第13話 花火大会へ行こう。

 今日は夏休み最後のイベント、近所の河川敷で花火大会。屋台も多数出店される。


 現在の時刻は午後六時三十分。花火打ち上げは午後八時。


 今日は快晴。風も無く絶好の打ち上げ日和。と言っても俺は見る側だけどね。


 そして今は美希さんの浴衣の着付け終わり待ちでいつもの畳の部屋にいる。俺は普段着。


「一護、お待たせ」


 美希さんの着付けをしていたかあちゃんが先に畳の部屋に来た。


「結構な時間がかかったね。美希さんは?」


「いや〜、素材がいいと気合が入るね。可愛すぎて驚くよ〜。美希ちゃんおいで〜」


 かあちゃんハードル上げすぎなのでは? そんなに変わらないとおも——


「お待たせ。どうかな」


「美希ちゃんその場でクルッとまわってみて」


 かあちゃんの言われるがままにゆっくりとまわる美希さん。


「どうどう? 美希ちゃんすごく可愛いでしょ? 化粧も薄くしてみたんだよ」


 美希さんは長い髪を編んで後ろでお団子にしている。普段見えないうなじが見える。浴衣も紫陽花柄のピンク色で——


「かわいい……」


 俺はボソッと呟いた。


「ありがと……」


 美希さんは恥ずかしそうにお礼を言った。


「ムフフ」


「な、なんだよ、かあちゃん」


「いやぁ〜去年の花火大会の時、凛子ちゃんを着付けした時は『ふ〜ん、いいんじゃない』って素っ気なかったのにねぇ」


「う、うるさい」


「え? そうなんだ。えへへ」


 美希さんは嬉しそうに笑った。まぁ、うん。美希さんが嬉しいのならいっか。


「じゃあ、そろそろ出ようか」


「うん。お母様行ってきます」


「はい、いってらしゃい。お土産はたこ焼きでお願いね」


「分かった」


「それから寄り道せずに帰ってくるのよ。途中神社のうしろとか、多目的トイレとかに行ったらダメだからね」


 ん? かあちゃんは何を言ってるんだ? 家と河川敷の間にそんなの無いけど?


「お母様……」


 美希さんが何故か恥ずかしそうにしている。はて?


 ——あっ!


「かあちゃん、子供に変な事言うなよ」


「へぇ子供ねぇ」


 かあちゃんはニヤニヤしている。


「い、一護君、花火大会に行こっ」


 美希さんはかあちゃんの攻撃に耐えられなかったのか出発の催促をした。


「じゃあ行ってくるよ」


 俺もかあちゃんのおバカな発言にこれ以上付き合う必要はないと判断して美希さんと部屋を出て外へ——。


◇◆◇


「美希さん、ごめんね。かあちゃんがアホで」


「ううん。お母様と一緒だと楽しいから好き。恥ずかしくなる時もいっぱいあるけどね」


 ニコッと微笑む浴衣姿の美希さんに見惚れてしまう。


「一護君」


「はい」


「手を繋ぎたい」


「うんいいよ」


 差し出された手を握った。何故だろうドキドキが止まらない。


「恋人つなぎをしたいな」


 美希さんのリクエストで普通の手繋ぎから恋人繋ぎに切り替えた。美希さんが嬉しそうにニコッと微笑んだ。


 手を繋いだまま河川敷を目指して歩き出す。周りにも花火大会に向かう人達。みんなが振り返り美希さんを見ている。


 しばらく歩いて河川敷に到着。近くの運動場に屋台が沢山出店している。


「美希さん何か食べる? それとも何か遊ぶ?」


「えっと……金魚すくいしたい。一度もやった事ないから」


 美希さんのリクエストで金魚すくいの屋台に移動した。


「一回三百円……高いね」


 金魚すくいの値段を見てボソリと呟いた美希さん。


「おじさん一回やります」


 俺は屋台のおじさんに三百円渡してポイを貰った。


「はい美希さん」


「あ、ありがとう」


 美希さんは申し訳なさそうに受け取りながらもポイを見て嬉しそうにしている。


「やり方分かる?」


「それくらい分かるよ。いつも見てたからね」


 そう言って美希さんはしゃがんだ。おわんを近くに寄せて水に浮かべている。そして金魚を狙い——


 ——パシャ。


 金魚をポイに乗せたが、あっけなく破れ金魚すくいが終了した。


「はぅぅ。難しいよぉ」


「もう一回する?」


「ううん。一回で充分だよ。一護君ありがと。楽しかったよ」


 そう言って立ち上がる美希さん。物足りないはずなのに遠慮してるなぁ。


「次はどこに行く?」


「う〜ん。お母様のたこ焼き買って、花火の場所取りしよっ」


「分かった」


 すぐ近くのたこ焼き屋さんでかあちゃんのお土産を買って運動場から少し離れた芝生へ移動した。


 ◇◆◇


「人多いね。何処か空いてないかな〜。——あ、あそこ空いてる。一護君行こっ」


 美希さんが俺の手を取り連れて行く。


「美希さんちょっと待って」


 目的地に到着して芝生に座ろうとした美希さんを止めて、ポケットからハンカチを出して敷いた。


「ありがと〜」


 美希さんが座り、俺は肩が触れるゼロ距離の隣に座る。お尻が芝生でチクチクしてちょっぴり痛い。


「花火楽しみだね」


「そうだね」


 俺は美希さんと手を繋いだ。無言で微笑む美希さん。


『お待たせしました。只今より花火の打ち上げを始めます』


 しばらく他愛もない雑談をしていたらアナウンスが流れた。


 ——ドォォォン。


 一発目の花火が打ち上がった。歓声がいたる所からあがる。


 立て続けに打ち上がる花火。美希さんは花火に集中している。その横顔がとても美しい。


「一護君、綺麗だね」


「うん。綺麗だ」


 ◇◆◇


 十分ほどで花火の打ち上げは終わった。


「ふぅ。凄かったね」


「そうだね。じゃあ帰ろっか」


「うん」


 俺が先に立ち上がり、美希さんの手を取る。


「よっと。えへへ」


 満足そうな美希さん。繋いだ手はそのままにハンカチを拾い俺たちは家路についた——。

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