第553話 ダンスって、目を奪われるものなんですね?

「アンナの得意分野って感じだよね……そう思わない?レオ」



 ジョージアに声をかけられたレオは素振りを止め、なんのことですか?と首をひねっている。

 レオの世界は広いようで、まだ、狭い。

 殆どがウィルとの関わりのある世界で、その中で特別おかしなことをしている私が規格外であることが、まだ、わかっていなかった。



「うーん、そっか。まだ、アンナのすごさがわからないよね……社交界に出れば、

 きっと、レオも驚くよ。アンナが、荒野に咲く1本の赤薔薇だって!」

「荒野に咲く赤薔薇ですか?」

「その心は?」

「その心か……何もない過酷な場所でも、咲き誇ってる気がするから?悪条件でも

 枯れることのない、その薔薇は、美しさだけでなくしっかりとした棘もあって……

 見るものを魅了するのに決して手折りたいとは、思わない。自由に空に向かって、

 いつ降るかわからない雨を待ち、強く生きている感じ?」

「それは、なんとなくわかる気がします。人好きそうな感じがしてるけど、実は

 全てを受入れていない感じ。でも、美しいから、みなが魅了されて見続けたく

 なる」



 おっ?レオはわかっているね?とジョージアは嬉しそうに微笑んでいるのだが、えっと……私、それ、端的に言って気難しいって言われてるのかな……?私は混乱していると、ニコッと二人共笑う。



「「美しいってことだ」と思います」

「……褒めても何もないよ……?あの、ジョージア様もレオもおかしいよ?」



 よくわからないけど、二人の意見があった。

 いや、わかんないんだけど……ねぇ?どういうこと?と小首を傾げていた。

 本当にわけがわからない。



「そうだ!僕、アンナ様とジョージア様のダンス、また、みたいなって思っていたん

 ですけど……」

「あぁ、いいよ。ダンスの練習もすると聞いているし、見て学ぶこともあるだろう

 からね」

「それって、ジョージア様が踊りたいだけなんじゃ……」

「どうせ、アンナもダンスの練習もしないといけないと、言ってたじゃないか。

 始まりの夜会までに、1度合わせておこうと思っていたから、ちょうどいいじゃ

 ないか」



 レオの練習になるなら、いいですよ!と私は答えた。

 それにしたって、ジョージアは先程からご機嫌である。



「そうだ!レオ、ジョージア様からダンスの作法から踊り方まで盗めるだけ盗んで

 おいた方がいいよ!この国で、1番ダンスが上手いのはジョージア様だから」

「公を差し置いて、俺?」

「えぇ、公よりジョージア様の方が素敵ですよ!女性に寄り添うような優しさも

 ありますし、女性をより魅力的に魅せる踊り方ですから、華もあって一緒に踊って

 いて気分がいいのですよ!踊り手としてなら、ジョージア様程の人はいません!」



 わかりました!しっかり勉強させていただきます!と返事をするレオに微笑みかけた。

 椅子に座ってじっくり見るつもりなのだろう。近くにあった椅子を持ってきて座っている。



「では、今日も正式にダンスを誘うところから始めようか!」

「よろしくお願いします」



 少し離れた場所に立ち、お誘いをしてくれる。

 そのひとつひとつが、美しい。さすが、筆頭公爵家の嫡男ということだろう。

 貴族の位が高ければ高いほど、礼儀作法は厳しく、お誘いひとつでも作法に則るの美しい。



「アンナリーゼ様、私と一曲踊ってくださいますか?」



 ジョージアのトロっとした蜂蜜色の瞳が優しく光ると、そっと差し出された手を私はとる。

 そのときには、優しい微笑みを絶やさず、さらに色気もある。

 はぁ、ジョージア様が、未だに人気なのも頷けるわ……年を重ねてさらに独特な色香が……勘違いしてしまう令嬢やご婦人が少なからずいるだろうと見つめ返す。



「喜んで」



 ジョージアの肩に手を添え、私の腰にジョージアの手が添えられる。

 それだけで、ジョージアの手を取りダンスするご婦人に嫉妬してしまいそうになるほどであった。



「おかしいな……」



 一歩目のステップを踏んだとき、思わず漏れていたようで、どうしたの?とジョージアが問うてきた。



「いえ、どうも……他の女生とダンスするジョージア様を想像して少々嫉妬を」

「えっ?それ、本当?それなら、嬉しいけど!」

「えぇ、本当ですよ?」

「今までは、そうじゃなかった?」

「そんなことは、ないです。多少嫌だなとは思っていましたけど……何ていうか、

 ジョージア様がやたら色気をばらまいているのがいけないんだと思いますよ?」



 ふふっと笑うと、それはアンナの方だよと耳元で囁いてくる。そういうところです!と頬を膨らませるとため息が返ってきた。



「今は、レオにお手本を見せるために踊っているのだから、ほら、真剣に!」



 どっちが!と言ってやりたい気持ちをぐっと堪え、ただただ微笑みながら足が止まるまで踊り続けた。



「ほぅ……ダンスって、目を奪われるものなんですね?」



 レオはキラキラした目でこちらを見ているので、最初の方で二人が言い合いをしていたとは言いずらい。



「……そうね。上手な人程、一緒に踊りたいって思われるから、社交界にでたらこれ

 程、頼りになる武器はないよ!」

「どうして、ダンスが武器に?」

「前も情報収集って話をしたと思うけど、例えばよ?ジョージア様とこの距離で、

 最近どう?なんて言われてごらん?ご婦人方なら、最近気になっていることや

 聞いたこと、あった出来事や趣味なんて、なんでも話してくれるわよ?」

「……アンナが囁いても、普段から寡黙な男性陣でも口が滑っていきそうだけど……

 この距離は、確かに、他のヤツには渡したくないな」

「ジョージア様?」

「わかってるよ?アンナが踊る理由は、そういう情報収集をするためだって。

 しかも、欲しい情報を持っていそうな人を狙ってしていることも。ワザと誘わせて

 いることも」

「すごい!アンナ様はそんなことしているんですか?」

「えぇ、私だけではないけど……男性に誘われないとダンスに女性は行けない

 から、ウィルも協力してくれているわ!社交界では、かなり人気なのよ!

 ウィルも」

「父様も?」

「そう。お願いしているの。どちらかと言えば、噂好きの女性の方が、情報収集

 には、手っ取り早いのよね……」

「アンナ、子どもにいうことではないよ?」

「そうですか?レオくらいの頃には、私はもう母にいろいろと叩き込まれていま

 したよ?10歳の頃には、それなりに試験も受けましたし、社交界デビューして

 からは、いろいろと父に情報提供も……」

「……すごいです!アンナ様。僕も出来るようになりますか?」



 まずは、レオの魅力をいかんなく発揮できるようにしましょうかと笑いかけると、わかりましたと頬を緩めている。

 レオの容姿はリアンに似ているが、年を重ねると男爵のような色気がでてくるだろう。

 それだけでも、社交界ではひとつの華となるだろうし、近衛を目指しているとウィルから聞いているので、ウィル同様人気になるのだろうなって未来を想像する。

 その傍らには、アンジェラがいて、小言を言ってそうな気がしてならなかった。

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