第461話 去年に引き続き

 前か来る見知った二人を見つけ私は微笑む。

 ここで、大きな声で呼ぶのは失礼だろうか?私はグッと我慢をし、ジョージアの服をひっぱった。



「なんだい?アンナ」

「カレンが来てくれていますわ!」

「本当だね。挨拶に行こうか?」



 ジョージアの手には、露店でいろいろと買いあさったものが持たされていた。

 途中で大きな袋をくれた露店の店主には感謝だが……それにしても買いすぎたかなと少しだけ反省する。

 領主なので、この店で買ってこの店で買わないというのはダメなので全店舗制覇はしないといけないとは思っている。

 それにしても……伯爵も何か持たされているようで、カレンが組んでいる腕の反対側の手には大きな袋があった。



「カレン!」

「アンナ様!お久しぶりです!

「えぇ、久しぶりね!また、社交の季節には少し早いけど、あなたに会えて嬉しいわ!」

「まぁ、お上手ですこと!」



 二人できゃいのきゃいのとしていると、隣でも挨拶を交わしていた。

 伯爵は両方に花の状態ではあるので、握手はできず、ジョージアも似たり寄ったりな感じであるので、言葉だけで挨拶をしていた。



「ジョージア様もお久しぶりです。この度は、お子様が誕生おめでとうございます。

 また、アンジェラ様も健やかにお育ちだとか……ナタリーの方から聞いていますわ!」

「今日は、ナタリーからの招待かい?公都からだと遠かっただろうに……」

「いいえ、ジョージア様。一度伺ってみたいと思っておりました。できれば、お時間

 があれば領地を見せていただければと思っていまして……」



 ジョージアは、私の方をチラッと見て任せたと言わんばかりだ。

 領地の決定権は、私にあるので、そうしてくれているのだが、泊まるところも必要だろう。



「伯爵、お久しぶりです」

「これは、アンナリーゼ様。無事のご出産、おめでとうございます。お祝いが遅れて

 しまい申し訳ありません」

「いえいえ、お気になさらないで!私、それにカレンにはいつもよくしてもらって

 いて、今日は遠路はるばる来てくださったこと、感謝しますわ!

 領地見学ですね!」

「えぇ、構いませんか?」

「もちろんです。明日、私がご案内いたしますわ!あと、宿泊する場所が、ありま

 せんの。我が屋敷でひとときを楽しんでいただくことになりますが、よろしい

 でしょうか?」

「もちろんです。急に押し掛けたのも私たちですから」



 私は両方の旦那様が大荷物なのを見て、いったん屋敷に戻りましょうかと提案をする。

 すると、荷物持ちの旦那様方が二人とも頷いたのを見て、私とカレンは微笑む。



「アンナリーゼ様、先日いただきました『赤い涙』……あれには、大層感動しま

 した。素晴らしいできでしたね!」

「ふふ、そうでしょ?そうでしょ?私がトワイスから引き抜いてきたガラス職人

 なの。この領地でもガラス職人はいたのだけど……飾り瓶に関しては、誰も考えて

 いなかったから、売り物をたまたま見かけて、すぐ、引き抜いてしまったわ!」

「アンナリーゼ様の目にとまった物って、どんなものですか?」

「ハニーアンバー店でも取り揃えているのだけど……裸体のお姉さんシリーズは、

 知っていて?」

「あの造形美しい瓶ですか?」



 旦那様?とカレンの目が厳しくなったが、私は見ぬふりをして頷いた。

 なかなか伯爵の目もいい目をお持ちのようだ。



「そうです。あの瓶をたまたま王都を歩いていて見つけたのです」

「なるほど……しかし、それで引き抜きとは、思いきりましたね?」

「そうね。職人も女性だから、なかなか繊細なガラスを取り扱うには向いているの

 かしらね。曲線美が美しくなくて?」

「確かに……あの滑らかな体のしなやかさをガラスで表していることに驚きますね」

「あの瓶に、蒸留酒を入れるとね?薄茶色に色づいて、さらに艶めかしくなるのよ……」

「それより、瓶の中に入っていたリンゴについて聞かれてはいかがです?旦那様?」



 カレンの目がいよいよ怖くなってきたので、誘導された方の話をしようと話を変えるよう視線で示すと、合図が返ってくる。



「あのリンゴの瓶もその方が作ったのです?」

「えぇ、そうよ!試作品を渡してしまって、申し訳なかったんだけど……出来と

 しては素晴らしいから」

「あれで、試作品ですか?」

「そうね……あれで試作品。製品版は、もっと驚くわよ……私、お酒を入れる

 前のを1瓶もらってるけど……凄すぎてって感じね。まだ、若い職人だからか、

 かなり吸収力もあって技術の向上がすさまじいの。他のガラス細工作っている職人

 たちの目をみはるくらいよ!勉強会とかを定期的に開いて、技術の共有とかをして

 いる見たいね!そのうち他領に引き抜きされないか、ヒヤヒヤよ!」



 領地でのことを自慢できることは嬉しい。

 身内贔屓な話は、あまり好きではないけど、自慢したい気持ちはやっぱりある。そのことで、次の商売になることもあるからだ。



「そういえば、大量のリンゴってどうなったのです?お酒にすると言ってたと思い

 ますけど」

「カレンからお父様を紹介してもらえたおかげで、美味しいのが出来ているらしいわ!

 葡萄酒以上に甘味が強いから、女性には好かれるかもしれないって話で今日、

 露店に出てたはずよ!」

「まだ、こちらについて少しだったので、見て回れていないのでしょう。後で回り

 ましょう。旦那様」

「一口飲んで行かれますか?」

「あるのですか?えぇ、ありますわよ!領主の屋敷ですもの。この領地のものは、

 なんでもありますわ!」



 デリアを呼んで、リンゴ酒を用意してもらう。

 リンゴのジュースのような甘い匂いをさせているが、度数はそこそこあるものらしい。

 甘いのでたくさん飲んでしまいがちだが、気を付けないとひっくり返ってしまうというと、

 用意したものに口をつけている。



「甘くて、美味しいわ!旦那様、これも買ってくださいませ!」

「あぁ、そうしよう!」

「なんだが、着たときより荷物が多くなって変えることになりそうですわ!」



 カレンは微笑みながら、甘いリンゴ酒を美味しそうに飲んでいく。



「いくらでも飲んでしまいそうで、怖いですわ。一人で飲むには向かないですわね!」

「ぜひ、旦那様がいるときに……」



 意味ありげに微笑むと、カレンはリンゴのように赤くなり、アンナ様ったら!と拗ねてしまった。



 そうだと、さっきまで伯爵が持っていたものを机に置く。

 昨年に続き、誕生日プレゼントを持ってきてくれたらしい。



「困りましたわね……アンジェラ様と生まれたお子の分しかないのです……」

「大丈夫ですよ!ジョージには私たちからもプレゼントがありますから」



 気遣ってくれるこの夫妻の気持ちが嬉しい。

 ジョージのことは、それほど多くの者はしらない。社交界に出ればわかることではあるが、今はそっと見守ってくれる方がありがたいので、大々的に言っていなかった。

 私たちは、ありがとうとお礼を言い、夫妻に露店を回って来られては?とジョージアが連れて行ってくれたのである。

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