第645話 見せたい景色
ジョージアをつれて、コーコナの布向上を目指す。
突然の訪問にも関わらず、快く受入れてくれる。
「アンナリーゼ様、コットンのところの綿花、摘み採りを手伝ってくれたそうですね?」
「えぇ、そうよ!」
「おかげで、今年から来年の分については、確保することができました。ありがとうございます!」
「長雨だったからね……どうなることかと思っていたけど、なんとかって感じね。
また、品質のいい布を期待しているわ!それと、生糸はどうかしら?品質には
問題ないと聞いているんだけど、実際使っている人に聞くのが1番かなって」
「えぇ、あの大きな蚕の繭は、従来のものより光沢があるくらいです。先日、冬用の
アンナリーゼ様のドレスの生地を納品しましたが、とても発色もよく綺麗でしたよ!」
「本当?それは、出来上がりが、楽しみね!」
「そういえば、今日はどうされたのですか?」
「今日は、アンバー公爵である旦那様の案内よ!」
「アンナリーゼ様が、アンバー公爵ではないのですか?」
「ふふっ、実は二人いるの。アンバー公爵は」
ジョージア様と呼ぶと、あちこちをしげしげと見て回っていたジョージアが近寄ってくる。
「ここの工場は、すごいね!とても、繊細な文様まで、おっているよ!」
「すごいでしょ?コーコナの技術は、ローズディアいちですからね!」
「あぁ、普段何気なく着ていたが、確かに……格段と着心地がよくなったな」
「お褒めに預かり、ありがとうございます」
「あぁ、本当に着心地がいいんだ。ハニーアンバー店で飛ぶように売れる理由が
わかるね!」
アンバー公爵家で働くものについては、自前の服以外は基本的に支給をしている。もちろん、コーコナで作られたものを渡しているのだが、侍従だけでなく、私やジョージア、子どもたちも同じように使っているのだ。
柔らかく肌に優しい肌着や服などは、公爵家以外でもやはり人気商品である。特に肌着はみなが重宝していた。
「アンバー公爵のジョージア様です。私は偽物公爵でジョージア様こそが、アンバー
公爵ですよ!」
「そ……それは……で、でも、こんなことをいうのは失礼かと思いますが、私たち
の領主アンバー公爵はやはり、アンナリーゼ様です。ここまで、産業を大きくして
くださった御恩はやはり、大きいので」
「それはそうだ。私は、アンナの陰にいるだけで、何もしていないからね!君たちの
言い分は正しい!これからも、頼むよ!アンバー公爵!」
「もう、茶化さないでください!私が、できることしかできません。ここを支えて
くれているのは、工場長を始め、ここで働いてくれる人がいるからですよ!
丁寧な仕上がりをしてくれるおかげで、アンバーもコーコナも恩恵があるのですから!」
ふふっと笑いあうと、工場長はとても喜んだ。
その後は、私が初めてニコライに連れられて来たときと同じようにあちこちと見せてもらった。
何度見ても、おもしろい工場だ。
最近は、この大きな工場の一角にドレスや服を作る場所も確保されている。私のドレスは基本的にナタリーが一人で作るのだが、それを元に、量産しているのは、この工場なのだ。
ただし、冬のデザインについては、ナタリーから私には見せないようにと言われているらしく、見学はさせてもらえなかった。
「そういえば、コットンが住んでいるところの災害……あまり酷くならなかった
ようで、良かったですね?」
「……えぇ」
私は、その話題になり、少し視線を落とした。そうするとジョージアがピタリと寄り添ってくれ、微笑んだ。
その顔を見て、私も微笑み返す。
「一人、重症になってた人がいたらしいが、無事、命は取り留めたらしいな。アンナ
リーゼ様がいてくれたおかげで、あの場所は、本当の意味で救われたとみなで
話していたんだ。
亡くなった人もいたとは、聞いていたが、災害が起こった規模に対して、けが人や
死人が少ないことは、奇跡にも近いと思いますよ!コーコナの産業を守ってくだ
さり、ありがとうございました」
「守っただなんて……守り切れていないのが、悔しいの」
「欲を言えば、全員になんの被害もない方がいい。でも、救われたやつらのことも
考えてください。私もそのうちの一人だ」
ニコッと笑う工場長に私はありがとうと笑う。
今回の失敗について、褒めてくれる人はたくさんいたが、やっと、その誉め言葉を素直に聞けた気がする。
「まだ、他にも回られるんでしょ?」
「えぇ、まさに、災害地へ向かうの。私がジョージア様に1番見せたい景色がそこに
はあるから……」
「あぁ、綿花畑ですか?今はもう、綿花を収穫してしまったので、、完璧な景色では
ないでしょうが、美しい景色を堪能してきてください!」
ありがとう!と私たちは、布工場を後にした。
目指すは、災害が起こった町だ。今日は、コットンの家に泊まることになっているで、また、馬に跨り背に揺られる。
「うーん、やっぱり百聞は一見に如かずだな……」
「どういうことですか?」
「百回聞いても、1回見るのとでは全然考え方や湧き上がる感情が違うな。
やっぱり、アンナのように出歩くことで、得られるものがあったんだと、今更
ながら、実感したよ。アンナはすごいな?」
「そんなこと、ないですよ!さぁ、見せたい景色がすぐそこに。馬は、ここに
置いて行ってください。
あのこんもりした場所まで歩きますからね!」
何かと慌ただしく過ぎていたおかげで、なかなかこれなかったが、やっとこれた。
今は、綿花も何もない。見渡す限り、畑だった。それも収穫終わりで手入れも終わっていない。
ただ、風は気持ちよく、大きな木の下でジョージアと並んで景色を見た。
「ジョージア様とアンジェラ、ジョージにネイトを連れて、ピクニックに来たいね
って言ってたんです。来年は、家族で来れるといいですね!」
「あぁ、そうだな。綿花がある時期に来たら、もっと美しいんだろうね」
ジョージアの手をぎゅっと握る。
今日は、子どもたちがいない。二人で、来年のことを話しながら、次なる目的地へ移動を開始したのである。
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