第8話 まさか、この子があいつ!?
「ここ座ってくれ」
キョロキョロ辺りを見回して誰もいないことを確認した後、
神社の境内の傍らに、あったベンチに俺と彼女2人腰掛けた。
「……結構美味いな。昔もっと食べとけばよかった」
片手の串焼きをついばんで、何か
でも、俺は何を話したら良いかわからない。
今まで彼女なんてなかったどころか、親しい女友達すらいなかった。
いきなり、最上級のシチュエーション。
神社で女の子と2人きり、2人きり。
うわ、次に来るのは決まってんじゃん。
「すぐに休憩時間終わるから手短に言うー」
うわ、来た。
「お、俺……まだ君のこと知ったばっかりだし、もっと手順を踏まないと、俺ってこう見えても、結構純情だし」
「えい」
不意に俺の首に腕が伸びた。と思ったら、ヘッドロックをかけられた。
「ちょ、何するのさ!」
なんのおふざけだ?と細い腕を、慌てて、振りほどく。
あっさりと技は解除された。
「ち……今の力じゃこんなもんか」
「待て」
今のは……静夫の得意技じゃないか。
「そ、そうか!」
「やっとわかったか」
「君は、静夫の幼馴染なんだな、そうか、そうか。プロレス技あいつ結構好きだったしな」
きっと幼馴染同士で取っ組み合いの相手をやらされてたんだろう。
あいつめ、なんて羨ましい、じゃなくて酷いことを……。
「お前って、超鈍感野郎だったんだな」
頭突きをかましてきた。
意外に石頭で、ごつん、と音がして脳天に響く。
「ぎええええ!」
目の前に飛び散った火花とともに一瞬あいつの顔が浮かんだ。
静夫。
まさか?
頭で、この子と静夫のイメージが何故か重なった。
「静夫?」
「やっと気づいたか」
「いや、待て」
目の前の少女と静夫。
改めてみると繋がらない。
なのに……。
「言いたいことはわかる。だが事実は事実なんだ」
「嘘っっっ!」
静夫が、この少女に?
だって背格好は完全に女の子だぞ。
「ったく、何度もお前に密かにシグナルだしたのに、気づかないから困ったぞ」
さっきからこの子が俺に妙な態度を取っていたのはわかっていたが、まさかそんな意味が込められていたなんて―
お茶を運んだり、給仕したり、そしてわざわざ、散歩していた俺に引っ付いてきた、その妙な思わせぶりな態度。
やたらと視線を感じたり、俺のそばでドジったりキョドったりしてたのもそれが理由?
「ど、どういうことだ? 静夫は男だろ?」
「お袋にこんな仕打ち受けちまった―。半年ぐらい前に、この神社に無理やりつれてこられてたのが始まりでさ」
そこから、少女は過去に起こった出来事を話し始めた。
「ことの始まりは、何ヶ月か前だ。いきなり実家に呼び出されたんだ」
大学を出た後も、都会暮らしを捨てられず、ずるずるとそのまま続けていた。
まあ、それでもきちんと働いていれば何も言われなかったかもしれない。
それが、ある日、突然、仕送りを止めて、ただ実家に戻るように言われたと言う。
フリーターだった静夫には、痛い打撃だ。
言うとおりにするしかなかった。
一体何のことかと尋ねたが、とにかく会ってから話すと言われ、そのまますぐに実家に戻ったんだとか。
……かなり周到な準備があったと思われる。
実家に戻った静夫だったが、そこで、いきなり申し渡されたらしい。
それまでは、何を欲しがっても言うことを聞き、寛容だった伯母さんが、いつになく厳しい態度だった。
いつまでも、きちんと生活の定まらない以上、もうこれ以上静夫を放っておくわけに行かない。
静夫を、旅館に相応しい跡取りとするように、この集落に伝わる特別な処置をする、と。
ついでに借金のことも突きつけられた。
「仰天したさ。いきなりそんなこと言われてさ」
「借金してたんだろ、さっきの話ではさ」
「違うよ、そりゃちょっくら俺も遊んでたけどさ、そんなものしてないさ。保証の肩代わりした奴がどっかに消えちまってたんだよ」
静夫によると、悪友の背負った借金をそのまま被ることになったんだとか。
それは、静夫自身、実家に帰って初めて知った事実らしい。
「言い訳しても聞いてくれなくてよ」
「で、そのまま無理矢理、ここの神社に連れて来られた」
少女は、境内の真ん中にそびえる本殿を見やった。
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