第4話

 目を開けると賑やかな大通りに戻っていた。奴は結局なんだったのか。神か、幽霊なのか。もしかして懐中時計の付喪神かもしれない。しかし深く考え始めた時、大切なことを忘れているのに気付いた。

 斎花は大丈夫なのか。

 

 すぐに斎花の元へ走り出した。

 彼女を助けるため。


 息が切れるまで走っていたら、やっと斎花の後ろ姿を見つけた。


 「斎花!」

 急いで彼女に追いついた。

 

 「あなたは何も学ばないんですか」俺に気づいた斎花は冷たい声で言った。

 「空爆だ!もし地下に行かないと全員死ぬ!」叫ぶよう斎花に訴えた。

 「そのような嘘ついて私を引き止めようとするとは、戸塚さん、見損ないました。」

 「本当だ。B-29がすぐにくるんだ!今行かないと確実に死ぬ」

 「その話は誰が信じると思うのですか!」

 「信じてくれ!」

 斎花は哀れみと失望の目で俺をみた。そしてそのまま前を向き、歩き始めた。

 とっさに彼女の手をつかもうとした、でが彼女は簡単に振り解いた。

 「お願いだ!俺を信じてくれ!」

 「もう止めて下さい。もう終わったんです」

 手をまた伸ばそうとしたが、知らない男が俺の手を握った。

 「何やってんだ手を離せ」苛立ちを隠さず言い放った。

 「お前とこの嬢ちゃんとの関係はよく知らんが、嫌がっているだろ。もうやめたらどうだ、見苦しいぞ」

 「離せ。お前には関係ない」手を振り解いながら言った。

 だが周りにはすでに野次馬が俺と斎花を囲んでいて、すぐに他の男達が俺の前を阻んでいた。

 「どけ!全員ここにいたら空爆で死ぬんだぞ!」男達を退けようとしながら叫んだ。

 だが手足を一瞬に塞がれ、身動きが取れなくなった。

 「離せ!」

 「兄ちゃん一旦冷静になれ。誰もお前を信じちゃいない」

 「全員ここで死ぬんだぞ!」

 「だから落ち着け」

 

 チック チック チック


 「もう時間がないんだ!」


 チック チック チック


 その瞬間、死ぬほど眩しい光がここにいる全ての人を襲った。

 すぐにくる熱気に身構えたが、体が溶けるほどの熱には会わなかった。


 チック チック チック


 ただ針の音だけが鳴っていた。

 とっさに閉じた目を開けると、信じられない風景が目の前にあった。

 時間が止まったように全員微動だにしない。

 さっきの夢のような感覚だ。頭がよくまわらないし、見ているもの全てに靄がかかっているようだ。


 俺はとにかく彼女のところまで急いだ行った。


 とても不気味だ。止まって逸人たちは光に襲われている状態のままでいつ。苦悶の表情をしながら止まっている、だが彼らはまだ地獄の始まりだと気付いていない。

 だが走り続ける、彼女を救うため。

 

 見つけた時には安堵した。他の人と違い、彼女は後ろを見ず、前を向いたままだった。そのおかげで彼女はあの光を直視することはなかった。

 すくしづつ近づき、恐る恐る彼女に触れようとした。


 儚げな彼女の頬を触れようとした、しかし空気のように、俺の手は彼女を通り抜けた。

 まるで俺が幽霊のようだ。


 「ハッ…ハハ ハ ハハハ」乾いた笑いを俺は吐いた。


 何もできなかった。

 彼女はここで死ぬんだ。

 俺の愚かな行動のせいだ。


 「スーハー スーハー」落ち着くために深呼吸をした。

 

 まだ終わりではない。

 まだ救える。

 また彼女を救える。

 諦めたら死ぬんだ。


 チック チック チック


 間違ったところを学べ。

 同じ間違いはするな。

 彼女を救うために。


 チック チック チック


 彼女の輪郭を反るように手を添えた。

 熱も寒さも感じない。

 だが、一瞬だけ自分を騙せたような気がした。


 チック チック チック


 目を閉じて言った。

 「絶対に、死なせない」


 チック チッ チ チ チ チチチチチチ

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