第644話 ひと段落

 ジョージアがコーコナに来てから3日ほど経った。実は、コーコナには、まだ足を踏み入れたことがなかったらしく、ちょっと、ソワソワしていた。



「ジョージア様、雨も上がったので、出かけますか?」

「あぁ、いいね、でかけよう!」



 しばらく続いていた雨も、昨日から止んだ。

 もっと早くに止んで欲しかったという思いはあるが、そんな風に思っても自然がすることだ。ちっぽけな人間がどうこうできるものではないので、仕方がない。



「リアン、明日は朝から出かけますから……」

「わかりました。お弁当を持っていかれますか?」

「えぇ、そうするわ!他のところも視察を兼ねて行ってくるわね!」

「となると、泊りですね……」

「えぇ、そうね」

「ノクト様にお願いしましょうか?護衛の方」

「いいわ!今回は、護衛なしで!領地を回るだけだし、ノクトもアデルも現場に

 欲しい人材だから」



 ジョージア様もそれでいいですか?というと、アンナがいればなんでもいいと返ってくる。確かに、私がいれば……護衛はいらないだろう。

 ジョージアが来ていることは、ごく一部の侍従たちしか知らないので、それ程気を遣うこともなかった。



「明日からが、楽しみだね?」

「私みたいなことをいうのですね!」

「アンナと一緒に出かけるようになったからかな……行動範囲が広すぎるからね……」

「明日は早いですから、もう寝ましょう」



 その日は、早めの就寝をした。


 翌朝、私は男装する。ちょっといいところのお坊ちゃんのような格好をすると、ジョージアが何故か膨れっ面だ。



「どうかされましたか?」

「いや、男装なんだなぁーって」

「帯剣しますから、ドレスではちょっと……」

「俺もした方がいい?」

「帯剣ですか?」

「そう。アンナがするなら……」

「なくてもいいと思いますけど……予備として持っていてくれると心強いですね!」

「あっ、予備ね……アンナにはかなわないけど、使えることは使えるんだよ?」

「じゃあ、今度、レオと対戦してみてください。それで判断しますから!」



 ニコニコっと笑うと、レオ……レオと?と肩を落としていた。

 レオもだいぶ強くなってきているので、ジョージアくらいなら……のしてしまうかもしれない。



「アンナリーゼ様、お弁当はこちらになります!」

「リアン、ありがとう!じゃあ、行ってくるから……屋敷のことお願いね!」

「えぇ、ココナさんとモレンさんとでお守りしますわ!いってらっしゃいませ!」



 用意された馬に跨る。先日手に入れた馬なのだが、余程、私を気に入ってくれたのか、揺れるしっぽが嬉しそうだ。



「アンナ、うちにそんな白馬いたっけ?」

「先日購入したのです。少々乱暴な乗り方をしたのですが、馬に気に入られてしまって……」

「馬にまでアンナの魅力はわかるのか……なんでも、アンナの虜だね?」

「もう、バカなこと言ってないで、行きますよ!まずは、布を作っている工場からです!」



 意気揚々と馬を歩かせる。パカパカといい音をさせて2頭の馬が並んで歩いた。



「コーコナは、とても穏やかな場所なんだね?」

「この前の長雨さえなければ、本当にいいところなのですよ!家族でピクニックに

 来たいねって言ってたんですけど……ネイトがもう少し大きくなったらですね!

 それまでに、一度アンジェラを連れて来たいですけど……」

「アンジーは喜ぶだろうね!なんたって、アンナと一緒だから……本当にソックリ!」

「そのソックリって、なんだか含みがありません?」

「そんなことないよ!」



 言いたいことは、わかる。元気すぎる私とアンジェラの性格は一緒だから、コーコナに来たら、アンバーとはまた違う雰囲気に喜ぶんだろう。

 下手したら、綿花畑とかに走っていく……自身を考えても娘を思っても同じような行動をとるな……と苦笑いをした。



「今年の綿花は、先日、少しだけ雨が止んでいた時期があったので、そのときに

 刈入れをしました。雨で、黴がはえて使えなくなる前で……良かったですよ!」

「あぁ、そんなことがあったんだね?」

「リアンの収穫の早さってすごいんですよ!」

「アンナのことだから、率先して刈り取りもしに行っていたんじゃないの?」



 そこは、答えず、笑顔だけ振りまいておく。それだけで、付き合いの長いジョージアにはわかっただろう。



「綿花ってどんなの?」

「うーん、おふとんみたいにふわふわしてますよ!丸くて白くて、ふわふわなん

 です!ケーキをもっとふわふわしたこれくらいのものですね!」

「思っていたのより、大きいね?」

「コーコナのは、品種改良をしているので、普通のより大きいですね。なので、

 より多くの糸が作れるんですよ!今から行くところは、生地を作るためのところ

 ですよ。糸にしたり、色を染めたり、大きな生地を作っていくんです!」

「アンナは、本当にそういうのを見たりするのが好きだね?」

「えぇ、大好きです!」

「きっと、アンジーもそうなるんだろうな……」

「呆れてますか?」

「いや、そういうのも含めて可愛いと思うよ!奥さんも娘さんも」



 誰も領主たちが馬の背に揺られながら、頬を染めるような話をしているとは思わないだろう。

 久しぶりに晴れ間が続いているので、農家が総出で秋の種まきの準備をしていた。

 私を見つけて手を振ってくれるので、慌ててそちらの方を見て手を振った



「あぁ、アンナさんは照れちゃったかな?」

「知りませんよ!」



 茶化したジョージアの方には向かず、おじさん、暑さに気を付けてね!と叫ぶと、領主様もきぃーつけてなぁ!と返事が帰ってきた。他の農家さんたちも気が付いたのか、みんなが手を振ってくれた。

 そんな私達のやり取りを見て、呆れたような声音でアンナらしい、みんなに愛されてる領主だねとジョージアは呟いた。

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