第790話 それで?

「住民の移住については、少しずつ増えてきているので、今後税収の増額が見込めそうだと考えられます」

「領民が増えれば、それだけ動くお金が増えるからね。領地内で増えなかった税収を外からの移住によって増やすのか……全く、考えたことがなかったよ」

「アンバー領は、広大な領地のわりに、領民となる人が極端に少ない場所ですからね。土地が余っている分、建物を建てたり、街道整備をしたりと、好き勝手していますが、人が多いとなかなか難しかったりします。そこを踏まえてなのか、アンナリーゼ様が先に私財を投げうってでも進めてくれた大掛かりなものが少しずつ形になっていっているので、とても助かっています」

「なるほどね。お金もいるけど、人が少なかったからこそ、出来た改革でもあるんだね?」

「人手不足が、何よりも大変ではありましたがね?」



 苦笑いするイチアに、みなもそうですよねと空笑いしていた。

 私は領地外にも出て、社交をしたり、他の領地の見学をしたり、公のお手伝いに奔走したりと、1年で領地にいる時間が1番長いといえど、領地外を動き回っていることの方が多い。アンバー領だけでくコーコナ領にも行き来しないといけなかったりと、忙しく動き回っている。領地改革のしたいことは全てセバスとイチアに伝えてあり、基本的にこの二人が中心となって、いろいろと決めて行ってくれることになっていた。もちろん、意向確認はしてくれるので、私が思い描くものと違うことはない。



「それで、その課税方法はいつからするつもりなの?」

「来年の春ですね。いろいろと重なる時期ではありますが、国への納付に合わせる形になるでしょうから」

「ずいぶん、先なんだね?」

「そうでもないですよ?ジョージア様は、ここにいる人数にだけ、周知をするならば、それほど時間はかかりません。ただ、領地全体となるとそういうわけにはいきませんから、何回にもわけて周知をしたり勉強会をしたり……職人であったり農家であったりで、お金を得るにも使う道具なども違う分だけ、申告のしかたも変わってきます。それに、対応していかなといけないので、それはわりと大変なのですよ。それを検査する人物も育ててはいますが、これから、実務にあたるので、その人たちの教育ももう少し、高度なものに変えていかなくてはなりません。

 1年後といえば、長い期間に感じますが、実際は、それほど長い期間ではありません。気がついたら、もう春になっていると思いますよ!」



 ジョージアは驚いていた。領主として、明日からこうしますと命令書を出せば、基本的にことたることも多い中、領主は、忙しくて動き回り、領主の代わりのものが、1年の計画をもって事業をしようとしているのだ。少し前のアンバー領から考えれば、これほど細やかに領民へ周知しながら、事業をおこなうことを徹底しているあたりが、アンナとの違いなのだろうといい両肩を落とす。



「来年の春は、間に合いそう?」

「それでも、ギリギリというところですね。春は、種まきなど、いろいろとすることが多いですからね」

「たとえば、申告書の記入してもらう計算できる数字は、1月から12月というふうにして、春への軽減することは出来ないから?毎月きちんと収支をつけていれば、それほど難しいことではないわ!」

「なるほど。冬までの分をまとめて、春に提出。その計算をこちらで研鑽して、いくら税金を納めてもらうのか、こちらからお知らせしましょう」



 メモを取りながら、セバスが何かを考えているようだった。



「そうすると、今年の1月からの分が必要になってきますね?」

「そうなるわね。帳簿のつけ方とか一通りの学習が済んでいるなら、周知したあと、再度勉強会をして、今までの帳簿のつけ方があっているのかを確認したらいいのではなくて?これから、領地に住むにあたって、必要なことは、どんどん領民へ手を貸すべきだから。机で私たちが顔を付き合わせてうまく出来ても、結局、当日になって理解が及んでないとか、うまくできていないとかなら、余計な手間がかかるし時間もかかる。領民への負担はなるべくしたくないから」

「わかりました。そうですね。周知を出した1週間後あたりから1ヶ月のうちに領地の文官をしてもらう人たちを連れて、領地を回ってみます。1ヶ月あれば……回りきれますかね?」

「1ヶ月じゃなくてもいいけどね?」



 クスクスと笑うとイチアが苦笑いする。



「アンナリーゼ様やセバスさんが社交でいなくなるじゃないですか?」

「確かにそうだけど……文官に任せるっていうのも一つだと思うよ?セバスとイチアが大変なことになるなら、ビルたちにも手伝ってもらえばいいし。1つの町や村の1日目だけセバスかイチアが行って、あとは文官たちに任せるの。文官たちも不正をするようなら……罰則があることはきっちり教えておいてあげてね?じゃないと、不公平だから」

「なるほど……それなら、出来るかもしれませんね。三商人テクト、ユービス、ビルには、それぞれの店がある町とは別のところでその仕事をしていただきましょう!」

「どうしてですか?イチアさん」

「店をかまえている場所ば、深く関わっている人間が多すぎるだろ?やりにくいと思うからだが……商売をするには、顔なじみの方が売れるが、こういうものは、顔なじみじゃない方がいいんだ」

「なるほど、納得しました」

「それじゃあ、これは、あとで五人で話を詰めよう。文官の割り振りもあるから」



 わかりましたと三商人が答え、どうにかこうにか、目標だったことが1つ進みそうだと確信した。

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