第636話 ついた先に……

 目的の場所まできた。馬を適当な場所に括り付け、私は残り数十メートルを駆けていく。

 大きくコンクリート壁を作ったおかげで、見る限りで被害はなかった。



「ノクト……どこかしら?」

「もっと奥の方だな!」



 走った先、ついた先に見えたのは、コンクリート上から土砂が溢れかえっている場所があった。



「くっ……」

「あの場所は、少し工期が遅れていたところだな……見事に乗り越えてしまっている」

「急ぎましょ!」



 私が行ったところで、何かがかわるわけもない。ただ、急がずにはいられず、服に泥跳ねするのも構わずに走った。



「アデル!」

「アンナ様!ここです!」

「早馬が、届いたようだな。ノクトさんも!」

「おう、状況は?」



 地図を広げていた。大規模な土砂崩れの災害に見舞われたが、予測してコンクリートの壁を作っていたおかげで、大部分は免れた。

 アデル、リアノ、アルカが私とノクトを迎え入れてくれる。ただ、住民が巻き込まれたらしく、かなりひっ迫している状況であることはわかった。



「あの端の方が間に合わず、土石流に住居ごと巻き込まれました」

「私が聞いたのは1軒と聞いているけど……実際は、どうなの?」

「土石流の通り道には4軒の建物がありました。今のところ3軒がどうなっている

 のか、確認がとれず……掘り起こし作業を進めています」

「そう、ただ、雨も続いているのだから、二次災害も視野に入れて、作業を進め

 ないといけないわね……」

「人命救助は、どうするんだ?これから、夜になると、難しくなるぞ?」

「そうね……夜になると見えなくて、危ないわね……」



 どうしたら……と悩んでいると、アルカが声をかけてきた。



「まだ、日があるうちに、山に向かいます。水分量の計算をして、次に……」

「それは、ダメ!二次災害の話をしたでしょ?土石流が1回とは限らないの。

 特に、雨が降り続いている。むやみやたらと、山に入って、それこそ、危なかった

 らどうするの?」

「それでも……」

「アルカの命は一つしかないの!もっと大事にしなさい!」



 私の強い言い方に驚いたのは、何もアルカだけではなかった。ここにいたノクトやアデル、リアノだけでなく、作業している人にも聞こえたのだろう。

 視線が集まってくるのがわかる。今、アルカにイラついてしまったのは……申し訳ないと思う反面、自分自身も大事にしてほしいと思ったからだ。

 限られた命の中でしか生きられない私自身のことを思えば、周りの人に危ないことをしてほしいわけではない。



「お、おい!何か、聞こえるぞ!」



 そのとき、作業していた人たちの方で、声が響いた。雨は降っているものの、ありがたいことに小雨になっているので、音も聞き取りやすい。

 だからこそ、あの反応ではあったのだが……



「何の音!」



 私も思わず駆けだした。




「領主様!ここら辺で、カンカンと何か……」



 カンカーンカンカーン……と何か鳴らす音がした。耳を澄ませ、その音の方へと歩き出す。



「アンナ様、危ないです!」

「大丈夫。悪いのだけど、山の方、見てくれる。危なくなったら、大声で叫んで

 ほしいの。ただ、一人ではだめね、等間隔に並んで、白い布を持って声と布を

 あげることで知らせて!何人かは、音の近くで作業。松明を持ってくれる人も

 数人、お願い!」



 私は指示をしてスコップを持つ。そして、音の鳴る方へ、歩を進める。



「音は、ここからね!人がうまっていることもあるから、慎重に掘り進めて。

 慌てて一気に掘ろうとしないでちょうだい。傷つけてしまうこともあるから!」

「慎重にだぞ!」

「明かりをくれ!」



 掘り起こし始めた者たち、土砂を別の場所へ置く者たち、松明で明かりを照らす者たち、山の様子を見てくれる者たち、他に生存者がいないか、叫びまわってくれている人たち。

 みんなが一丸となって、救出を急ぐ。



「大丈夫、ゆっくりゆっくり……頑張りましょう!」



 遠くで、聞こえてたら何か音を鳴らしてくれと叫んでいる人がいたが、それがあれば……助けられるかもしれない。



「こっちにも何か音がする!誰か、来てくれ!」



 叫びまわってくれたおかげか、また一人、見つかったかもしれない。

 でも、今は、目の前の生きているかもしれない人ことだけを考えて、私は慎重に掘り進めた。



「あっ、手だ!手が見えたぞ!」

「ゆっくり、ゆっくりだ!」



 何人もの人がさらに慎重に掘り進めると、中から女性が出てきた。よく見知った人であった。



「一人、救出ができた!」



 そう叫んだとき、一人目の救助者が、土砂の中から引っ張り出される。腕を骨折しているようで、変な方向に曲がっていた。



「大丈夫?歩ける?」

「えぇ、大丈夫です……」



 助けられた女性は、綿花の摘み取りで、私がこっそり競っていた女性であった。

 男性たちに運ばれ、安全な場所へと移動させる。次、見つかった場所へと、移動した。



「こっちの状況は?今、一人救助されたよ!」

「そりゃ朗報だ!たぶん、一人ここにいる。今、くぐもっていたが、声が聞こえた」

「じゃあ、慎重にね!」



 私たちは、また、掘り進める。すると、今度は足が出てきた。



「足だ!子ども?」

「ゆっくりだぞ!気をつけろ!」



 そういえば、何人が救助を待っているのだろう?



 私は、ふとそんなふうに考える。そのとき、子どもが泣き叫んで土砂の中から助け出された。

 父親が咄嗟に庇ったらしく、父親も一緒に埋まっていた。その人も助け出せた。




「行方不明者の人数の確認をしたいのだけど……」

「それなら、八人です」

「今、三人見つかったので、残り五人ですね!」



 みんな無事だといいけど……と、祈るばかりだ。



「行方不明になっている人の名前がわかる人いるかしら?いたら、私と一緒に来て!」



 そういうと、コットンが名乗り出てくれる。この町で、この辺一体を纏めてくれているコットンが動いてくれるのは何よりだ。



「来て!」

「はいっ!」

「みんな、作業は慎重に……少ししたら、戻ってきてちょうだい!」



 その言葉だけを残し、私はアデルたちがいる場所へと急いだ。

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