第13話 ts若女将は修行中

 一端帰宅した後に、俺は再び旅館に戻った。

 今度は客としてではなく、この旅館のアルバイト従業員としてーー。

 はっきり言って厳しかった。甘かったといえるかもしれない。

 何せ今までバイトもやってこなかった俺がいきなり住み込みのバイトだ。

 伯母さんは、俺を特別扱いはしなかった。

 我が子の静香でさえ、あそこまで厳しい処置をとるのだから、それはわかっていた。

 仕事のやり方から、挨拶接遇、気配り、言葉遣い。

 朝早く起きて、夜までーー。

 たくさんのことをたたき込まれたし、俺自身もミスをした。

 逆に静香に慰められたこともあった。

 静香のグチをきいたこともあった。

 掃除洗濯物、片づけ。

 皿洗い。

 下積みの仕事をこれでもかというぐらいに、担わされた。

 夏休みは、あっという間だった。

 その分アルバイト料は、びっくりするぐらい貰えたが。 


 そしてその間、静香の変わりっぷりにも驚かされた。

 自分のことを理解できる相手がいるのは、それだけで違うのだろう。

 すっかり仕事にも、立場にもなれていった。

 夏休み最後の日。

 またバスに乗り込む時に再び二人で約束した。

「夏休みが終わっても、来年も来てやるからな」

「う、うん……」

「戻る方法を考えてやる」

「期待しないで待ってるよーー」 

 今度は追いすがって来ずに手を振った。

 静香も何か、胸の中の黒いものがはれたように、明るくなっていた。



 翌年ーー。

 再び俺は温泉街を訪れるために電車に乗っていた。

 またバイトをするためにーー。

 去年、住み込みバイトから帰ったら両親は俺の顔つきが変わった、成長したと感心していて、伯母さんにお礼の電話をしていた。

 社会勉強になるとして、今年のアルバイトも歓迎してくれた。

 今、電車に乗って都会とは違う山や畑、時折民家が見える景色を眺める。

「次は~双葉山温泉」

 同じ列車に乗り合わせた観光客が一斉にごそごそと下車する準備を始める。


「ふう……疲れた」

 何時間も鈍行列車に乗ったため、座っていたとはいえ、疲れはあった。

 荷物を抱えて、木造の駅舎から改札をでると、のどかな田舎町の光景が広がる。

「久しぶりだな、この景色も」

 一台、客待ちのタクシーが待っているが、人影はまばらだ。

 ぞろぞろと他の観光客は送迎バスの待つターミナルへ向かう。

 夏の暑い日差しだけが照りつけている。




「良太!」


 自分を呼ぶ声がした。

 声からして少女の声だった。透き通るような綺麗で元気な声だ。

 振り返って、声の主の方を向いて、俺は目を見張った。

 俺に向かって手を振っていたのは、そんじょそこいらにはいないような黒髪の美少女だった。

 白いワンピースを着て、肩まで伸びた髪を三つ編みにしてまとめている。

 可愛い。

 それが静香であると認識するのにしばらく要した。

 一年前まで、お子さまでまったく感じることの無かった少女だった。

 なのに、すっかり体は成長していたーー。女としてーー。

 

「し、静香か?」


「うん、久しぶりーー」

 今更ながら、静香の家系は美男美女であり、静香も、それを受け継いでいることを思い出させる。

 身長も伸びたのもあるが、一番目を見張るのは体つきであった。

 胸もほどふく膨らんでいる。

 ウエストも細くしまり、お尻も大きくなっていた。

 そして太股もむっちりーー。

 女の色香を漂わせていた。

 もろ俺のストライクゾーンに入る、そのいい女っぷりに思わず見入ってしまった。

「ふふ、何みてるのさ、このエロがっぱ」

 俺の視線を笑う。

 ひょっとしてこのいささかあざといファッションも、狙ってのことなのだろうかと邪推した。

 もろ俺の好みである。

「し……しまっ」 

「ふふ、良太も男だな」



 バスに乗り込むと幸い他に乗客はまばらだった。

 到着したら、アルバイト開始だ。当然、無駄話もできない。なので、それまで静香と会話した。

「今日は仕事はどうしたんだ? 仕事無いみたいだな」

 バスから窓の外を見ながらペットボトルのお茶を飲む。

「うん、今日は生理休暇だから」

「ほごっ」

 お茶が気管支に入り、ごほごほとむせる。

 その様子に、悪戯が成功した子供のように、笑みを浮かべていた。

「うちはそういう制度は、しっかりしてるんだ」

「ごほ、ごほ……」

「少しびっくりした?」

「せ、生理って……あれか、あのやつか」

「それ以外に何があるの?」

「いや、だって、お前もともと……」

「今のわたしは女だからね。きてたっておかしくないでしょ? まあわたしは、そんなに重くないから、こうやって出歩いてけるんだけどね」


「見てみる? ちゃんとナプキンも今、当ててるから」」

 ワンピースの裾を少しめくって。

 破壊力があがっている。

「結構マニアには、垂涎ものなんだよね」

「俺はそこまでマニアっくな嗜好は持ってないーー」

 手で抑えてやめさせた。他の乗客に見られるとまずい。


 女であることにも慣れ、男の心身のいろはも知っている静香は少し厄介な存在になったかもしれない。



「伯母さんは元気か?」

「うん、元気も元気。近所の旅館をまた一件買収したし」

「すげえな……」

 まったく辣腕ぶりには恐れ入る。

「覚えなきゃ行けないこといっぱいできたし、良太も大変だねーー」

「そりゃ静香もだろ」

 胸を反らせる。

「ふふん、ちょっとは立場も変わったから。今は新人を教える立場なんだよ」

「ほんとうかよ……」

「良太も、びしばし鍛えるからね」

「お、俺は新人じゃねえだろ」

 だが、そのことを聞き入れたかどうか知らないが、ふふ、と笑った。

「あ、そろそろ着くよ。ほら、ここが4月にできたばっかりの新館ーー」

 静香が、窓の外のぴかぴかの建物を指す。

「また変わったなーー」

 考えてみれば、そもそもは、静香を元に戻して借金の件を許して貰うはずだった。

 だが、戻りたいかどうかはそのことは今はとりあえず置いといていいようだ。

「さあて、明日からまた一緒に頑張ろう、良太」

 静香の様子を見ると、今年はまた一層厳しくも充実した夏休みになりそうだ、と俺は確信していた。

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秘湯旅館のTS若女将は修行中 安太レス @alfo0g2g0k3lf

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