第653話 経過観察

 領地を回ってからというもの。ジョージアへ引継ぎは、綿密にしておく。慣れない土地での采配については、初心者どうぜんのジョージアなのだから、しっかり予習復習は必要だ。

 元々、私より優秀なものだから、ひょいひょいっと出来てしまうのが、やはり憎らしい。



「どうしたんだい?」

「憎らしいです!」

「俺が?」

「はいっ!とっても!」

「どうして?」



 どうしてには答えず、書き物をしているところを見た。あぁ、と言う顔になり、何が言いたいのかわかったようだ。



「そりゃ、こっちはアンナより得意だからね?アンナは、苦手でしょ?」



 クスっと笑われたのは腹立たしいが、正解なので黙っておく。

 何も言わなかったことをいいことに、ジョージアにからかわれる。



「アンナは、勉強が苦手だったもんね……教えたとき、かなり根気よく教えた記憶があるよ!」

「そうですね!おかげ様で、ウィルに生クリームたっぷりのケーキを奢ってもらいましたよ!とても甘くてふわふわしてて、さらに追い生クリームまで……幸せでした」

「そういえば、最近、見かけないね?生クリームたっぷりケーキを食べている姿を。やめたの?」

「……やめてないです。決してやめてないですよ!食べる機会がぐっと減っただけで……」

「忙しくて食べている暇がないってこと?」

「…………そうですよ」



 思い出したら、食べたくなりましたと苦笑いする。お腹が、生クリーの気分になり、どうしてくれようと考えていた。



「屋敷に帰ったら、アンジーたちを連れて食べに行ってくるといい!キティが作ってくれるだろ?」

「そうですね!レオたちも誘って、みなで食べてきます!」

「いや、みなはいらないと思うけど……あんなの食べられるのアンナとアンジーくらいだから!」

「えっ?お兄様も食べますよ?」

「うそっ!あんな甘いのを大量に?エリザベスの方じゃないの?それって」

「違いますよ!エリザベスは、甘いものは好きですけど、私やお兄様はほどではありませんよ!むしろ、私たちが甘いものを存分に楽しむときは、苦いコーヒーというものをのんでいます」



 初めて知ったよ!と驚くジョージア。私たちにもまだ知らないお互いがあることを確認した。

 仲良く執務をしていると、リアンが手紙ですと渡してくれる。



「あっ、リアン待って!」

「はい、どうされましたか?」

「部屋を出たら、まず、石鹸で手を洗って!十分に泡立たせて!」

「……はい」

「そのあと、度数の高いお酒で手を擦っておいて!」

「わかりました」



 部屋から出ていくリアンは、私の言わんとすることがわからなかったようだが、早速、手を洗いに行ってくれた用だった。



「何かあるのかい?」

「ヨハンからの手紙だったので……」

「あぁ、なるほど」

「手を洗うはわかるけど、お酒を手に塗るの?」

「はい。純度の高いものを塗ると、もし、伝染病の菌がついていたとしても、駆除できるらしいので!」

「それは、誰から聞いたの?」

「この前、ヨハンにあったときに、万が一を言われて増した。そうだ!それも、もし、あの村と町以外に広がった場合、公布してください。手洗いと消毒。お水の煮沸は、最低限してと」

「あぁ、わかった。とりあえず、読もうか、その手紙」

「えぇ、そうしましょう」



 ヨハンから届いた手紙を開く。



 まず最初に書いてあったのは、今リアンとのやり取りそのままが書かれていた。私はクスっと笑うと、さすがに医師だねとジョージアも感心する。



「うーん、伝染病ですけど……一旦は広がりを見せていたようですね。高純度のお酒での消毒や手洗いうがい、煮沸をさらに強化したところ、少し収まったと書かれてありますね」

「基本的なことだね」

「そうですね。そのあと、治験のため、ヨハンの助手に薬を処方した様子が書かれていますね。回復傾向にあるとのこと。罹ったうち、三名は完治したそうです」

「それは、よかった!」

「効果がみられたので、他の人にも処方したようですね。軽い症状の人なら1日飲めば治ったようです。重症になってくると、数日かかるようですが、今のところ、終息が見えてきたらしいです。あと、私が摘んだ葉っぱが役にたったと書いてあるんですけど……」

「アンナが?何をしたんだい?」

「ジョージア様が来る前に、ヨハンに薬が足りないと言われ、採りに行ったことは言いましたよね?」



 わぁ、確か例の花のこともそこで聞いたねと頷く。例の花とは、麻薬の原料となる花のことなのだが、それは、今、ノクトが囲いを作りに行ってくれている。



「そこで、解熱剤となる薬も取っておいたんです」

「解熱剤?」

「えぇ、一般的な解熱剤の薬草とは違うんですけど……お母様に、この薬草の解熱剤はよく効くから、見つけたら必要分だけ採っておきなさいと言われるものなのですけど」

「そんな薬草の知識があるのかい?」

「多少です。解毒剤はヨハンから習いましたけど、日常的な薬なら、お母様が作り方から薬草の種類まで教えてくれています」

「なんだか、いよいよ、お義母さんがすごい人に感じるよ!」

「お父様もお母様もすごい人ですよ!」



 両親の自慢をすると、あぁそうだねと笑われた。小さな子どもが誇っているかのような扱いに少々むっとする。



「それで、その薬草がたくさんあったので、入れておいたのです。使うかどうかは別として。ヨハンはさすがですね!その薬草のことを知っていたみたいです」

「なるほど……それを今回の治験に利用したのか」

「そうみたいです。この時期にしか採れないものなので、採って乾燥をしておいてほしいらしいです」

「そうすると、いつでも使えるってことだね?また、いつ広がるかわからないから、安心だね?」

「そうですね!もし、黒幕がいたとして、他の領地でこれを広げられたら……打つ手がありませんからね。備えて起きましょう!」



 私は、ジョージアに渡す、することを書き出した紙に書き加えた。

 タンザにお願いしてほしいということは、知っているということだ。早速手紙をかくことにしたのである。

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