第754話 いざ、ジニー探しのたび!Ⅴ
翌朝はとてもいい天気だった。遅くまで手紙を書いていたので、朝日が目に染みるようで、目を瞬かせる。
「おはよう、ノクト」
「おはよう。ちょっとばかり、早いが西へ向かうか?」
「えぇ、ただでさえ、遅れているのですもの。すぐに向かいましょう。それにしても、ジニーと一緒に昨日のお嬢さんと繋がりがある組織が動いていたら嫌ね?」
「まぁ、確かに。そこで一網打尽にしてしまう手もあるが……人数がわからんしな」
「かなり、強いわよ?ノクトはともかく……キースは、ついてこれないわね?」
「アンナに傷でもついてみろ?旦那が、黙っちゃいないだろ?」
そうかしら?とすっとぼけると、借りていた部屋を出た。簡易の朝食を用意してくれていたようで、私たちはそれを口にほりこみ、馬房へと向かう。
「レナンテ、お疲れ様。もうひと働きしてもらうからね!」
レナンテの鼻先を撫でると、甘えたようにすり寄ってきた。思わず頬擦りしそうになっていたところへ、キースと見知らぬ少年が一緒にやってくる。
「アンナリーゼ様、おはようございます」
「おはよう、キース。ところで、その子は?」
「昨日のお嬢ちゃんだよ。髪を切って、服装を変えた。だからと言って、中身が変わったわけではないが……とりあえず、暴れたら、俺の名の元に処刑すると言ったら大人しくなった」
「ん?」
「皇帝直属の部隊にいたヤツが、お嬢ちゃんの上司だったらしくってな……皇族には、歯向かわないっていうルールがお嬢ちゃんがいた班にはあるんだってさ。お嬢ちゃんの上司がそうってだけで、他は違うらしいから、みんなに有効な手段ではないとだけ、アンナも覚えておいてくれ」
ノクトに頷き、名前を聞く。ヒーナと答えた声は、まだ、少女の声である。
「ヒーナ、私、一応抹殺対象となっているけど、行動をともにしてもいいのかしら?」
「いい。将軍の上司。将軍、皇族。手をかけてはいけない。その上司は、大切」
ノクトのほうをチラと見ると、頷いているので、ヒーナの本当の上司に出会わなければ、裏切らない……のかもしれないと考えた。
「一応、自害用の毒は没収してある。訓練されているから、自死をするための毒は特殊なものだし、刃物なんかもとりあえず、取り上げてある。体一つで対象者を死に至らしめることは可能だが、アンナは、ヒーナくらいなら対応できるだろ?」
「そうね。キースは、どうかしら?」
「……」
ちらりちらりとヒーナを見て困った顔をしている。と、いうことは……難しいということだろう。
「ヒーナは、ノクトとの行動を基本とする。組織が接触してきた場合、ノクトに教えてあげてくれる?」
じっと見上げてくる少女は、どうしてそんなことをいうのかわからないというふうだ。特化型の人材なのか、命令の種類があまり多くないのかもしれない。言葉も拙いところがあるので、悩ましい。
今のところ、ノクトには歯向かわないということなので、ノクトの命令下においておくのがいいだろう。正直なところ、ヒーナがノクトに組織の話を言っても言わなくても体制に影響はないので、曖昧に笑っておくだけにした。
まずは、ジニーの身柄の確保が第一だ。ノクトを待ったため、遅れているので、急がないといけない。
「助手から、連絡は会ったんですか?」
「今のところはないわ!向こうで合流したとき、話してくれるとは思うけど」
「助手の手腕は大丈夫なのか?」
「ヨハン折り紙付きだけど……それだけじゃ、不安かしら?」
「ヨハンが言うなら、大丈夫だろう」
「どうして?」
「貴人返事の類ではあるが、人を見る目は確かだからな。力量の見誤りもないだろう」
私が頷くと、誰かにつけられている感覚がした。キースが振り返ろうとしたので、用事もないのに名を呼んだ。
「何でしょうか?」
「……えっと、その……」
言葉に詰まりながら、考える。それでも、後ろが気になるキースに話題が出てこなく、困っているとヒーナが見えた。
「キース、ヒーナの髪はどうやったの?」
「ヒーナのですか?手持ちのナイフで、削ぐように切って行きました。女の子なので、少しでも長い方がいいのかな?と聞いてみたら、短いほうが、動きやすくていいということだったので、短くしてあります」
ノクトの前にちょこんと座っているヒーナの髪を触る。ナイフで切ったという割に、とても丁寧で、肌触りもよく切られていた。
「キースが切ったのでしょ?」
「えっ、あっ、はい。どうですか?」
「とても上手に整えられているなって思って」
「我が家は、ゴールド公爵家の傘下ではありますが、貧乏でしたからね。これくらいのこと」
「そう。こういう特技があるって、羨ましいわ!」
「何をおっしゃいます!アンナリーゼ様は、何もかもをお持ちでしょ?」
そうだといいけどね!と言いながら、ノクトに近寄って行き、話しかける。
「人数は、それほど多くはないが……」
「どこまでの手練れを連れてきているかにもよるわね!」
目配せをしていると、私が行きます!と名乗りをあげてくれるのは、ヒーナだ。小さくても、その道の人間なんだと思うと、背筋がゾッと寒くなったのである。
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