第459話 アンナ様、今なんて?
眠りこけたネイトを抱え食堂へ入ると、未だ泣き止まないジョージをなんとかしようとみんなが躍起だった。
大人が頑張っている横で、アンジェラはもくもくと何かを食べたり、大人たちの姿を見て笑ったりしている。
なんとなく、私も眺めていたがおもしろくて、つい、眺めてしまったが、泣きに泣いているジョージが不憫になり声をかけた。
「ジョージ、まだ泣いているの?」
私は、ジョージからしたら親の仇。それでも小さいからか懐かれていて今の状況である。
むしろ、我が子は私に対してそれほど執着しないが、ジョージはべったりであった。
声をかけたのが聞こえたのか、ピタッと泣き止み、今度は、囲まれた大人たちを押しのけてまで私のところに来ようとする。
椅子の上から今にも転げ落ちそうになり、ジョージアが支えていた。
「ジョージ、危ないからそこにいなさい。リアン、ネイトを頼めるかしら?」
抱きかかえたままのネイトをリアンに渡すとジョージの側に向かう。
一瞬で、大人しくなったことに大人たちは安堵し私のために席を開けてくれた。
「ママ……」
「なぁに?ジョージ」
余程泣いたのか目の周りは腫れあがり、声も少し枯れている。
「ママ……僕……捨てないで……!」
大人たちは、ジョージの言葉に凍りついたように凝視する。
必死な訴えにぎゅっと私の服にしがみつくジョージ。
そんな様子を見ていれば、愛おしくて仕方がなかった。
「ジョージ、私は捨てたりしないわよ!お仕事とか用事があれば離れることもある
わ!それもわかってちょうだい。ジョージは賢いから、きっと、ママと離れて
いても大丈夫にならないと。
ママ、これから、お屋敷にいない日が多くなるから……」
「屋敷にいない日が多くなるってどういうことですか?」
ジョージを諭していたつもりが、何故かデリアが反応した。
「えっと……そりゃあの、春の社交もあるから公都に行かないといけないし、
領地も……回らないといけないじゃない……?」
「そうですか、そうですよね!まさかと思いますけど、毎日、出歩くとか考えて
いないですよね?」
「いえ……そんな……」
「昨日も知らない間に海に行っていらっしゃったし?」
場の空気が、段々と冷ややかな空間と変貌していく。
助けてとジョージアを見るが私と目を合わせない。
さっきまでジョージにかかりきりだった侍従たちも示し合わせたように、この場にはもう、いなかった。
蜘蛛の子を散らすという言葉があるけど、まさにそうだ。
ジョージアの袖を引っ張っても、関わってくれそうになかった。
「アンナ様、出ていかないでとは言っていません。出て行かれるなら、まず、誰かに
ではなく、私にちゃんと声をかけてからでお願いします。領主がどこをほっつき
歩いているかわからないといけませんから!
それと、お強いのは重々承知してますが、護衛の一人くらいつけてください!」
「でも、ジョージア様がダメって……」
「あの……ダメって言っているわけでなくて、男性がダメなだけで、隣歩いている
のがデリアなら問題ないわけだよ!」
「ジョージア様、デリアもとっても忙しいのよ!私の雑用で!」
アンナの雑用でかと呆れかえっているジョージアはさておき、デリアは私の専属侍女ではあるが、この屋敷の全部を仕切っているので本当に忙しいのだ。
「自分のことは自分で見るしかないよね……近衛から引き抜きたい人物がいる
から、その人にしばらく頼むわ!ウィルもリリーも忙しいからね」
「近衛も忙しいだろ?」
「確かに……でも、まぁ、土木工事と休みの日以外は連れて歩いてみることにする」
「それって……男?」
「近衛って、今回男性しか来ていないよ?土木工事するための人員だから」
「なるほどね……って、ダメ。却下!」
「ジョージア様?ダメって言われてももう決めたので」
ニッコリ笑いかけ、私はアンジェラとジョージを連れて部屋を出る。
「どこ行くの?」
「そろそろ、アンジェラが眠そうなので、お昼寝をと思いまして。
たくさん食べて、たくさんの人に会いましたからね……疲れたようですよ?」
手を引きながらも、眠そうにあくびをしているアンジェラをジョージアがひょいっと抱き上げる。
「俺も行くよ。その後二人で外を回ろう」
「いいですけど……?」
「デートしてって言ってるんだけど……?」
「わかってますよ!楽しみにしてますよ!って、アンジェラはもう寝ているじゃない
ですか?」
「ジョージも、ママに抱っこしてもらえば?」
ジョージアの一言で、手を繋いでいたジョージは抱っこと腕を伸ばしてくる。
よいしょっと抱き上げるとギュっと抱きついてきて温かい。たぶん、ジョージも眠いのだろう。
部屋まで行くと、耳元ですうすうと寝息が聞こえてきた。
子ども部屋に入ると中でエマがいたので、二人をお願いすることにした。
「エマ、今から何か用事があるかしら?」
「今からは、お二人と一緒にいる時間だったのですが……少し早いお昼寝ですね?」
「そうなの……人がたくさんいるところに、結構興奮していたからね。お願いしてもいい?」
「はい、おまかせください」
私はジョージをジョージアはアンジェラをベッドにそっと横にして布団をかけてやると、もそもそっと二人とも潜り込んで行ってしまった。
その様子は双子のよう出可愛らしい。
「何かあったら、そこから呼んで!この辺をうろうろしているから!」
窓をさしていうと、かしこまりましたとエマは了承してくれる。
「では、ジョージア様!第二弾へと参りましょうか!いっぱいお店がありましたよ!」
「子どもたちより子どもっぽいけど……」
「こういう日はいいのです。ほらほら!」
私はジョージアの手を引き部屋を静かに出て、屋敷の前でしている誕生日会へとまた出向くのであった。
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