第651話 どうでしたか?コーコナ領は

 ふらふらと領地を回ったのは、何もジョージアに領地を紹介するだけではなく、他にも災害が起こっていないかの確認も込めて回っていた。

 あちこちで話をしたり聞いたりしていたが、私の『予知夢』の場所以外では、何も起こってはいなかった。

 雨も長雨となり、川の水が多くなったところもあったらしいが、決壊することなくすんだという話を聞いてホッとした。



「特に災害が他の地域でなかったようで何よりでした」

「うん……よかった。最後以外は……」

「どうでしたか?コーコナ領は。初めてまわったのですよね?」

「あぁ、そうそう。とてもいい領地だよね。アンバーにも負けないくらい、みなが優しい。最初は、ダドリー男爵領だからと身構えていたんだけど……ちょっと、ホッとしたよ」



 コーコナ領は元々ダドリー男爵が治めていた領地だ。あの断罪で私が領主となったが、受入れられていないのではないかととジョージアは心配してくれていたらしい。

 確かに、最初は男爵を断罪した公爵として馴染めずにいた。どこに行ってもピリピリとする場面もあったと侍女のココナから聞いてもいた。

 転機は、ハニーアンバー店の開店だっただろう。

 コーコナ領も特産品がないとなかなか領地の収入については苦戦をしていたようだった。それが、アンバー領からの搾取という形をとった1つの要因ではあった。

 男爵も気付いていた特産品の活かし方がわかっていなかっただけだ。この国1番の綿花農家を領地に持ち、ドレスなどを作るための生地や糸の生産、養蚕による生糸。この地ならでは特産品が日の目を見ず燻っていた。

 ハニーアンバー店で取り上げるものの1番の売り上げは、今のところ貴族たちがこぞって買ってくれるドレスだった。流行の最先端を広告塔である公爵自らが着てみれば、たちまちに売れてしまう。

 その恩恵が、コーコナ領の経済を回し、他の領地からの追随を許さず、領民の誇りとなった。

 私への……アンバー公爵への疑心は、領民の誇りを得たことで払拭された。



「最初は、ありましたけどね……ジョージア様が想像するようなことも。やっぱり、領主が変わった理由が理由でしたから……

 コーコナ領でたまたま出会った人たちがよかったのです。私は、人に恵まれました」

「それは、アンナが引き寄せるものだね。いつも、アンナの周りは賑やかだ」

「そうですか?」

「ここ2日、一緒に回ってみて、思うことは……アンバー領のときと変わらない。アンナが動くとみなが動く。みながアンナの行動にすごく注目していて、とても快く思っていることだね」



 そうだと嬉しいですけど……と笑うと、そうだよとジョージアは頷く。



「ジョージア様とは全く違う領主像ですけど……受入れられていて嬉しいです。危うい一面もあるのでしょうが、ウィルやセバスという国から借りだしている近衛や文官が側にいるというのと、ノクトというクマみたいなおじさんが側にいるのは、その危うさの線引きをしてくれているような気がします」



 夕日を見ながら馬を歩かせる。領地の屋敷へ戻る途中であった。隣ではジョージアがうーんと唸りながら何事か考えていた。



「確かに危うさはあるだろうね。でも、もしウィルたちがいなかったとしても、アンナがきちんと線引きはできると思っているよ。ここまでとここからの領域のさじ加減は、とても上手だからね!

 たまに、公に対してだけ、線引きがあやふやになっていることもあるけど……そのあやふやは、公にはどうしても線引きができないところなんだろ?」

「そうですね……まだまだ、公は成長途中ですから……お尻を叩きながらですね……」

「アンナにかかれば、こうも形無しなんだけど……でも、そろそろ、一人でなんでもできるようになってもらわないと、困るよね?」



 本当ですね!と笑うと、全くだよとため息をついている。ジョージアも公のことを言えないくらい公爵家のおぼっちゃんではあったのだが、元が勉強家であり努力家であるので今では頼りがいのある相談者でもあった。



「ふぅ……さすがに、強行工程だったから疲れたよ……」

「帰ったら、もう休んでください」

「アンナは、何かするのかい?」

「えぇ、公に報告をしなくてはいけないので、その手紙を書きます」

「明日でもいいんじゃない?」

「ジョージア様、それはダメですよ!報告、連絡、相談は大事なんですから!私から公へ送るのは、報告、連絡だけなんですけどね?」



 なるほどと頷く。私が大事にしている情報収集の基本ですよ!と言うと、こんなところにも応用が?と驚いていた。



「情報は生ものですからね!できるだけ鮮度はいいうちにしないと、次から次へと新しいものが入ってきます!だから、今日中に送ってしまうんですよ!」

「じゃあ、何もしないけど……アンナの報告書を読んでいるよ」

「ジョージア様も私がいなくなったら、こまめに報告書は出してくださいね!」

「……いなくなったら?」

「アンバーへ帰ったらですよ?」



 なんだ……とホッとしているジョージアは、勘違いしたらしい。でも、そう遠くない未来、そうなるのだ。アンジェラのためにも、ジョージアへの報告、連絡、相談のくせはつけておいた方がいいなとこっそり思ったのである。

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