第755話 いざ、ジニー探しのたび!Ⅵ
目的の領地に着いた。ここからは助手との連携が大事になってくるので、とりあえず、領地の中心地へと向かう。
南に比べれば、いくばくかマシだとはいえ、その様子の酷いことにかわりはなかった。
「ここも酷い有様ですね……まだ、マシという言葉が出てきますが……」
「そうね。広場を見る限りでは……南の方とそれほど、変わらないのかもしれないわ」
広場にある診療所へ向かう。ここには、ヨハンの助手は配置されていない領地ではあるが、領主が機能しているのか、今まで回ったとろこよりかは、領地で働く役人や警備たちが忙しそうに動き回っていた。
「どこから向かうんだ?」
「とりあえず、領主の屋敷へ向かうわ!」
「ジニーとやらは、そこに?」
「いいえ、違う貴族の名前があったと思うから……とりあえず、頑張ってくれてありがとうを公の代わりに感謝をしないと。公は見守っている、見張っているの両方の意味を込めて、私が領主に会いに行くことに意味があるから」
そうかとノクトが呟いていたので、そのまま領主の屋敷へと向かった。お決まりのように門番に止められたか、他の領地より友好的で助かる。
「アンバー公爵自ら、このような地へ!ようこそ、おいでくださいました」
「いえ、公の代わりにまいりました。領地の病の進行具合は、どうでしょうか?」
突然の訪問にも嫌な顔一つせず、迎え入れてくれる領主に現状を聞くと、やはり芳しくはないようだった。
「南が近いので、なかなか抑え込むのは難しいです。公からの薬と医師の提供のおかげで、もっと酷い有様であった領地ですが、少し、持ち直してきました」
「そう。それなら、あと少し頑張ってちょうだい」
「それは……?」
「経験則かしら?今は、広場に罹患した人が溢れているけど……このまま、領地全体で頑張ってくれれば、終息に向かうはずよ!まだまだ、希望は見えないかもしれないけど……一緒に頑張りましょう!」
「はい、はい……!アンバー公爵が来てくれてよかった。心が折れかけていたのです。見えない終わりに。ただ、公からの手紙に、コーコナ領での話も書いてあったので……アンバー公爵がそのように言ってくれるなら……希望も微かにでもみえてきました!」
「いいえ、領主が公からの指示通り動いてくださっているから見えた終息です。領民のため、よく頑張ってくださいました」
その一言をかけるために歩き回るのが本来の仕事ではあるので、そう声をかけられたことを私も嬉しく思えた。
「まだ、しばらくは辛い時期を過ごすことになると思いますが、領民のために心を尽くしてください」
「はい、ありがとうございます」
「私は、広場で話を伺いますから、これにて失礼いたします」
「なら、私も同行してもよろしいですか?」
「罹患されたことがあるのですか?」
「……はい。実は、街に出ており、そのときに。薬のおかげで完治しておりますので……罹患したら、もう罹らないときいているので」
「えぇ、では、一緒に向かいましょう!」
領主と一緒に広場へと向かうと、領民たちが領主へと駆け寄ってくる。信頼が厚いのか、領主が先日患ったことをみなが問うているのが聞こえてくる。
「いい領主みたいだな?」
「領民との距離が近いのかもしれないわね!」
「どこぞの領主みたいにか?」
「私のこと?」
「いや、それよりかは、距離があるのか?」
領主たちの様子を見てノクトが頷いていた。
私たちは診療所の中へと入って行く。そこに届いているであろう助手からの報告書を受取りにいくためだ。
「こんにちは!」
「アンバー公爵?」
「珍しい人もいるのね?」
「知り合いか?」
「知り合いってほどでもないよね?」
「確かに」
ニッコリ笑う医師に首を傾げるノクト。
「私の主治医は、ヨハンでしょ?」
「あぁ、それは知っている」
「ヨハンの師匠って言えばいいのかな?医師として学んだのは、この方からなのよ」
「フレイゼンのガキが学都なんて開くと聞いて、飛びついたくちってだけですよ!」
気さくに話しかけてくるのは、フレイゼン領の学都から排出された医師であった。元々没落貴族であるため、父とは旧知の仲だったらしいのだが、学都を開くと言ったら、喜んで参加してくれた第1号だったらしい。
私との接点は殆どないが、父が毒の研究者を探しているという噂話から、当時、医師の弟子だったヨハンを紹介してくれた人らしい。
「師匠が来てくれていれば、ここへ助手を送る必要はないってことか……」
「そうみたいね!それで、ここの状況はどうかしら?」
「来たときは、頭を抱えたくなるような状況でしたが、おかげさまで……患者数はまだまだ多いですけど、薬も十分ありますし、少しずつですが、罹患者が減ってきています。完全な終息には、しばらくかかるでしょうけど、春には何とかなりそうですよ!」
「本当!よかった……これ以上、増やさないよう、こちらも努力しないとね!」
「……?増やさないように?」
「諸事情があるのよ。それより、こちらに、ヨハンの助手から手紙は届いていないかしら?」
「あります。こちらに」
そう言って案内された場所で、手紙を受取った。そこに書かれている場所へ向かうことにした。
予定より、1週間ほど遅くなっているのだ。幸い、まだ、この街にいるようなので、急いで向かうことにした。
「ノクト、キース、それと……ヒーナ。いくわよ!」
ノクトに手紙を渡し、私たちは書かれていた場所まで馬を引き連れ向かう。初めて来た土地ではあったが、ノクトは商人として来たことがあったらしく場所を教えてくれた。
ちょうど、そちらに向かったとき、玄関から、1台の馬車が出てくる。
「いたっ!」
思わず叫んでしまったが、まさか、馬車を指しているとは私たち以外は誰も思わなかっただろう。
レナンテに跨り、ゆっくり駆け出すようにと指示を出した。
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