第20話 九月下旬の連休。

 九月下旬の連休になり、家族で温泉に行く……はずだった。


 ピピッ、ピピッ。


「三十六・六度。うん、熱は下がったね。美希さん体調はどう?」


「頭はフラフラするけど、だいぶ楽になったよ」


 美希さんは連休初日に体調を崩して熱を出した。なので温泉旅行は中止になった。


「美希さん、ご飯食べれる?」


「うん。食べる」


 ベットから上半身を起こす美希さん。


「フーフしてね。はい、あーん」


 俺は、お昼ご飯のあったかいうどんを美希さんに食べさせる。


「ふーふー。……おいしい」


「よかった」


 美希さんは用意したうどんを半分食べてご馳走様した。


「次は薬だね。はいお水と薬」


 美希さんは薬を口に入れ水で流し込む。そしてベッドに寝た。


「一護君」


「何?」


「ゴメンね」


 美希さんは切ない顔で俺を見つめている。『ゴメンね』にはいろいろな意味があるのは分かっている。


「謝るのは俺の方だよ。美希さんに頼りすぎていた。ゴメン」


「うんん。私は雇われメイドだから気にしなくていいよ。体調管理出来なかった私が悪いんだもん」


「確かに雇われメイドだけど、美希さんは家族だよ。そして俺の大切な恋人だよ」


「……ありがと」


 そう言って微笑む美希さん。


「後片付けしたら戻ってくるから」


「ずっと一緒にいたいけど……確実に病気うつるよ」


「大丈夫。マスクしてるから。それと、俺は病気をした記憶がない。つまり病気に強いって事」


「ふふ。一護君は丈夫なんだね。私もマスクするね」


 一旦美希さんの部屋を出て後片付けをして、美希さんの部屋に戻った。かあちゃんも看病をしたがっているが、病気がうつるといけないので俺一人で看病している。


「お待たせ……って、寝てるか」


 部屋に戻ると美希さんは寝ていた。日頃の疲れが溜まっていたのだろう。


 俺は美希さんのすぐ近くの床に座り、彼女の寝顔を眺める。


 ……寝顔、めちゃ可愛い。……はぁ、俺って美希さんにベタ惚れだなぁ。いつからだろうなぁ。


 最初は遠い存在だった。その頃から好きと言えば好きだったのかもしれない。


 一緒に暮らし始めて美希さんの魅力にやられてしまった……。


 ◇◆◇


 ……ん。あれ? いつの間にか寝てた? 美希さんは……いない。


 部屋を見渡しても姿がない。トイレかな?


「あっ、一護君起きたんだ」


 美希さんが部屋に戻ってきた。聞くとシャワーを浴びに行っていたらしい。


「体はどう? 大丈夫?」


「うん。もう大丈夫だよ。ありがと」


 微笑んでいる美希さんの顔の血色も良くなっている。


「一護君」


「何?」


「病み上がりの私にハグとチュウはダメだよ。確実にうつるよ」


 おっふ。俺の次の行動を読まれてしまった。


「う、うん。我慢します」


「あはは。一護君かわいい。一週間は我慢してね」


「あい」


手で口を隠して笑う美希さん。くそう。抱きしめたい。


 はうぅ……。一週間かぁ。遠いなぁ。でも我慢しないと。美希さんに嫌われたくないからなぁ。

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