタタ     タタタタタタタ


 足音が近づいている。


 「おい!」

 窓を抜けたところで彼らは俺が異常なところにいると気付き、目を見開いた。

 だが呆けた彼らの顔を無視し、俺は屋根を登り始める。

 彼らは俺を窓から見ているが、登ろうとしない。当然だ。五階から落ちたらひとたまりもない。しかも命令を聞かない異常者がいる。戦うことになったら落ちる確率が上がる。

 できるだけ高いところに行き、ドームに寄り掛かった。


 チック チック チック


 懐中時計を握り、B-29へ掲げた。

 B-29が少し遠ざかると同時に、あの爆弾が落ちてくるのを見えた。

 ここらは米粒のように小さいが、本当は俺よりもでかいはずだ。

 

 チック チック チック


 あの爆弾に手を掲げた。

 「止まれ!」


 チック チッ チ チ チツ チッチッチッ ッチッチッチ


 「うっ」時計が狂い始め、何か異様な圧を感じた。


 「ゔああアアアアア!」

 次の瞬間、全身が燃える感覚に襲われた。


 だが手を挙げ続け、必死に願い続けた。

 

 広島を、

 斎花を、

 助けるため。


 あの爆弾は空に止まり、少しだが、所々崩れているように見える。

 錯覚かもしれないが、天から金色の鎖が爆弾を捕捉しているように一瞬見えた。


 体の痛みが増し始め、脳がやめろと訴えるが、続けようとした。


    ヂヂヂヂ ヂッ ヂッ

   バッキ  キッ  キッ チッチ

  チチヂ チッチヂ


 しかし懐中時計の針と共に、時計の硝子ガラスが割れている音をし始めた。


    パキンー


 そして、懐中時計が、壊れた。


 爆発音すら聞こえなかった。俺の体は一瞬で消滅してしまったからだ。




 不思議な気分だ。自分の体が見えないが、まだ思考が続いている。白のような、黒のような、よくわからない空間にいる。何も感じない、何も感じないから異常なほど冷静でいられる、無感情。俺はそれ感じているのかもしれない。何も感じないが、なぜか疲れている感覚が強くある。休みたい、寝たい、ない体が訴える。


 チック チック チック 


 だけど俺は思い出した。

 まだ、また、斎花を助けられなkった。

 それを思い出した途端、後悔と焦りが俺のなかを掻き立てた。

 焦りと共に、また体が見え、懐中時計を握った手が視界に入った。


 チッ ク   チッチ  ク   チック


 手を少し開け、懐中時計の状態を見てみた。

 少しひび割れて、不規則な音を鳴らしていたが、まだ使えることができていた。完全に壊れていると思ったが、どうやら神様は挽回する機会を与えて倉田ようだ。


 力強く言った。

 「ありがとう」

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