第460話 露店のそぞろ歩き

 屋敷の前に並んでいる露店は、総勢50軒。

 先程子どもたちを連れて歩いたところで15軒程しかみれていなかった。

 子どもたちを連れていたから、見れなかった……そういうつもりはないが、手ぶらになると、1軒をじっくり見ることができるので、正直ありがたかった。

 さっきは、親としてついて回っていた……そういう感覚でだったので、今度は領主として見て回ろう歩き始めた。



「これは何のお店?」

「ここは、蜂蜜のお店ですよ!」

「蜂蜜というと隣の領地かしら?」

「御明察です!領主様!それにしても、よくご存じですね?」

「ふふ、こちらに来てからとても勉強したからね!」

「領主様は、こちらの出身ではないのですか?」

「えぇ、隣国トワイスのフレイゼンから嫁いできたの!」

「それで、アンバーの領主様……アンバーの前の領主様は、一体」

「私だけど……妻の方が向いているようでね?」

「さようで……ございました。失礼を承知で……アンバー領はとても綺麗なところに

 なりましたね。前、一度伺ったことがありましたが……」

「そうよね……いいの!わかっているから。私もジョージア様もちゃんと運営が

 できていなかったことを反省しているし、領民に迷惑をかけていたことも自覚して

 いるから。これから、もっとこの領地は発展するわ!ローズディアの端だけ

 ど……国1番の領地にしてみせるから!また、遊びに来てね?」

「はい、それはもちろんです!」

「それは、そうと……蜂蜜が欲しいわ!何がいいかしら?」

「最近始めたのですが、こちらのオレンジの皮が入っている蜂蜜はいかがですか?

 飲み物や水に溶かして飲むと爽やかでおいしいですよ!」



 店主に進められ、蜂蜜瓶をとると、中に確かにオレンジの皮が入っていた。



「蜂蜜自体もオレンジの花から採れたものですから、香りもいいです。

 よかったら……と瓶を開けてくれ匂いを嗅がれますか?」

「いいの?でも、もう、買うわ!私、興味惹かれちゃったから!ジョージア様」



 はいはいと財布を出し、お代を払ってくれる。

 蜂蜜の値段を聞いて驚いていた。

 この領地に初めてきたときに調べたが、この領地で1番高いのが砂糖、その次に蜂蜜であった。

 だから、今、ジョージアが払っている金額は少々ぼったくられているのだが……今日は、細かいことは言わない。

 子どもたちの誕生日だから、私たちだけでなくここに集ったものたちにもそれなりに利益がないとダメだからだ。

 それに、回りまわって、そのお金は領地へと還元されるのだ。

 文句のつけようもなかった。



「まいどあり!おまけしておきますね」



 店主は、代金を確認し更に小さな瓶を1つつけてくれる。

 ありがとうといい、隣のお店へとうつる。

 今日は、そこそこお金を用意してあるので、ここのものを全部買ってもお金が余る寸法であるので大丈夫だろう。



「アンナはいつの間にかよその特産も覚えたのかい?」

「えぇ、もちろんですよ!隣の領であれば、こっそり取り入れられるものもあり

 ますからね。何も、自領だけで賄うことができるとはとても思ってませんし、

 他領のいいところをいろいろ取り入れることで、うまくいくことも失敗すること

 もありますけどね……うちに集まっている人たちが他領のものが多いのは、いいと

 ころどりができるからでもありますよ!」

「へぇーなるほどね?」

「その内の二人ほどは、押し売りでしたけどね!まぁ、買って損のないものだった

 ので、今では重宝しています!あっ!ほら、あそこにいる!ノクト!」

「あぁ、ノクト将軍ね……」

「今は、ただの農家のおじさんですよ!」



 私は二ッと笑い、ノクトに手を振るとこっちにやってきた。



「なんだ?二人揃って」

「デートしてるの!いいでしょ?」

「あぁ、羨ましい……そろそろ、奥さんが、恋しくはないな……屋敷にいたら、

 ガミガミ言われるだけだからな!まぁ、あっちも俺がいない方がのびのびとでき

 るだろうし?こっちに来ると決めてから、話あって、死んだことにしてしまった

 方がいいだろうって、俺、葬式までしてもらって出てきたからなぁ……まぁ、奥様

 が俺のことを覚えているかどうかも怪しいぞ?」



 ノクトはニカッと笑うが、それはないだろう。

 きっと、ノクトのことは心配しているはずだ。こんなわけのわからない領地に突然旦那様が行ってくる、小娘の従者になるだなんて聞かされたら……公爵家の夫人としてどうなんだろうと今更ながら思うと背筋がゾゾっとする。

 私なら手放しで行ってもいいとは言えないだろう。ノクトも言っていたが家督が継げるしっかりした跡取りがいることも、ノクトが自由に出てこれたひとつではないだろうか。



「それにしたって、今、インゼロ帝国は危ないから、心配じゃない?」

「あぁ、それに関しては、やり取りがあるから別に……各地に屋敷というか、連絡

 係がいるから、向こうの状況はわかる。今はとにかく、中を整えているらしいな。

 あんな甥でも、頑張っているんだぞ?剣持って、首撥ねて!」

「それ、頑張っているって言わないから……普通に怖いから……」



 私とジョージアはノクトのいいように仰け反る。

 どう考えても、穏便ではない……人は活かしてこそだという私の信念からは、遠くかけ離れた考えに、震えがとまらない。

 インゼロ帝国の皇帝は、ノクトの甥でもある。自国の皇帝の首を挿げ替えただけでなく、今も結構な数の首を刎ねていっていると聞いていた。



「それは、そうと。ボンゴレ食ってきた!あれ、メチャクチャ美味かったぞ?何だ?

 あのアサリの身は!殻から溢れているアサリなど見たこともない!パスタも、

 美味かった……麺はこの領地の小麦か?」

「えぇ、そうよ!アサリも自前なのよね!ノクトのいない間にわかったんだけど、

 海があるの!そこから採ってきて、さらに料理長が手を加えているわ!小麦の

 方は、かなりいい出来よね?去年の春に収穫した備蓄分よ!」

「あの、蒸かし芋も去年のものか?」

「えぇ、試験的に作っていたのですって!美味しかったでしょ?今年は、ジャガイモ

 にも力を入れたいのだけど……どう思う?」

「いいと思うぞ?あれは、かなり美味かった。ちょっと高値で公都あたりで売って

 みたらどうだ?キティに出しでもらうとか……貴族には売れないだろうから、

 庶民向けだな」

「また、今度話し合いましょ!今日は、誕生日会を楽しんで!」



 あぁとノクトは頷いている。

 そのあとは、先に回っていたノクトが、美味しかったもの、見ておいたいいものを教えてくれ、それを見て回ることにした。

 今後の領地にも取り入れるとおもしろそうなものは、商人もしているノクトの目を通してみると、利益に繋がりそうな話もできる。


 今日の誕生日会は、盛大に賑わった。まだ、昼間なので……ぞくぞくと領地内外から人が集まってくる。


 私の知らない貴族も着ていたようで、ジョージアが挨拶していたりする。

 アンバー領を知ってもらう、いい機会になったのではないだろうか?

 それだけでもやってよかったなと、心からありがたいなと思えたのである。



 そのとき、私を呼ぶ声がするのであった。

 見覚えのあるそのドレスに私は手をふり、夫婦で領地までわざわざ来てくれたことに感謝するのであった。

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