第6話 静夫(あいつ)と比べて本当に良くできた子だ

「あのー、伯母さん、ところで、静夫はどこに行ったのですか?」


 ちょうど会話が途切れたので、俺が一番思っていた、ことを口にした。

 途端に、キッと伯母さんの表情が変わった。

 急に表情を厳しくした。


「静夫は、ここにはいません。修行に出しました」


 ちょっとやばい。俺は触れない方がいいところに触れてしまったようだ。


「しゅ、修行!? どこか遠くに行ったんですか?」


「ええ、しばらくここには帰ってきません」


「なんで急に……」


 ある程度想像していたとはいえ、やはり驚きだ。

 やはり……女将さんは息子の静夫の教育に、大鉈を振るったのだ。


「我が息子、静夫は、少し自由放任に育てすぎました。都会の大学にまで行かせてたのも、世の中の見聞を広めるためでしたが……」


 親父とお袋の言っていたとおりだった。

 どうやら、伯母さんは静夫の生活態度や暮らしぶりをお見通しだったのだ。

 甘い考えもバレバレだった。

 大学で遊び呆けていたのも、知っていたらしい。

 だが……その上に決定的に怒らせたものがあった。


「遊びを咎めているわけではありません。幅広い視点を持つには、色んなものに触れるのも、必要でしょう。しかし……あれは半年前のことでした……」


 伯母さんはちらりと、しずを見た。

 しずさんは、視線に気づき、びくっと震えた。


「借金の請求が我が家に届けられたのです」



 実にうん百万の借金だったとか。

 やべぇ、そりゃ怒るのも当たり前だ。

 あいつパチスロか何かですったのか?


「これからは息子と思わず、一から育て直すことにしました」


 息子ではない、ということは勘当……されたのか?

 なら姿は、みえないのは当然だが。


「まさか姉さん、ひょっとして……例の……?」


 母さんは、何かぴんときたようだ。


「そうよ、大至急静夫を呼び戻して、我が家に代々伝わる跡取りとなるための教えを受けさせることにしたの」


 あれか。さっき聞いた、後継者を育てる秘伝か。

 じゃあ静夫はそれのせいでここにはいないのか。


「いや、厳しいな、義姉さんも」


 親父もその厳しさに、関心している。

 静夫、やっちまったな……。


「しず」


「は、はい!」


「お茶をお持ちしなさい」


「た、ただいま!」


 そそくさと立ち上がりお茶を入れる。


「なんだ、この子もしずっていうのか」


「あら偶然ね」


 親父もお袋も、今更のように気づいたようだった。


「はは、そんなに怖がらなくてもいいさ」


「しずちゃんは、立派に仕事をやってるんだから」


 差し出されたお茶を飲みながら、暢気にしずって子に話しかけた。


「ほらまた褒めてくださったみたいだよ」


「あ、ありがとうございます、旦那様、奥様―」


 平伏した。

 良く見ると裾がブルブル揺れている。

 震えてるじゃないか。

 うーん、なんか変だな、あの子。

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