第555話 ほう、れん、そう!とくれくれお手紙Ⅱ

 ジョージアが次から次へと手紙を渡してくれる。

 夜会やお茶会などの招待状から、怪しい商売へのお誘い、さらには政敵であろう方からの領地へのお誘いまであった。

 お茶会や夜会は、極力行かないようにしている。私にはしないといけないことがたくさんあるのにさける時間が圧倒的に少ないのだ。

 効率よく情報収集はするに限るし、そういうのはカレンが動いてくれていた。集めるべき貴族について、敵味方関係なく集めてくれるので、私はカレンが指定した夜会やお茶会に傘下するだけで欲しい情報が集まる。

 後は、ウィルやセバス、ナタリーが飛び回ってくれているので、待っているだけでよかったりもする。

 ちなみに、ウィルは近衛から、セバスは文官から世情を掴んでくる。

 今、セバスは城内改革で動き回っているので、城内の情報もかなり得やすいだろう。

 ウィルも国内外のことを探ってくれているはずだ。特に隣国のインゼロ帝国は、皇帝が変わってから随分経つのに、未だ動きがない。

 何か水面下では動いているはずなので、今回の社交で1番欲しい情報ではあった。

 他にも、こちらからちゅんちゅんが動き回ってくれている。実は、最近末端の人物を知ることになったのだが、それは誰にも秘密であるので私も胸の内に隠してある。



「夜会やお茶会については、カレンと相談しますわ!ナタリーが明日来てくれる

 ので、そのときに話します。

 あとは、怪しい商売は……ニコライに任せましょう。ビルたちに振るかもかも

 しれませんが、それはそれでなんの問題もないですから」

「じゃあ、最後のはどうするつもり?」



 ジョージアがヒラヒラとしている手紙を私はどうしたものか考える。行った方がいいのはわかっていても、何かしらの罠であることはわかる。

 これを潜り抜けられるのは、私ではない。だが、アンバーには一人だけ適任者がいるので、任せることにした。

 ちょうど、このあたりをウロウロしているはずだ。



「ちょっと、待ってくださいね!」

「ん?どうするの?」



 執務室の窓を開けると、ちょうど玄関の前あたりで体を鍛えているガタイのいいおじさんを見つけた。

 私は執務室の窓から身を乗り出して、その人物を呼ぶ。後ろにいたジョージアは慌てて危ないっ!とスカート引っ張ってくれている。



「ノークトー!ノクトってば!」



 私が呼んでいることに気づいたのか、どうした?と返事が帰ってくる。タオルで鍛え上げた上半身の汗を拭きながら、窓の下まで来た。



「ちょっと、相談が……っていうか、行ってきてほしいところがあるんだけど!」

「今すぐか?」

「いいえ、社交の季節が終わった後かな!体、鍛え終わったら上がってきてよ!

 説明するから!」

「わかった!もうちょっとだけ、体動かしたらいく!」



 お願いね!というと、グイっとスカートをジョージアに引っ張られる。

 おっとっと……と背中でジョージアが呟いていた。話し終えた私を引っ張って引き寄せてくれたのだ。



「ジョージア様、ありがとう!」

「それはいいけど、あんまり身を乗り出したら危ないよ?」



 しょうのない子だと心の声が漏れてきそうにため息が耳元で聞こえる。そうは言っても……私なのだから仕方なくないだろうか?



「気を付けます」

「口だけだね?わかっているよ……」



 さらに、三児の母親なのだからもう少し落ち着いたら?とさらに続きそうだ。でも、口にはしないのは、ありがたい。

 後ろから抱きつきながら、ジョージアは執務机の上にあった手紙をヒラヒラとさせる。読んでいないのは、これが最後の一通である。



「お兄様からの手紙ですね?」

「そうだね。まだ、俺も読んでないから何が書いてあるか聞かせて」



 私は最後の手紙の封を切ると見慣れた文字が並ぶ。それだけで懐かしくて、フレイゼン家が少しだけ恋しくなった。



『 アンナへ


 元気にしていますか?無理はしていませんか?こちらは、みな元気です。

 こちらも社交の季節になり、徐々に貴族との夜会や茶会に飛び回る季節となり

 ました。殆どをエリーがこなしていてくれているから、申し訳ないんだけど、

 両親も相変わらず、情報収集には、協力的で、今は王都の屋敷に滞在しています。

 おじさんも久しぶりにフレイゼンの屋敷に来てくれて、クリスやフランの剣の

 練習をしてくれたよ』



「アンナの家って、武の系統なんだっけ?」

「そうですよ!お母様が、国1番の武で生計を立てている貴族出身ですよ!」

「お義母様は、確かに……強いよな。見た目も……」

「見た目だけでなく、本当に強いですから。私も1度も勝てたこと、ありません。

 まぁ、勝てるのはおじい様とおじ様とお父様くらいです!」

「お義父様は、剣術って強いの?」

「そう、見えましたか?お父様は、運動系はからっきしダメですよ!」

「じゃあ、何故?」

「お母様がいくつになっても、お父様に恋をしているからです。勝てませんよね?」



 あぁ、なるほどとジョージアはいう。想像しているのだろう。私の両親を。

 続きいいですか?と聞くと、頷いたので読むことにした。



『ところで、今度の社交の季節、公となられ初めての夜会であるため、こちら

 から、殿下と何人かがローズディアの始まりの夜会に出席することになったよ。

 僕も行くことになっているから。悪いんだけど、僕、アンナと話がしたいから、

 しばらくアンバーの屋敷に泊めてくれないか?

 この手紙がつく頃には、ローズディアの城にいると思うから、そちらに手紙を

 送ってくれたら、いつでも向かえるようにしておくから……」



「ジョージア様、お兄様が……」

「あぁ、泊めてか……まぁ、アンナと話がしたいというのはわかるからいいよ!

 手紙書いて、サシャを城まで迎えに行ってあげて!」

「わかりました。では、続きを……」



『この前のアンナから指令、僕、アンナが望む様に遂行できたと思うんだ。

 だから……ご褒美をくれ……くれ……くれ……


 じゃあ、よい返事待っているから!よろしくね!

                                サシャ』



 お兄様……と、思わずため息がでた。迎えに行き、妹の嫁ぎ先に厄介になり、ご褒美をくれって……どういうことだ。

 兄らしいといえば、兄らしいが……もうひとつため息をつく。



「なんとも、サシャらしい手紙だね?」

「恥ずかしいです……お兄様」

「まぁ、返事してあげな。アンナもこの時期は忙しくする予定なんだから、早々に

 呼び寄せてあげた方がいいよ」



 ありがとうございますとジョージアにいうと、どういたしましてと返ってくる。

 そこにノクトが着替えて執務室へ入ってきた。邪魔だったか?という問いかけに、私のおかれた状況を確認するのであった。

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