第7話 夜の温泉街にて

伯母さんが部屋を後にした後、俺はまた一人になった。


 寝る前にもう少し楽しもう。

 沢山飯喰ったし、腹ごなしにこの辺りでも散歩するか。

 それに、ちょっと静夫の話は思ってたよりもずっと重たい話題だった。

 家族にはそれぞれ事情ってもんのあるし深入りしない方がよさそう。

 気分転換でもするか。

 そしてその後また風呂にでも入って―ー。


 旅館を出て、温泉街を歩くことにした。

 何度見てもここは良い場所だ。

 空気も良いし、背後に山を頂く景色も良い。

 中心部には川が流れていて、せせらぎも聞こえる。

 子供の頃は俺もこの近くに住んでいたこともあって、しょっちゅう遊びに来たことがあった。

 静夫とも良く遊んだものだが……。

 東京に親父とお袋が引っ越した時についていって以来、静夫には会うのは減ったので、稀に遊びにいく時は楽しみだった。

 やっぱり寂しくはある。


 温泉街の街並みは相変わらずだった。

 結構遅い時間だが、観光客もまだいて賑わっている。

 お土産屋、名物の川魚の塩焼きとかも立ち並んでいる。

 平日なのにちょっとしたお祭りみたいだ。

 懐かしさも込み上げる。


「すっげー、この射撃屋まだあったのかよ」


 ん?

 気配を感じた。

 ぐいぐい。

 そして袖が引っ張られた。

 振り返るとあの子がいた。


「き、君は……だ、大丈夫なの? しずちゃん」


 着物を着たあの子だ。


「今ようやく休憩時間取れたから」


「そ、そうなんだ」


 でも一体何故ここに来たんだ?


「ふう、ようやく、2人で話せるよ」


「え?」


 ま、まさか俺に会いに来た?

 周囲の目をやや気にしながら、俺の横にぴたりと寄り添う。



「一緒に、歩こう」


 う、うそ。

 俺にわざわざ会いに?

 この子が?

 そ、そりゃ、さっきからこっちのことチラチラ見てたりしてたのは気づいていたけど。

 初めての経験だ。

 女の子に2人きりでなんて。しかもちょっと気になっていた若い子と一緒。

 ありえないシチュエーションだ。


 人間、モテ期ってのは急にやってくるんだなあ。

 もちろん快諾した。

 そして温泉街の大通りを2人歩いた。

 既に8時過ぎだが賑わっている。

 周りには、やたらと温泉旅行に来ている夫婦や若いカップルが目立つ。


「あれ、買ってくれない?」


 指差したのは、川魚の塩焼きだった。


「地元のものって案外食べたことないしさ、それに賄いは残りモンばっかでおいしいものは食わしてくれないし」


「そ、そうか、じゃあ一緒に食べようか?」


 俺は財布から小銭を取り出し、店の軒先で焼いていた塩焼きを、2本買い求めた。

 案外、言葉遣いは、ぶっきらぼうな口調だな。

 なんか静夫に似てるな。


「しずさんって偉いね、高校卒業してすぐに働くなんてさ」


「なんで? そう思う?」


「いやあ、俺なんか大学行ってまだ遊べると思ったりしてたからさ」


 あれ?なんか変なこと言ったのかな?

 ハァっとため息をついた。


「やっぱ、気づいてないのか」


 いつの間にか、神社に来ていた。

 ここって確か伯母さんとこも氏子に入っている神社だ。

 他にも地元の商売やっている人たちも入っていて、寄付もしたりしていると聞いたことがある。

 由緒正しい、霊験あらたかな神社と聞いているが。



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