第652話 あとは……

 報告書を書き、一息いれる。そこへ本日の作業が終わったノクトとアデルが報告にやってきた。



「あぁ、終わった……」

「あの、ノクトさん、その汚いままそこには……先にお風呂へ」



 遠慮がちにノクトへお願いをいうリアンが可哀想だ。デリアなら……まず、この部屋へ淹れることもしないだろうなと思えば、なんだか笑えてくる。



「そうだな。先に風呂に」

「えぇ、入ってきて!アデルも一緒に!」

「私もですか?」

「そうよ!そんな格好でいたら、リアンに嫌われるわよ?」

「えっ、ちょ、ちょ、ちょっと……アンナ様?」

「私が、何か?」



 ノクトが風呂へ行くと言ったので、準備をすると言っていたので、私とアデルの話は聞こえていなかったようで、小首をかしげている。



「えーっとねぇ、」

「あ、アンナ様っ!」



 顔を真っ赤にして慌てるアデルをからかうと、それくらいにしてやれとノクトがいう。

 アデルは、ノクトの方を見て驚いていた。



「ノクトさんまでっ!」

「知っていたのね、ノクトも。知らぬは、本人だけ?」

「何の話ですか?」

「いや、あの、あのですね……リアンさん」



 リアンの後ろから声に出さずに、いけっ!やれっ!ほらほら、告白だっ!とはやし立てる。窮地に立たされているアデルはしどろもどろしているのだが、喉元まで言葉が上がってきているのに、あと一言がでない。

 ノクトが、ダメだこりゃと大きくため息をつくと、私も時間切れね!という。



「そんなぁ……」

「あと一言でしょ?もぅ、情けないっ!しっかりなさい!」

「あの、先程から何の話をしているのですか?」

「私から言えませんっ!」

「俺からも無理だなぁ……」

「では、アデルさん?」

「僕も無理です……」



 何を隠されているのですかと、少々怒りはじめたリアンに、ノクトのお風呂の用意してあげてといって、話を切り上げた。



「ノクトたちが帰ってきてたみたいだけど?」

「えぇ、今、報告に来てましたが、先にお風呂へ向かわせました」

「あぁ、それでさっきの騒ぎ?」



 聞こえていましたか?と笑うと、廊下でも話してたからねと返ってきた。



「やけにアンナは嬉しそうにしているけど、何かあるの?」

「いえ、恋の季節だなぁと思いまして!」

「えっ?恋って、アンナが?」

「そんなわけありませんよ!アデルがです!」

「あぁ、アデルね?それで、そのお相手は誰なの?」



 ここだけの話にしてくださいね?というと、クスクスと笑いが漏れてしまう。仕方がないなと言う顔をするジョージアにアデルの想い人を告げると驚いていた。



「まさか?」

「まさかっ!」

「いつ知ったの?」

「いつって、今回のことで知りましたよ?たぶん、知らないのはリアンだけなんじゃないですかね?もぅ、バレバレですよ?」

「なるほど……」

「あっ、でも、しぃーですからね?ちゃんと、アデルが……」

「何ですか?私が」

「あっ、もう、出てきたの?ちゃんと、綺麗に洗ってきた?」

「えぇ、もちろんです!」



 石鹸の香りをさせ、私の前まできた。



「もしかして、ジョージア様にまで言ってないですよね?」

「……もう、遅い?」

「アンナ様っ!」



 こてんと小首を可愛さを狙って傾げると、可愛くないですと叱られた!

 そこへ、サッパリしたとノクトとリアンが部屋へ入ってきた。



「さて、綺麗になったことだし、報告」

「うん、お願いね」

「今日は、旦那もか?」

「えぇ、ジョージア様も聞いてもらいましょう。しばらく、ここで執務を取ってもらうことになるから」

「というと、帰るのか?」

「えぇ、帰るわよ!リアンと一緒に!いいでしょ?アデル」

「……いいですね。私はまだ、こっちの仕事がありますからね」

「そうね、アデルには、近衛の先発隊と共に領地へ帰ってきてほしいの。どれくらいで、半分の近衛を移動させられるかしら?」

「今の作業を考えると、そうだな……残土を避けるのに、2週間くらいってところか?」



 アデルに目配せをすると頷いた。



「アンナ様、提案なんですけど……」

「何かしら?」

「小隊1つ分くらいは、こちらに置くことは出来ませんか?伝染病のところの補佐もいるでしょうから」

「そうね、では、2週間後に半分をアンバーへ。残り半分をさらに半分にしてノクトが率いてアンバーへ来てちょうだい。残りは、ジョージア様預かりってことにしましょう。人選は二人に任せるわ!」

「あぁ、わかった。ところで、伝染病の方はどうなんだ?」

「うん、その話ね。どうも変異しているようなの。子どもが主に罹患していたと思うんだけど、大人にも移ってきているようよ!そのおかげで、1度罹ったヨハンの助手まで、罹っているって……中の様子はわからないのだけど……あまりよくないようね」

「なるほど、薬はどうしてる?」

「今あるものと、新しく治験を始めたいと申し出があったわ!私にはどうすることもできないから許可した。まずは、助手たちの中から始めるとあったけど……」

「全くの手探りだな」

「えぇ、そうなの……私も、コーコナには2週間いるつもりだから、その間に回復傾向に向かえばいいのだけど……」



 難しい顔をするノクトたち。私は笑いかける。



「ヨハンなら、やってくれるわよ!それに……何か悪いものが動いている可能性があるって……」

「なるほど、それを調べるためにも帰るのか?」

「元々、アンバーへそろそろ帰らないと行けなかったのもあるの。公都での動きも気になるところだから……報告は終わり?」

「あぁ、とりあえず。明日も早いから……」

「じゃあ、ノクトだけ残ってくれる?」

「アデルはいいのか?」

「えぇ、まだ、アデルはこの話には関われないから」



 そういうと、アデルとリアンは執務室から出ていく。振り返ったアデルに頑張れというと、ペコリと頭を下げていった。



「あっちは……アデル次第だな。で、話は?」

「うん、請け負って欲しい仕事があるの。それも、ノクト一人で」

「俺一人でか?」

「あまり、知られたくないのよ……」

「この前の件か?ヨハンとは話せていないのだろ?」

「えぇ、でも、もういろいろとことが進み始めているから……あの場所を全体的に囲って欲しいの。助手はタンザをつけるけど……女性だから力仕事は期待できないけど、ヨハンの助手だから、あの白い花のことは知っているわ!」



 わかったと請け負ってくれるノクト。たぶん、聞きたいことはいろいろとあるだろう。だが、何も言わず、明日から取り掛かってくれることになった。



「材料は、タンザが用意してくれているはずだから、まずは、そこを尋ねてちょうだい。このことは、公にも報告をしておくわね!」



 その方がいいだろうと頷くノクト。お願いを終えたので、今日はお疲れ様と声をかけ執務室から出ていくノクトを見送った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る