第756話 いざ、ジニー探しのたび!Ⅶ
急に馬へ乗った私を追いかけるように、ノクトとキース、ヒーナが慌てて馬に跨る。
「アンナ、先行しすぎるな!」
「……ごめん。今、ストロベリーピンクの髪の女性が見えたの!」
「だからって、急に飛び出さないでください!」
悲鳴に似た声をあげるキースに再度謝る。ノクトとヒーナは、文句をいいつつも完璧に行動を理解してついてこれても、キースには難しかったようだ。
馬車を追いかける分には、それほど、馬も早く走らせることもない。馬車のカタカタという音が聞こえる範囲で尾行を続けることにした。
と、いっても、私もこの髪だ。目立つので、コートのフードを被る。
そして、そこに馬に乗ったもう一人が合流した。
「アンナリーゼ様、驚きましたよ!」
ジニーを見張ってくれていた助手が、目の前をかけていく私を見て追いかけてくれたのだ。
「見張り、ありがとう。おかげで、追跡できそうよ!」
「いえ、たいした労力も使っていません。診療所で動いていたときの方が、不規則で大変でした……」
「次から次へとごめんね。それで、ジニーの動きは、今、教えてくれる?」
「えぇ、もちろん。ちょうど、こちらに着いた翌日、彼女もさっきの屋敷へと入りました。そのあとは、ずっと、同じところへ滞在しています」
「一歩も出ていない?」
「えぇ、外で見張る限りは……ただ、怪しい人物が、昨日、六人ほど連れ立って入って行きました。何か、周りを警戒するように……」
「六人……なんだろ?ヒーナ、あなたたちは、何人でここへ来たの?」
「……」
「答えろ、ヒーナ」
「……はい、ノクト様。私を含め七人です」
「ちょうど、数が合うわね!そっちは、どうしているかってわかる?」
「すみません。全員を監視するのは難しいので……」
「うぅん、いいの。指示も出していなかったからね!」
「六人で入って行ったうち、二人が先行して何処かへ向かいました。あとの四人については、あの馬車の御者と同乗しているものだと思います。先行した二人を追いましょうか?」
私は一瞬悩んだ。でも、これ以上、危険なことに首を突っ込むのは、ヨハンの助手の範疇を越えてくる。いくら、うちの両親が鍛えたといえ、彼には彼本来の仕事があるのだ。私は、そちらを任せたい。
「大丈夫。どうなるかわからないけど、放置しましょう!何かあれば、あったときよ!公が動くべきだし、私たちが秘密裏に動いていいものでもないわ!この国を守るのは、私たちの役目ではないもの!」
ニッコリ笑いかけると、確かにそうですねと助手も苦笑いしている。
「本来の仕事に戻ってくれる?意外と、早く終わったけど……あなたの持ち場は、結構大変なことになっていたもの……そんな中で引き抜いてしまって、ごめんなさいね!」
「いいえ、大丈夫です。私ができることは、もう、あの診療所で動いてくれている人々でもできますから。一時期は、大変でしたが……心も折れてしまって。でも、アンナリーゼ様が来てくださったおかげで、どんなにか救われました。教授があなたについて行きたい気持ちが、やっとわかりましたよ!」
ヨハンを理解できた喜びと私という奇人領主がいることが、アンバー領にとって、どれほどの救いなのかと助手に言われ、苦笑いをする。後ろについてきていたノクトはケラケラ笑い、キースは何とも言えない顔をしている。ヒーナは、どうでもよさそうだ。
緊張感のない追尾。そのおかげか、前の馬車から警戒はされていないようだった。
「では、私は、診療所へ戻ります。他の助手がそろそろ来てくれているとは思いますが……」
「えぇ、ありがとう。くれぐれも、別行動の二人には気を付けて。インゼロから入ってきている者たちだから……」
「わかりました。他の助手たちにも連絡しておきます」
これにて……御武運をと離脱していく助手に頷き、私たちは前の馬車を追い続ける。
「雪が舞ってきたわね……」
「あぁ、そういえば、冬だったな……」
「春には、義父母が帰ってくるの……それまでには、なんとか、領地に帰りたいわ!今年も、アンジェラのお誕生日会をしたいって申請も上がってくるのだろうし……」
「毎年、恒例になりつつあるな……お誕生日会」
「嬉しいわよね。我が子が、領地で領民から愛されているのって!早く三人をぎゅっと抱きしめたいわ!余計な仕事を押し付けてきたインゼロにも公にもしっかり代償を払ってもらいますからね!大事な子どもとの時間をなんだと思っているのかしら!」
少し怒り気味に文句を言っていると、馬車が角を曲がっていく。地図は頭に入っていないので、どこへ向かったのかわからなかった。
「この先、貴族の屋敷だったはずだぞ?次の根城ってことか……それとも……」
ノクトの頭の中の地図は、頼りになる。私は頷き、レナンテに指示を出し、一気に馬車へと近づく。
「な、なんだ!」
一般人を装った組織の人間が、こちらを見て驚く。と言ってもふりだが。その手には、剣やナイフが握られていることは明らかだろう。
「ジニー、みっけ!私と一緒に来てもらうから!」
「……これは、どっちが盗賊かわからん絵図だぞ?」
「煩い!ノクト」
「なんだ!何者だ!ジニーは渡さんぞ!」
早くなる馬車にぴったり幅を寄せ飛び移ろうとすると、さすがにノクトに叱られる。
「ヒーナ、行け!」
キースの後ろに乗っていたヒーナが、御者台に飛び乗った。
さすが身軽……
私は感心した。御者は顔見知りらしく言い争っているヒーナの援護へとノクトが向かう。
「……ノクト将軍だと?」
「あぁ、俺は生きてるぜ?皇族のいうことは聞いてくれるんだってな?」
「……」
ニヤッと意地悪そうに笑うノクト。
馬車から顔を出した執事服の男が、ノクトを確認した。すると、停まれと合図が送られる。
ゆっくり停まる馬車に合わせ、並走していた私たちも停まった。
馬車の中から、一人の男とストロベリーピンクの髪をした女性が伏目がちに馬車から降りてきた。
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