今まで

西東秋本

第1話


 「なんでだめなんだ!」蒔田まきた戸塚とつか沓名かずな斎花いつかに言った。

 「あなたは身を削り。そして軍と必要以上に関わった。」斎花は少し震えながらも、堂々と返事を返した。

 「あともう少し待ってくれ、もうすぐ軍との契約が終わる。金も身分の差を補えるほどある。お前のお父さんだって承諾してくれるさ。」

 「その金は稼げば稼ぐほどあなたの噂は酷くなっていることを気づかないの!」

 「全部君のためのやったんだ。信じてくれ、戦争が終わったら軍との商売から手を引く。約束する。」戸塚は斎花との間を少しずつ詰めていく。

 

 パシン


 斎花の手が戸塚の頬を当てた。戸塚は痛みよりも斎花のとった行動に驚き。呆然としている。

 「私は昔のあなたが好きだった。正直言って私はお金のことはどうでもよかった。あなたの優しく真っ直ぐな目は今はもう酷く歪んでいる。あなたは私が知っている人じゃない。」

 斎花は戸塚を真っ直ぐ見つめ、背中を向け、戸塚から遠のくように逆方向へ歩いて行った。




 気付いていた時にはひたすら走っていた。人が混んでいる大通りを抜けて、ひたすら走った。理由はなかった、ただ止まったら「ナニ」かが来るのを感じた。忘れるために俺は走っているのか。俺にはわからなかった。ただいまを逃げたかった。そう思っている途中、空の上にB-29があるのを気付いた。最近はよく空の上で見かけているな。


 現実逃避している時、ある違和感を感じた。B-29が何かを落としたのを見た。爆弾か。そのまま呆然と立っている時、爆弾は爆発した。

 だが、ただの爆弾ではなかった。

 考える前に俺の目はとてつもない光の量を浴び、視覚を失った。絶叫しようとした瞬間、体が溶けるような熱に当たった。実際に溶けてるかもしれない。声を出そうとしたが、喉が燃えてしまった。

 

 ああ死ぬんだ。地獄のような熱の中、俺はそう悟った。

 だが死ぬ前に思った。斎花は無事なのだろうか。


 チック チック チック


 走馬灯のような感覚にあった俺は、ポッケトの中に入っている懐中時計の音が聞こえた。

 暗闇と獄熱の中、俺はひたすら願った。

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