第374話 久しぶりに知らない天井

 コーコナの領地の宿で1泊することになっているので、デリアが準備をしてくれる。

 屋敷と違って簡素であるため、かなり気を使ってくれているわけだが、私の部屋を挟んでノクトとニコライがいてくれる。

 同じ部屋にはデリアが一緒に泊まることになった。


 物々しい気もしたが、何事にも対応できる布陣でというのがこの形らしいが、たぶん暗殺者がきたら……ノクトは気づくのかしら?とか、ふと考える。

 どうせなら、同じ部屋でと言おうとしたところで、デリアに叱られる。

 寝ずの番はデリアがしてくれるらしく、明日は馬車の中では寝ていいと許可を出すことにした。


 慣れないベッドで、寝られずゴロゴロとする。



「寝られませんか?」

「うん、ちょっと……ニコライのところへ行ってきてもいいかしら?」

「では、ニコライをこちらに呼びましょう。少々お待ちください」



 デリアが呼びに行ってくれ、ニコライを連れすぐに戻ってきた。



「お呼びでしたか?」

「えぇ、少し話がしたくて。デリア、少し外してくれるかしら?」

「はい……では、ニコライの部屋におりますので、お話が終わりましたらコンコン

 とそこの壁をノックしてください」

「わかったわ!」



 言われた通り出ていくデリア。

 扉が閉まったところで、ニコライにと話をする。



「ニコライ、相談なんだけど……もう少し、こっちに来て!」

「はい、何かあるのですか?」



 近くに来てくれたニコライに折り入って話をする。



「あのね、屋敷に帰ってからと思ったんだけど、寝られなくて時間ができたから、

 先にお願いしようと思って!デリアとディルが結婚することになったの!」

「それは、おめでとうございます!」



 ニコライも知った二人だったため、思わず大きな声が出てしまったようだ。

 この壁薄そうだから、あまり大きな声を出すと隣にいるデリアに聞こえてしまう。



「しぃーだって!」

「すみません……」

「それでね、二人のために公都の屋敷で結婚式をしようと思うのだけど……

 ドレスとタキシードを用意してほしいの。あと、指輪の代わりにピアスを用意

 しようと思っているの」

「それは、例のアメジストですか?」

「えぇ、そのつもり!」

「では、4つ必要でしょうか?」



 ニコライは、考えてくれたが私は首を横に振る。



「2つでいいわ!デリアとディルの左耳に片方ずつ。それで……ディルに渡すもの

 だからあまり派手なものはよろしくないと思うのよ」

「そうですね……飾り気が多いのはディルさんのイメージと離れます。

 わかりました、それも含めてティアに相談してみます!」

「お願いね!あと、ドレスなんだけど……」

「ナタリー様に連絡をつけてみます。作ってくれるかどうかはわかりませんが……

 ただ、夏は戴冠式があるので、それ以降の方がいいかと」

「それは、そうね。私の出産もあるから、秋口あたりがいいかしらね?」

「わかりました!では、その辺りで用意しますね!」



 話が終わったところで、私はニコライの方の部屋の壁をコンコンとノックすると、コンコンっとデリアも返してくれる。

 しばらくすると、デリアが部屋に戻ってきてくれたので、今度はニコライが自室へと戻っていく。



「ニコライとは何を話していたのですか?」

「ん?デリアのウエディングドレスのことをね、話してたの!」

「な……必要ありません!従者の身で、過分です……」

「いいえ、私は過分だとは思わないわ!

 私の大事なデリアですもの!それくらいの送りものはさせてほしいの。

 その日くらい、お姫様になったっていいと思うのよ!」



 私はデリアにニッコリ笑いかけると、照れたような申し訳ないようななんとも言えない顔を私に向けてくる。



「で、聞いてもいいかしら?」

「何をですか?」



 すっとぼけるデリアに、頬を膨らませ抗議すると仕方ないですね……と、いうふうに話をしてくれることになった。



「私の心が向かう先は、これからも変わりません。

 何を置いても、アンナ様が1番なのです。でも、ディルはアンバー公爵家に来て

 から、少し特別でもありました」

「どんなふうに?」

「なんというか、年が離れているので、父のようで兄のようで、失敗する私を

 見守ってくれているのだとずっと思っていたのです。

 先日話をした結果、実は、見張られていたっていうオチだとは思いません

 でしたが……私自身、ずっと慕ってはいたのです」

「それが、恋でなくてもって話?」

「そうです。アンナ様もトワイスに想い人がいたでしょ?」



 どこで仕入れた話なのか……デリアは、ハリーのことを知っているようだ。



「確か、ヘンリー様でしたね。私がアンナ様にまんまと嵌められたときに

 いらした、金髪碧眼の方ですよね。物静かそうで、アンナ様を支えてくださる

 そんな素敵な方だとお見受けしますわ!」

「デリアって記憶力がいいのね……」

「わりといいと思いますよ!侍女という仕事は、そうでなければ、主人に恥を

 かかせることもありますから……では、アンナ様は何故、ジョージア様を選んだ

 のですか?あの方の側にいれば、もっと……」

「それ以上は言わないで。私、今でも十分幸せなのだから……ハリーも今は

 イリアと仲良くしているってきいているし、ジョージア様が私を大事にしてくれ

 ているもの!あとは、アンジェラとこの子がすくすくと育ってくれれば私はそ

 れ以上は望まないわ!それ以上を望むと……罰が当たりそうよ!」



 デリアに向かって笑いかける。



「私は、アンナ様がアンバーを選んだ理由はわかりませんが、アンナ様の側で仕え

 られることは、幸せです。

 そこに、私のことを好きだと言ってくれ結婚したいと言ってくれる奇特な方が

 現れた。たまたま、それが、私の慕っていたディルだったのです。

 出会いに感謝というより、偶然に感謝をと思います。

 昨日、ディルとも話し合いましたが、自分たちなりの幸せの形を見つけていこう

 という話になりました。

 私がアンナ様を誰よりも慕っていたとしても、心から好きだと言えるもう一人に

 なれるようにディルも頑張ってくれるらしいです」



 照れたように笑うデリアは可愛らしい。

 そんな、年相応の顔をさせるのは、他ならないディルだけであろう。



「デリア、よかったね!」

「厄介払いはしないでくださいね!」

「わかってる。でも、今、出会ってからの中で、一番可愛らしい顔をしているわ!

 私では、そんな顔をさせてあげることはできないから、私、とても嬉しいの!

 それと同時に、少しディルに嫉妬してしまうわ!私のデリアの可愛い顔をさせる

 のが私でなくてディルなんだと思うと。

 でも、幸せになってほしいと願っているのも本当だよ。

 もちろん、私の側で、ディルと一緒にね!」



 笑いかけると、もちろんですとデリアは言ってくれた。

 残りの人生で、デリアの幸せを見届けられるのかと思うと嬉しい。



「デリア、こっちにきて!」



 素直にこちらに来てくれる。

 首に腕を回し抱きつくと、しっかり支えてくれる。



「アンナ様……」

「大好きよ、デリア。私のデリア、幸せになってね!」

「はい、なります……」



 デリアから離れると、少しグズグズしているデリア。



「明日も早いですから、お休みください」



 デリアに付き添われ、私は眠る。

 ゆっくりと……静かに。

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