第608話 揃ったところで

「と、いうことで、クロック侯爵家から数人、受入れをします。こちらからも何人か

 向かわせることと、ネイトの結婚相手が決まりました!」

「ネイトって!まだ、乳飲み子じゃないか!」

「そうなんですけどね……なかなか、いい縁談だとは、思いますよ?」

「そうだったとしても、ネイトにだって選ぶ権利はあるんじゃないか?」

「それは、そうですけど……ネイトの結婚適齢期になったときに、どうしたいか本人

 に聞きましょう。たぶん、ネイトは何も言わずに受入れると思いますよ!

 本人の意思で」

「予知夢で、ネイトの未来をみたのか?アンナ」

「いいえ。ただの勘です!」



 はぁ……とため息をつき、抱きかかえていたネイトにジョージアが小言を言っている。



「ただの勘でお嫁さんが決まってしまったぞ?いいのか?ネイト」



 わけもわからないネイトは、影をおとすジョージアに最大限にきゃはきゃはっと笑いかけていた。



「リアが、おうちに来るの?」

「毎年、遊びに来ることになったから、仲良くしてあげてね?」

「うん、アンはリア、大好き!」



 よかったわ!とアンジェラの頭を撫でると嬉しそうに笑っていた。年齢的にジョージでもよかったのだが、アンバー領のこれからを考えると、私はネイトがアンバー領の領主になるのだろうと思っている。ジョージは、どうするのかと決めかねているところではあるのだが、コーコナ領の領主にどうだろうかと考えていた。元々、ジョージの母であるソフィアが育った領地だ。領民のことを考えても、そのほうが、望ましいように思っている。



「あと、明日、エレーナたちは帰ることになったわ!私たちは、リアンとエマの

 到着を待って、さらに数日でこちらを回ろうと思うの。特産品を見つける旅でも

 あるから、二人が着いたら私はニコライとでかけるわね!」

「アンナ、俺も連れて行ってくれ」

「ジョージア様もですか?いいですけど、護衛はいないですよ?それでも、大丈夫

 ですか?」

「あぁ、それは、構わない」



 では、そのようにしましょうとし、ノクトはここに子どもたちと残ることになった。

 ジョージアも外の世界を見てみたいと言い出したのだ。いい傾向だと私は頷く。



 ◆◇◆◇◆



「アンナリーゼ様、遅くなりまして申し訳ございません」



 連絡をしてから、5日でリアンとエマは滞在先まで来てくれた。その旅路は、相当な強行だったと思われ、リアンが見るからに疲れている。



「リアンにエマも、急がせてしまってごめんなさいね」

「いえ、私たちの仕事ですので。そっそく……」

「その前に、リアンとエマには最低でも、明日の朝まで休養を命じます。デリアの

 ために、急いで来てくれたのは、助かるのだけど……無理はしてほしくないの。

 デリアも動けないわけではないから、しっかり休養をとってちょうだい。これ

 から、長丁場になるんだから!ねっ、デリア」

「えぇ、そうですね。アンナ様の出産には2度立ち合いましたし、それまでもお手伝

 いはしてましたが、いざ、自分がとなると……少々不安ですね?」

「大丈夫よ!リアンも私も出産経験者だから!」

「アンナ様はともかく、リアンがいてくれるのは心強いですね!」



 ……私はともかく?と小首を傾げてみたら、うんうんとデリアが頷いた。私は、頼りにされていないらしい。



「引継ぎなら座って出来るので、お茶でも飲みながらゆっくりしましょうか?」



 デリアの提案で、リアンとエマの三人は部屋の隅でお茶をしながら話を始めた。子どもたちは、ジョージアと遊んでいたが、どうも飽きているらしい。



「デリア、子どもたちを連れて、少し歩いてくるわ!ジョージア様は休まれますか?」

「行くよ!気分転換にもなるだろうし」

「じゃあ、ノクトも一緒に行ってくれるかしら?」

「構わないぞ!どこに行くんだ?」

「リンゴ園を見に行きたくて!」

「この辺の特産品だったな。歩いて行ける範囲だな」

「少し行ったら、お店もあるらしいから、そこも行きたいわ!」

「あぁ、わかった。じゃあ……」

「私がアンジェラとジョージと手を繋ぐでしょ?ジョージア様がネイトを抱いていく」

「それで、護衛か」



 そういうこと!というとつばの大きな帽子を被る。アンジェラにもお揃いの帽子を被せ、ジョージとネイトにも麦わら帽子を被せた。



「じゃあ、デリア、行ってくるわね!」

「はい、その間に引継ぎを終わらせておきます」



 程々にね!と言い部屋を出ると手をアンジェラとジョージがギュっと握ってくる。その手を握り返して、外に出ると、リンゴの甘酸っぱい匂いがする。



「いい匂い!」



 思わず頬を緩ませると、色気より食い気だなと呆れた声でノクトが言ってくる。そうは、いっても、外を出ただけで、こんなにいい匂いがするのだから、かなりの数のリンゴの木が植えられていることがわかる。



「あの、私たちもいいでしょうか?」



 振り向くとベリルたちが立っていた。いいわよ!というと、かなり大所帯になってしまった。



「どこに向かわれるのですか?」

「適当にお散歩よ!部屋の中ばかりにいるのは、苦手なのよね!」

「……えっ?」

「あぁ、普通の令嬢と一緒にしないでね?私、屋敷からしょっちゅう抜け出して……」

「抜け出してって、街へ繰り出していたという意味ですか?」

「そうだけど、どこかおかしいかしら?」

「普通の令嬢は、屋敷の敷地からでないからね……アンナの遊び場が、どれほど

 広範囲なのかは、常識の域で覚えておくといいよ!アンジェラも、アンナと一緒に

 なりそうだけど……」



 ジョージアは遠い目をしたので、私を見上げてくるアンジェラにはニコニコと笑いかけておいた。



「ママ、お外気持ちいいね!」



 満面の笑みで外に出れたことを喜ぶアンジェラに、ジョージアの心配は当たりそうだと若干嘆いているのは気にしないことにしたのである。

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