第635話 急報!

 ヨハンに話をしていると、遠くから慌ただしい声が聞こえてくる。

 領主様!と聞こえてくる感じ……何か、悪い予感がした。



「ヨハンも来て!もしかすると、人手がこっちにも欲しいかもしれないわ!」

「わかりました。ただ、ここにいる助手は連れてはいけないので、屋敷で待機して

 いる方を連れて行ってください!」

「わかった!」



 私を呼ぶ男性の元へと二人で駆けていく。

 キョロキョロとしている男性、私を見つけて、少々ホッとし顔になる。



「領主様!」

「どうかしたの?」

「災害がおきました!予測されていた通りのです。今、アデルさんやリアノさん

 アルカさんが中心に動いてくれていますが……」

「被害は?」

「被害は……領主様の進言で工事を進めていたため、最小限かと……ただ……」

「ただ?早く、状況確認しないといけないから、躊躇わずに言ってちょうだい!」

「はいっ!1ヵ所だけ、高さが足りず、土砂に飲み込まれてしまった家があります。

 そこの住民が現在、行方不明で……」



 私は、ノクトと叫ぶと何の騒ぎだ?と慌てて来てくれた。



「災害が起こったわ!いますぐ、現場へ向かいます。ヨハン、悪いんだけど……」

「助手の手配はしておく!できれば、侍女かメイドかも貸してほしい!」

「わかったわ!リアンにも一緒に来てもらって!手紙をよろしく!」



 慌ただしくなる私の回りに、みなが一体何があったのか、不安そうな顔になる。



「大丈夫よ!今まで準備をしっかりしていたから……ごめんね、ここは離れないと

 行けなくなるけど、ヨハンたちに任せていくから!」

「そりゃありがてぇ……隣の町も患者が多いからな……」

「そうだ!隣町の方……」

「大丈夫!それは、俺に任せておいてくれ!」

「じゃあ、ヨハンが隣町、助手さんがここをみててくれるってことになるから!

 急ぐから、ごめん!あとは、お願いしてもいいかな?」

「こっちのことは、任せておいてくれ!」

「あと、さっきの話!全部片付いたら、話をしましょう!」



 私は、男性について玄関へ向かう。そこでロアンと出会う。



「アンナ……」

「ごめんね、急いでいるの!」



 パタパタと駆けて行き、用意されていた馬に跨ると腹を蹴る。



 パカ……パカ……パカパカ……



 雨の中を馬が一生懸命走ってくれる。少しでも早くつくようにと。

 レナンテじゃないのが、惜しい。あの子なら……もっと、早く走れるのに。


 軍馬でもあるレナンテなら、もっと早く走れるけど……領地で輸送用に使う馬なので、鈍足である。



「アンナ!急ぎすぎだ!馬のことも考えて……」

「わかってる。もう少ししたら休むわ!大丈夫?ついてこれる?」

「……は、はい」



 先を急ぎたい気持ちはあっても、馬に負担をかけすぎるのはよくない。



「はぁはぁ……領主様……もう少ししたら、宿があります。そこで少しだけ

 休憩を……その後、馬を変えて、再出発いたしましょう」

「わかった!じゃあ、そこまで、頑張りましょう!」



 あなたも無理をさせるわね……と、首をポンポンとする。

 見えてきた宿へつき、馬から降りた。



「ふぅ……一息入れましょう。大丈夫?だいぶ、きつそうね?」

「……はぁはぁ……大丈夫……です」

「私も領地のことは知っているから、私一人でも行けるけど……あなたは、長めに

 休憩をとって、後から来てちょうだい。私とノクトは、軽食だけ取ったら、

 またかけるわ!」

「……そんな……」

「あなたは往復してくれているのだもの。焦らなくて大丈夫よ!」



 ぽんと肩に手を置くと、へなへなと椅子に座ってしまった。

 軽食が並び、はむはむと食べるとノクトもさっと食べてくれる。



「じゃあ、先に行くわね!」



 私たちは席を立つと、一緒にたち、よろしくお願いします!と頭を深々下げた。

 えぇ、頑張るわ!と言葉を残し、その場を後にした。

 そこからは、ひたすら走る。

 ありがたいことに、昼過ぎの知らせではあったので、雨とはいえほんのり明るい。



「ノクト、あと1時間くらい走るけど……どっかで休憩は必要かしら?」

「そうだな。どこかで……アンナっ!」

「何?次の村によって、馬を交換したらどうだ?」

「そうね!そうしましょう!」



 私たちは、村に入っていくと、私の顔を見ると驚いていた。



「領主様?」

「えぇ、そう。悪いんだけど……馬の用意をしてくれないかしら?2頭」

「えぇ、それは……」

「代わりに、置いて行くわ……代金については……後日請求してくれないかしら?

 先を急ぐの!」

「いえ、この馬をいただけるなら……いい馬ですね!」



 見る人が見ればいい馬なのだろう。遠駆けるする私としては、少々鈍足ではあるが、そういう使い方をせずに別の使い方になれば、最高級の馬になるのだろう。



 馬が顔を寄せてきた。驚いたことに、私を気に入ったらしい。あんなに、急がせて走らせたのに……



「あぁ、待って!この子は、うちで買い取るわ!お金を用意するから……やっぱり

 屋敷に請求してちょうだい!」

「わかりました」

「これを屋敷にココナという侍女に渡して。そうしたら、用意してくれるから」



 馬を連れて、領地の屋敷へと向かってくれる約束をして、私たちは、また、災害現場へと駆ける。

 コーコナはアンバーに比べ狭いといえども、広い。

 災害現場についた頃、あたりは、曇天の暗さより夜の暗さであった。


 雨の中、かがり火をたいて、作業をしてくれている人たちのところへと急いだ。

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