第611話 屋敷に帰ろう!そして、また、出発!Ⅱ

 公都につくころ、雨になった。

 屋敷に帰ってきた翌日、ウィルとセバスが帰ってきたことを聞きつけ屋敷に来てくれる。



「遠いところ、お疲れさん!」

「うん、いろいろとアクシデントが続いたから……ちょっと、疲れた」

「刺客に狙われたんだって?」

「えぇ、一応……なんて言うか、一応ね?」

「何?どういうこと?」



 私はウィルとセバスにことの顛末を話すと、ウィルは腹を抱えて笑い、セバスは悪いよとウィルを窘めながらも笑っている。

 わかる、わかるよ!私だって聞く側だったそうなってたと思うし……でも、一応、一応ね?狙われたわけだから、そう、笑ってもいられない。



「それで、黒幕の口をわった?」

「うぅん。わらないというか、知らないようね。見るからに、世間知らずのお嬢

 さんと出来の悪い従者って感じね」

「騙されているとかない?演技がメチャクチャうまいとか……」

「ちゅんちゅんが囁くには、演技ではないそうよ?」

「それは、信頼できるからな……まぁ、俺も、調べておくわ!コーワ伯爵の娘ね?」

「うん、よろしく!」

「それで、そのお嬢さん、どこにいるの?」

「屋敷にいるわよ!ナタリーに引き合わせて、仕事をさせるつもり。仕事がなくて

 というより、仕事の仕方がわからなくて、飢えてたんだけど……」

「まさかとは、思っていたけど……姫さん」



 それはまた……と、セバスは呆れかっていた。確かに、私もそれは、思う。従者がついていながら……って、従者は雇えるの?とふと疑問に思ったら、家に仕える従者だったんじゃない?とウィルはいう。

 貴族には、昔から家に仕える侍従がいることもある。それなのだろう。



「まぁ、何はともあれ、姫さんが無事に帰ってこれてよかった」

「そうね、これから、また、コーコナに行くんだけどね……」

「コーコナの進捗はどうなの?」

「うーん、やっぱり、近衛が上手く機能してないのと、雨が予想より結構降っている

 みたいで、進捗は進んでないってはなしだったわ」

「雨は、確かにアンナリーゼ様がいない間、公都でも結構降ったよね?」

「あぁ、降ったね……姫さんの予知夢が現実味を帯びてきて怖い」

「確かに……公都より、コーコナ領の方が降っているという噂も聞きますからね!」

「どうにか、間に合ってくれることを祈るしかないのだけど……」

「直接行って、采配か?俺も……」

「今回は、ウィルはお留守番!悪いんだけど、子どもたちを見ていてくれないかな?」

「てっきり、行くんだと思って準備してたのに……」

「いいじゃない、うちの屋敷に常駐してくれたら!」



 なるほど、その手があったか……と呟くウィルに苦笑いのセバス。



「何かあったの?」

「ウィルに縁談があってね……しないって逃げてるところ」

「俺、結婚はまだしないって言ってるのにさ、親がね……レオとミアには、母親

 がって。レオもミアもリアンが近くにいるし、領地に帰ったらって話もしてるん

 だけどさ……俺、そんなことより、ミアがものすごく機嫌が悪い方が、気に

 なる……毎日、ぶっすぅって顔してるんだぜ?何言ってもプイってされるし……」

「今日、連れてきて正解ね!ウィルに結婚する気がないなら、しばらく、うちの

 屋敷に滞在すればいいわ!アンジェラも喜ぶし、子どもたちにもそのほうが

 いいと思うから!」



 悪いなと、ちっとも悪そうにしないウィルに少々呆れた。



「それで、領地にはおっさんを連れて行くのか?」

「そのつもり!リアンも連れて行くから、馬車移動だしね!」

「リアンを?デリアじゃなくて?」

「そう。デリアが懐妊したから、しばらくは馬車移動であちこちというのは、無理

 だと思うの。倒れちゃったから……もしかしたら、私よりずっと大変になる

 可能性があるから」

「姫さんは、いわゆる悪阻は軽かった方だっけ?」

「そう、私のは、物凄く軽かったのよ。だから、デリアには無理はさせない方向で、リアンについてきてもらう予定。向こうにもココナがいてくれるんだけど、

 公爵ともなるといろいろある場合もあるから」



 ため息をつきながら、しょうがないよねというと、二人も頷いてくれた。



「そういえば、僕は行かなくていいの?」

「うん、セバスには、水車のことをお願いしたくて……」

「あぁ、ニコライから送られてきた設計図だね?僕も見てみたいけど……」

「ここから、馬なら1日もあれば行ける距離だから、行ってみてもいいかも!宰相

 との話が出来ているなら、先にアンバーに戻ってイチアと一緒に考えてほしいんだ

 けど」

「たぶん、導入だよね?なんだか、アンナリーゼ様が好きそうなものだったし、

 実用性もよさそうだったから。どんなことに使えるの他の使い方も検証したい

 から、やっぱり1度見に行くことにするよ!」

「わかったわ!出発日を教えてくれる?」

「なんで?」

「護衛をつけるわ!セバスに何かあったら、とっても困るから!」

「そんな、大袈裟だよ!」

「そうでもないと思うよ!たぶん、ウィルの結婚話もアンバー公爵家に関わること

 だからってことだと思う。気を付けた上に気を付けることに越したことはないわ!」

「そっか……ありがたく、借りることにするよ!あと、僕もこっちで住まわせて

 もらってもいいかな?」



 もちろん!用意しておくわ!と微笑むと、助かるよと苦笑いしている。セバスも宰相との話し合いで、目をつけられているらしいことは、耳には入ってきていたので、二つ返事だ。アンバー公爵家の傘下で好き勝手しようものなら……それなりに、覚悟は必要だよねと少しだけ大きな声でいうと、遠のいた足音。聞こえなくてもウィルと頷きあったのである。

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