第2話

気づいた時には大通りにいた。

 「何が起きたんだ」掠れた声で言った。

 「俺は死んだはずじゃ」そう言おうと思った瞬間、さっきまでの記憶を思い出そうとすると、体が震え始めた。

 あの痛みは本物だった、あの地獄ののような世界は決して夢ではない。

 体が錯覚しているのか、体中に熱と痛みを感じる。

 吐き気がする。咄嗟に口を押さえるが、胃にある物を大通りで吐いてしまった。

 

 あの爆弾からとにかく逃げなければ。

 近くに地下にある部屋はあるのかと記憶を探る。

 

 燃料会館。


 資料を保管している地下室があるのを思い出した。燃料を扱う機械を売る事があるから、何度か資料を見て地下室へ行った事がある。

 安全な場所があると分かった瞬間、無我夢中に燃料会館まで走った。


 「あっ。蒔田さん今日はなんで燃料会館に。」燃料会館に着いた時、従業員が言った。

 「空爆だ。でかいやつだ。」息を切らしながら言った。

  そう言ったあと、従業員の顔が青くなった。そして皆に知らせるため大声で言った。

 「空爆だ!地下室へ行け!」

 彼が言った瞬間、急いで地下室へ行った。


 地下室は広く、燃料会館にいる四十人ぐらいが余裕に入られた。

 とても多いが、全員沈黙を保っている。だから上からB-29の音が強く聞こえる。

 全員薄々アメリカが空爆を仕掛けてくるのを気付いていたのだろう、最近よくB-29をよく見かける。そのおかげで全員速やかに地下室へ行けたのだろう。


 しばらく沈黙が続くと、ある違和感に気付いた。

 斎花は大丈夫なのか。

 ひどい目眩と頭痛を感じた。

 斎花は大丈夫なのか。

 斎花は大丈夫だ、彼女なら安全な場所を見つけられるだろう。自分にそう言い聞かせた。

 

 ドン


 大音と衝撃が地下室に鳴り響いた。


 沈黙がまた流れる。 

 その沈黙の中、ひたすら彼女が無事だあると願った。


 地下から出た時、燃料会館の中は無残な姿だった。だがそれは外と比べて大した事ではなかった。外を見て言葉を失った。


 地獄図だった。

 空は黒く、まだ燃えている家が遠く見える。

 周りはブリキか石でできている建物しかない。

 その建物も今にも崩れそうだ。


 あの爆弾一つでここ一帯を更地にした。

 また目眩と頭痛がした。だが今度は肌が小さな針に刺されている感覚にあった。耐えきれず、そのまま下に吐いてしまった。

 だが残りわずかの力を使い、走り出した。


 斎花は大丈夫なのか。


 俺は彼女と最後に別れた場所まで走った。

 彼女ならきっと。

 きっと。


 本川は水も見えないほどに死体が積み上がっている、大通りには数多くの焼死体や大火傷を負って今でも死にそうな人が大勢いる。空気は土と燃えた肉の臭いで汚れている。

 だが俺はそれを無視して、斎花を探し続けた。

 彼女はどこにいるんだ。

 そう思った時、道のど真ん中にある一人の体に違和感を抱いた。

 走るのを止め、ゆっくりとその体まで歩いた。


 「いっ。いっつ。いつ…か」空気を吐くような声で言った。

 その体は深い火傷に覆われ、彼女の着物が肌にひっついている。

 顔には乾いた血がこびりついている。


 ………


 息を確かめるため、耳を斎花の口に近づけた。だが彼女は静かだった。


 「斎…花…」

 弱々しい声で彼女の名前を呼んだ。


 そして俺は叫んだ。

 懺悔を延々と続き。心を引きちぎる刃物を受け入れ。償いと称し、頭を道に何回も叩いた。


 時間を忘れるほどに悲しんだ。


 チック チック チック


 そして俺は。


 チック チック チック

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