第554話 ほう、れん、そう!とくれくれお手紙

 レオとの剣とダンスの練習を終えた後、デリアに呼ばれ昼食の時間であると伝えられた。

 レオも誘って食堂へ向かうと、すでにアンジェラはご機嫌に何事か話している。

 珍しく饒舌なアンジェラの先にいたのはパルマで、聞き耳を立てるとアンジェラにお話を聞かせているようであった。

 話を聞いていると、聞き覚えのある話で思わずクスっと笑ってしまう。



「アンナ様は、あのお話知っているのですか?」

「えぇ、もちろんよ!レオも知っていて?」

「はい、母様がよく読んでくれた話です」

「リアンが?私はお父様に読んでもらったわ!お兄様の代わりに」

「俺は、聞き覚えがないな……」



 ジョージアは首を傾げているが、私は大好きな話で、いつも父が休みの日は、膝の上を陣取って読み聞かせてもらった。



「有名なお話だと思っていたのですけど……そうじゃないのですかね?」

「そうなんですかね?僕、大好きです!」

「私もよ!」

「二人共盛り上がっているけど、アンジェラも相当好きみたいだよ?」

「血は水より濃いってことですか?」

「難しい言葉を知っているわね?」

「この前読んだ本の一説にあったのです」



 どんな本を読んだのか気にはなったが、今は聞かないでおいた。

 動き回っていたから、すでにレオはお腹がすきすぎているはずだし、お昼からはサーラーの屋敷へ戻って、子爵と出かける約束をしているということだったので、昼食を早く取れるように準備してもらう。


 食事中には、先程の練習について、直した方がいいところやよかったところを褒める。

 必ず何かは褒めるようにしようと心がけているのだが、レオにそれが届いていると嬉しいなと考えながら食事を取った。

 今日指摘したところとよかったところをウィル宛の手紙としてしたため、それを渡してレオを見送る。

 手紙を見て、ウィルがどう指導するかは任せてあるので、きっと今日指摘したところは次には直っているだろう。



「さて、私もお仕事をしますね!」

「じゃあ、俺も行くよ!」

「ジョージア様もですか?」

「邪魔かな?」

「いえ、そんなことは……」

「手紙を読んで要約くらいはできるだろう。今日もたくさん手紙が来ていたし」



 そうですね……30通くらい目測で着ていたと思うが、少し億劫かもと思っていたところへジョージアの申出で、少しだけ嬉しかった。



「手分けして、読みましょうか……」



 ふぅっとため息ひとつ吐いてから、執務机へと齧りつく。

 私は、手近にあった手紙に手を伸ばそうとしたが、ジョージアにより先にこっちかな?と渡された手紙の封を切った。

 出所を見ると、コーコナ領にいるアデルからである。



「アンナ、それ見終わったら、こっちね。その後はこれ」

「ジョージア様……」

「手紙の重要度の高そうなものから渡すからしっかり読みなさい」



 はいと返事し、私は1番最初の1番気になっているところの手紙を読み始めた。



『 領主 アンナリーゼ様

 いかがお過ごしでしょうか?こちらに来てから、1週間が経とうとしています。

 アンナリーゼ様が帰られてから、3日程は天気か続きましたが、それ以降は

 ずっと、雨が降ったりやんだりを繰り返しています。

 リアノとアルカによる調査と土木工事の計画については、だんだん形になり、

 近衛もこちらに到着したことで、本格的に工事が始まりそうです。雨の合間の

 作業となるので、なかなかすすめられないのかと思っていましたが、軒先などで、

 作業を進めて行っているあたり、この辺の協力者がいてこそです。

 これ程、雨が続くと、不安が続きますが、アンナリーゼ様のおかげで雨に対しての

 準備が進んで行っていますので、このまま何事ないまま終わることを祈りながら、

 作業が早く完了するよう、みなで力を合わせる次第です。

 社交の季節が終われば、こちらにも足を運んでくれると伺ってます。

 会えることを楽しみに、みなで乗り越えていきます!


                               アデル  』



 アデルからの報告書という名の手紙を読み、やはりコーコナ領で雨が続いていることに不安を感じる。

 私の思い過ごしならと思っていたけど、これは、早々に土木工事の準備を始められたこと、よかったのではないだろうか?

 雨もあるので、予想の日までに間に合うかはわからないけど、領民の命に関わることがないようにだけは手を打ちたいところである。



「アンナ、その手紙はアデルから?」

「えぇ、やはり雨が続いているようです。晴れ間があれば、作業に入りますとのこと

 です。何事もなければいいですけど、心配ですね……」

「そうだね。でも、災害が起こる前に動けていることが幸いだね。何事もないこと

 が1番だけど、何かある前に少しでも被害が少なくすむようにできるなら、身も

 心も救われる領民がいるはずだよ」



 そういって、ジョージアが次なる手紙を渡してくれる。

 兄からの手紙だったので、後にしますねと笑うと、それもそうか……先にこっちかな?と手渡されたもうひとつの手紙はニコライからの手紙である。

 一通り目を通していくと、思わず笑ってしまう。なかなかのやり手になっていることが伺えた。



「ナタリーへお願いしていたドレスが、今日出来上がったようです。そのままお城へ

 納品に行ったそうですね。公妃へ公から贈り物と言って、公の手紙まで一緒に

 渡したそうですよ!

 『公からの贈り物ですから、必ず始まりの夜会で来てください!赤薔薇のとても

  素敵な一品となっています!』と、公妃に直接話したそうですね。夜会で着て

 くれますかね?」

「あぁ、あのアンナのドレスと色違いのか……どうだろうね?でも、それを公妃が

 始まりの夜会で着ることって公との約束なんでしょ?」

「えぇ、着てくれなかったら、いろいろ考えていますよって言ってありますから、

 嫌だと言っても、なんとかしてくれるでしょう!」



 少しため息交じりに笑うと、ジョージアも苦笑いをしていた。

 そのまま、ジョージアは別の手紙を読んでいく。

 私は、アデルとニコライの手紙にそれぞれ返事を書くことにし、ペンを持った。

 二人共丁寧な手紙で書いてあったので、状況がよくわかった。なんていうか……ニコライの成長はずっと見守ってきていたが、アデルについてもなかなかの報告であったので、私は思わず微笑む。

 アデル自身、事務は苦手といいつつ、ここまで出来れば十分である。

 今後のアデルの起用方法が広がったことに、私はほくそ笑むのであった。

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