第12話 鼻に胡瓜。

 八月下旬の午後。快晴。今日は田尻凛子さんが家に来ている。


「おりゃぁ。——やっとやっと宿題終わったぁ」


 凛子さんの宿題が終わった。最後の仕上げを俺と美希さんで手伝った。


「二人ともありがとね。こんなに早く終わったの初めてだよ〜」


 嬉しそうな凛子さん。『早く終わった』って言ってるけどもう下旬だよ。


「良かったね」


「うん。美希ちゃんありがと」


 美希さんと凛子さんはこの夏休みでかなり仲良くなった。


「ところでお二人さん。どこまで行ったんだい?」


「どこまで? 何の事?」


 凛子さんの唐突な質問。俺は質問の意味は理解していた。だけど意味が分からないフリをした。


「凛子ちゃんの想像しているところまで」


「み、美希さん⁉︎」


 俺がとぼけていると美希さんがしれっと答えた。心臓が止まりそうになった。


「そ、そうなんだ。まさか教えてくれるとは思ってなかった」


 凛子さんは美希さんの返答に少し驚いている。質問した本人なのに。と言うか何処まで想像してるの?


「だからね、凛子ちゃんの入る隙間は一ミリもないよ」


「え〜。美希ちゃん大丈夫だって。私って信用ないのかな〜。一護は取らないよ〜。と言うか私はもう一護の事を恋愛対象として見てないから。

 今はもう一護よりも美希ちゃんの方が大好きだよ〜」


「え? 私の方が大好きって……ごめんなさい。百合は無理だよ。それに私は一護君一筋だしね」


「え? いやいやいや。そんなのじゃないって。私も男の子が大好きなの。美希ちゃんは大切な親友って言いたかったの」


「ふふ。分かってるよ〜。ありがと。嬉しい。でも男の子が大好きって事は凛子ちゃんってビッチ? ビッチだからおっぱい大きいの?」


「おっぱいは遺伝だから。私はビッチじゃないもん。二人みたいに経験ないもん。まだだから。キスだってした事ないもん。彼氏も生まれてから今までいないもん」


 美希さん……凛子さんのおっぱいに嫉妬してるの? そして凛子さんがまさかのカミングアウト。


「そうなんだ。じゃあ何故『どこまで行った』って聞いたの?」


「それは興味があるからだよ〜。やっぱり痛いの?」


「ん〜。痛みは人によると思うよ。私は少し痛かったかな。例えると鼻に胡瓜きゅうりをグイッとかな」


 ちょっとぉ〜。美希さん赤裸々になんて事を言ってるのぉ〜。男子がココにいますよ〜。


「そっかぁ。う〜。私には無理だぁ」


「美希さん、凛子さん。俺がいるのにどうして平気でエロトーク出来るの?」


 凛子さんが俺を見た。


「さっきも言ったけど、私は一護を恋愛対象から除外しているからだよ。もう男の子として見ていないからね。気取らなくていいから楽だよ〜」


 そうっすか。なるほど。


「私は一護君の事を信頼しているから。エッチな話をしても私と凛子ちゃんの事を嫌いにならないと思ってるから。それに女の子のエッチトークが聞けて嬉しいでしょ?」


 と言って俺に微笑む美希さん。あなたは小悪魔ですか? まぁ、うん。嬉しいです。


 それから二人は話に花を咲かせいた。聞いているこっちが恥ずかしい。


 ◇◆◇


「もうすぐ夏休みも終わるね〜。二人は花火大会に行くの?」


 毎年夏休み終わり間近に近所の河川敷で花火大会がある。去年は凛子さんと行ったなぁ。もう一年が経つのか。早いなぁ。


「一護君、行く?」


「そうだね。せっかくだから行こうか」


「うん。嬉しい。凛子ちゃんも一緒に行こっ」


「私は遠慮しとくよ〜。二人の邪魔したくないし。一人だと寂しいしね。友達はみんな彼氏持ちだし」


「あっ、ごめんなさい」


 美希さんが凛子さんに謝った。


「気にしなくていいよ〜。何処かにいないかな〜。私の王子様」


「一護君のお友達で一緒に行ける人いないの?」


 美希さんが俺に尋ねる。


「ごめん。俺はプライベートで遊ぶ仲のいい友達はいないんだ……」


 そう。俺は学校で話をする程度の友達はいても、プライベートの友達はいない。美希さんと凛子さんがちょっと羨ましい。


「大丈夫だよ。私がずっとそばにいるからね」


 そう言って微笑む美希さん。俺は切ない顔をしていたのかな?


「あっつ。この部屋あっつ。冷房効いてない。故障してるよ」


 凛子さんのからかいに美希さんは笑った。仲良がいいのは素敵だね。


「でもさ〜。凛子さんってモテないの? 部活は陸上部だよね。男子もいるから告白とかされないの?」


 俺は凛子さんに聞いてみた。美希さんほどではないけど凛子さんも美少女だ。おっぱいも大きくスタイルもいい。モテないはずはない。


「う〜ん。告白は何回もあるけど、断っていたんだよね」


「どうし——」


 あ、凛子さんは俺の事を好きだから断っていたのね。たぶん。


「一護、いま悟ったね。そうだよ。その通りだよ。でもね、それだけじゃなく一護に比べてみんなお子様なんだよね。ナルシシズムを感じるんだよ。自然体じゃないから気持ち悪くて」


 なかなか辛辣な凛子さん。素敵な人が現れると良いね。


「話が逸れたね。だから二人で花火大会行っておいで。私は家でまったり過ごすよ〜。去年は一護と行ったから満足してるし」


「え? 去年は一緒に行ったの?」


「——あっ、もうこんな時間だ。帰ろぉ〜と。また明日〜」


 凛子さんはそそくさと後片付けをして部屋を出て帰った。


 ……逃げたな。


「一護君」


「はい」


「去年の花火大会楽しかった?」


「う〜ん。どうだろ。たこ焼きが美味しかった記憶しかない」


 美希さん、もしかしてヤキモチ焼いてる?


「うー。今年は絶対絶対、ぜーったい行こうね」


「うん。絶対に行こうね」


 俺は隣で頬を膨らませているメイド服姿の美希さんの頭を撫でた。ふふ、花火大会が楽しみだ。



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