第609話 散歩には発見がつきものですよね!

 アンバー公爵家族総出で、お散歩に出かけたわけだが、私は両手を子どもたちによって塞がれている。

 私としては、もう少し自由に歩き回りたいのを我慢して、アンジェラやジョージの興味が向く方へゆらゆらと寄り道となった。

 基本的に手を引っ張るのは、やはりアンジェラで、ちょっとしたことでも珍しそうに指をさしては駆けて行こうとした。



「アンジェラ、走ったら危ないよ!」

「ママ、早く早く!」

「ジョージも一緒にいるんだから、もう少し、抑えなさい」



 いつもなら、デリアに私が言われる言葉も、ことアンジェラが相手になると私が注意することになる。

 あまりにもいつもとちぐはぐな私に、失礼ながらノクトは大笑いをしているし、ジョージアも私と顔を合わせようとしないあたり、笑っているのだろう。

 後ろについてきている三人に至っては、そんな様子の私たちの様子を見て、何が何だかわからないというふうであった。



「じゃあ、アンが、ジョーと手を繋ぐ!」

「そしたら、アンジェラがどっかにとんで行っちゃうでしょ?」

「そんなこと……ないっ!」



 話す言葉が、小さい頃の自分を見ているようで、微笑ましいやら恥ずかしいやらと思っていると後ろでジョージアとノクトが話しているのが聞こえてきた。



「アンジェラの言葉、そのままアンナの言葉に聞こえるのは俺だけか?」

「いや、ノクト。アンジーと同じことを今でもアンナは言っているよ!特にサシャが

 いるとあぁなる」

「お兄様大好きだからな……アンナは」

「俺が思うにサシャとアンナが兄妹じゃ無かったら、意外と二人がくっついていた

 んじゃないかって」

「それは、ありえそうだな!」



 後ろで笑いあっている二人には申し訳ないけど……お兄様じゃなんていうか……頼りないんですけど……と呟いた。



「何か言ったか?アンナ」

「何にも。たぶん、私はお兄様と兄妹じゃなかったとしても、選ばいですよ!」

「本当に?」

「本当にです!どんくさいし……頭でっかちだし……おもしろみの欠片もない!」

「酷い言われようだな……アンナのためにあんな恰好までしたのに」

「お兄様は、お兄様だからこそ、私の側にいてくれるんですよ!」

「そうかもな。でも、兄妹じゃなければ、サシャはアンナのことを女の子として、

 好きになっていたと思うよ!エリザベスもどちらかといえば、アンナみたいな

 ところがあるからね!」



 ふふっと笑い、それはお母様の影響ですよ!と答えた。



「おっと……どうしたの?ジョージ」

「ママ、あっちの建物、どうなっているの?」



 指さした方を見ると、岸壁に生えたような家があった。私も見たことがなかったので、何あれ!と興奮してしまう。



「ジョージア様、家が生えてますよ!」

「家は、生えないよ!山肌のだんだんとなっているところを上手く利用した形でた

 ててあるんだ。領主の館は、あの山の頂にあるはずだよ!」

「すごいですね!領地が、全部見渡せそう!」

「そうだろうね。このあたりは、昔、水害が多い土地だったと聞いているからね。

 家や家財が水に浸からないよう考え抜いた結果だよね!」

「なるほど、土地にあった家を考えるとああいうことになるんですね!」

「アンバーは、比較的に災害も少ないし、少し前まで畑は痩せこけていたけど、麦の

 産地としても有名なほど、豊穣な土があったり、気候も温暖で農耕に適している

 んだよ」



 ジョージアの知識は、領主として役にたつ情報が詰まっているので、聞くと納得ができた。アンバー領が貧乏になったり苦しい生活を強いられていたのは、ここ100年くらいのことであったので、たまたま、その時代に生まれてしまったジョージアはちょっと可哀想だ。



「麦も砂糖も順調ですからね!生産量をもう少し増やしたいんですけど……今は、

 とにかく、アンバー領の宣伝で住んでもらう領民確保が先ですね!」

「何か、考えているのかい?」

「まだ、何も。領地間の行き来に関税をと思ってはいますが、それもどうかな?って

 気はしてます。一度流出してしまった人たちが戻ってくるのは至難の業ですよね!」

「それでも、結構な人数が帰ってきたと話してなかったか?」

「えぇ、それなりに。来年から学校も本格的な専門知識を教える科目が増える

 ので、そこの強化で人が増える予定ですよ!」




 私の計画は、また、帰ってからと言いながら、興味もないアンジェラは手を引っ張って先に先にと進む。

 この子の興味は、何にあるのか注意深く見ていないと、見落としてしまう。なんたって、阿智にもこっちにも興味があるから……



「ママ、あれ!」



 先日見た、水車のようなものがクルクルと回っていた。大きなそれは、リンゴ畑の中でもちょっと背の高いところにあって、風によって羽が回っていた。



「あれ、何!」



 アンジェラより私の方が目を輝かせた。ねぇ!と振り返ると、ジョージアとノクトが、大きくため息をついたのは、ご愛嬌だろう。

 今日は、ニコライがついてきてくれてなかったが、あの大きなものが何なのか、既にニコライから教えてもらっていたらしいノクトが答えてくれる。



「風車というらしい。この前見た水車と原理は一緒で、動力が風か水かってだけ

 らしい。アンバー領なら、水車を推奨するってニコライは言ってたぞ?」

「どうして?」

「アンバー領は季節風が強すぎる。バニッシュ領からも時折潮風が強めに吹いてくる

 だろ?他にも、山からの吹きおろしもあるし。麦の粉ひきなら、水の動力の

 ほうが一定でいいんだそうだ。手入れも小さいからやりやすいという利点もある

 そうだ!」



 へぇーっとノクトの話を聞いた。でも、中は見てみたいなと思う。

 あぁ、そうだったとノクトが追加で話をしてくれる。



「明日、中を見に行くから!」

「えっ?」

「行きたいんだろ?顔が、そんな感じだ。アンジェラも連れて行くことにしてると

 行っていたぞ!」



 アンジェラも自分の名前が出ていて、はしゃぎ始めた。私は、乗り遅れてしまい、アンジェラのはしゃぎようを横目に、窘めるのであった。

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