第610話 屋敷に帰ろう!そして、また、出発!

 ガタゴトガタゴト……馬車に揺られて、10日ほど。

 公都に向け帰ってきているところだ。私たちの馬車には、家族とデリア、リアンが一緒に乗り込んでいる。ノクトとニコライは馬で揺られ、もうひとつの馬車に旅先で増えた三人とエマが乗り込んでいた。

 こちらの馬車は広いが、もう1台の馬車は荷物を運ぶようなので、四人で乗り込むと、きっと狭いのだろうなとちょっとだけ、申し訳なくなった。



「それで、今回の収穫はなんだい?」

「やはり、水車が1番ですね!領地に取り入れたいと思っています。後は、エレーナ

 との約束もありますけど、警備隊の交換については直近の話ですが、ネイトの

 婚約については、まだずっと先な気がするので……実感がありませんね」

「あの、アンナリーゼ様、ネイト様の婚約とは?」

「えぇ、今回の話でエレーナのところの双子の子をね、婚約者にと約束させられ

 ちゃった……ゆくゆくは、ネイトが、領主を引き継ぐことになると思うんだけど……」

「まだ、こんなにお小さいのに……公爵家のお子となると、政治的な話にもなる

 のですね……」



 リアンは、抱きかかえているネイトに少々困った顔を見せていた。



「もしかして、ミアを嫁がせたかった?」

「いえ、そういうのは、私は全く考えていません。ウィル様とも今後の話をしていた

 のですが、レオやミアが添い遂げたいと思う人となるべくということで、落ち着い

 ています。それこそ、まだ、先のことですから……」

「そんなに先ってこともないんじゃない?私は、レオの年には、婚約者候補として、

 あちこちで名前が上がっていたわよ!」

「アンバー公爵家以外はって感じだよね!」

「そうですね?ジョージア様」

「聞いても?」

「えぇ、トワイスで言えば、殿下にハリーに侯爵家以上の令息の名前は総なめね。

 ローズディアでは、公も候補としていたし……」

「めぼしいところ全部ってところだね?」

「そうですね……まぁ、結局ここに落ち着いたんですけどね!」



 ジョージアにぴったりくっついて腕を回して肩にコテンと頭を乗せる。それを見ていたアンジェラもジョージに同じことをしていた。



「あっ、アンジー。それは、まだ早いよ!パパにして!ほら、おいで」



 ジョージアは、私そっちのけで、アンジェラに手を伸ばすと、アンジェラは私をチラチラ見て空気読んでますみたいな顔を向けてくる。

 それじゃ、ジョージアが可哀想なので、ニコッと微笑むと、ジョージアの手をとり、膝の上に座った。

 アンジェラも最近は、ジョージアのことが好きなようで、呼ばれればくっついていることが多い。

 ますます、アンジェラを甘やかす様になってしまったジョージアに小さくため息つくと、もう一人、羨ましそうにしているジョージがいたので、私が移動してジョージを抱きしめる。



 私たち家族は、そんなこんなで、今のところうまく回っていた。



「公都に帰ったら、悪いんだけど……リアン、そのまま、コーコナについてきてくれ

 るかしら?子どもたちは、今回、屋敷にいてもらおうと思っているのだけど……」

「ネイト様もですか?」

「えぇ、土砂崩れが予想されているからね。小さい子どもがうろうろしてたら、

 邪魔になってしまうから……連れてはいけないわ」



 抱きしめたままのジョージが不安そうに見上げてきたので微笑む。



「わかりました。デリアから、引継ぎは受けていますのでお供します」

「服装は、動きやすいようにいつもの服で。あと1着くらいは……」

「薔薇のドレスですね!」

「えぇ、お願いね!その前に、公都の屋敷に帰ったら、書類や手紙が山のように

 ありそうで怖いわ……」

「俺が出来ることがあったら、俺がやっておくから」

「それは、ありがたいのですけど……いろいろと面倒なこともありますから、

 なるべく片付けておきます。たぶん、帰ったら、お城にお呼び出しもあるでしょう

 から……」

「あぁ、セバスに待遇職場改善をお願いしていたんだよね?」

「はい、それは、宰相の仕事なので、私が何か口を出すことはありませんよ!」

「他に?」

「公から呼び出されるんじゃないですかね?一応2ヶ月近く社交界からは離れていた

 ので、お咎めはないでしょうが、お叱りはあるんだと思います」



 たしかにありそうだね……とアンジェラの手をパンパンと叩きながら若干上の空で聞いている。



「ジョージア様、私、2ヶ月から3ヶ月ほどコーコナに行こうと思っているのです

 けど、公都でのことはお願いしてもいいですか?」

「いいもなにも、アンナが行くと言ったらいくんだろ?それに、災害の件は、領主

 としても気になるところだろうしね!工事は順調に進んでいるんだろうか?」

「どうでしょうか?雨がやはり多いという連絡はきているので、心配ですよね……」

「領地へ赴くのはいいけど、アンナも、あんまり前線で危ないことしないようにね!」



 頷くだけにとどめ、私は、コーコナ領に思いを馳せる。

 アデルからの定期報告では、やはり雨が多いので、思うように工事が進んでいないこと、近衛が到着して手伝ってくれているが、不慣れなものが多く上手く連携が取れていないということなど、懸念事項が多いようだ。



「何にしても、公都で1度セバスと話し合いの時間を持つことが必要だと思います。

 公に借りた近衛は……ちょっと、役に立っていないようなので……」

「それは、困ったね……アンナが、近衛の尻たたきに向かわないといけないって、

 この国の近衛はそれでいいのかね……」

「ダメでしょ?でも、その辺も含めて、公は貸してくれたので、文句を言わず、

 育てますよ!ウィル程、要領がいいといいんですけどね……10年に1度の存在です

 から、難しいですよね……」




 揺れる馬車の中でため息をついた。すると、ポツポツと馬車の屋根に落ちる雨音が聞こえてくる。

 雨雲がこの地域まで、伸びてきているようで、次第に雨脚が強くなっていくのであった。

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