第291話 自己紹介と紹介

 私は、ジョーを抱えてお祭り会場でのんびりと焚火を見ている。

 なんか、本当にお祭りって感じになって、火を囲みながら今は領民のみんな踊っているのだ。


 あの中に混ざったら……楽しいだろうなという思いもないこともないけど、私はジョーの体を動かしながら見ていた。

 ジョーも見たことのない光景に興味津々らしく、いつもならもう寝てしまっているのに今日は目をパッチリあけて楽しそうに手を叩いている。


 あとからレオとミアを連れてリアンも合流したので、私を間に挟んで両方に子どもがいる状態だ。

 レオがしきりに話しかけてきて、ミアも負けじと服の裾を引っ張ってくる。

 この子どもたちは、なんて可愛いんだろうと思いながら、レオとミアの話に耳を傾ける。

 二人ともこんなお祭りが初めてのようで、楽しいのだと言っていた。



「レオもミアもお祭りは初めて?」

「うん!楽しい!お祭り初めてきたの!」

「ミアは、初めてだけど、僕は1回あるよ!!」

「そうなの?」



 うんと頷くレオ。



「でもね、こんなに楽しいお祭りは初めて!!」



 なんだろ……5歳の男の子にキュンとしてしまう。

 ダドリー男爵の息子、恐るべしだなと心の中は慌ただしい。

 大人になると……あんなふうになるのかしら?

 できれば、ウィルのように育ってほしいななんて願望を勝手に押し付けたい衝動にかられる。



「レオとミアは、ウィルのこと知ってる?」

「知ってる!強いお兄さんでしょ?」

「かっこいいお兄さんだよ!」



 おぉ?これは、ウィルさんお子様に人気ですよ!なんて喜ぶ私。



「アンナ様、それがどうかしたの?」

「うぅん、何でもないわ!そうだ、せっかくだから、私のお友達もこっちに呼んでいいかしら?」

「えっと……」



 レオとミアは顔を見合わせて困惑している。

 私の友人は大人なのだから、子どもの自分たちは怖い気もあるのだろう。



「屋敷で一緒に住んでるから、見たことある人ばかりだと思うけど……ダメかな?」

「いいよ!アンナ様のお友達だもん!」



 レオが頷けは、ミアもつられて頷く。

 この兄妹は、お兄ちゃんがしっかりしていて羨ましい。

 あっ!別に私のお兄様がダメな兄だったわけではないんだからね、なんていない兄に言い訳をしてしまう。

 まぁ、ヘタレではあったのだが……私にとって兄はまぎれもなく自慢の兄なのだ。



「ウィールー!セバスー!ナタリー!ニコライ!こっちこっち!!」



 大きな声で呼ぶとみんな寄ってきてくれた。



「呼んだか?」

「呼んだ呼んだ!私の小さなお友達を紹介したくて!」



 そういうと、ウィルは地面にドカッと座りはじめる。

 セバスやニコライも倣って座った。

 さすがにナタリーは、どうしようか考えていたら、エマがそっと椅子を持ってきてくれた。



「じゃあ、レオ、ミア、まずは私のお友達を紹介するわね」



 二人を見ると少し緊張気味に頷く。



「ウィルは、知っているわね?近衛中隊長で伯爵のウィル・サーラー。

 知ってると思うけど、とっても強いわよ!」

「姫さんに強いって言われると嘘っぽい……」



 ウィルは、人懐っこい笑顔を向けて、よぉ!と二人に声をかける。

 それに反応したのは……うちの子だったのだが……どうしても、ウィルのところに行きたいようだったので行かせてあげ、ウィルの膝の上にちょこんと満足げに座っている。

 それをしげしげとレオとミアは見ていた。



「次は、セバスね。城で文官をしていて男爵よ。セバスチャン・トライド。

 とても、物知りなの。だから、わからないことがあったら聞いてみるといいわ!」

「よろしく」



 セバスは、手を出し握手を求める。

 困ったように、私を見上げる二人にニコッと笑ってこうやってするのよと見本を見せる。

 急に私がセバスの手を握ったので、むしろセバスが驚いていた。



「よろしくお願いします!」



 それを見て、まず、レオが、その後ミアが同じように握手をした。

 初めての挨拶の仕方だったらしく、二人とも握った手を見ていた。



「次にナタリー」

「ナタリー様は知ってます!ジョー様のところによく来られますから!」

「そうなの?」

「アンナリーゼ様のお子様ですからね、可愛くてつい!」

「ふふ、ありがとう。知っていても、一応紹介するわね!

 ナタリー・カラマス。カラマス子爵の令嬢よ!

 とても、人を育てるのが上手なの。ミア、よかったらナタリーに淑女レッスン受けてみるといいわ!」

「アンナリーゼ様、あの……」

「リアン、ミアにもそういう機会を与えてあげて。

 私、ミアならできると思うのよ。ナタリーがダメなら、私が淑女レッスンをするわよ?」

「そういっていただけるのは、光栄ですけど……」



 大丈夫とリアンに微笑む。

 何故か、不安そうなのは、私が淑女レッスンをすると言ったからだろうか?違うと言ってくれるのを待ちたかったが、そっとすることにした。



「最後にニコライ・マーラよ。マーラ商会の商人だったのよ。

 私の引き抜きってわかるかな?今度、私と一緒に商売をすることになったの。

 とっても商売上手だからね……駆け引きというものを見習うといいわ!」

「ご紹介にあがりました、ニコライと申します。

 この度、アンバー領地の商売人となりましたので、以後お見知りおきを。

 何か欲しいものがありましたら、ぜひに声をかけてください!」



 満面の笑みで二人に挨拶をする。

 二人は、ニコライの商売用の顔にコロッと騙されているようだ。

 まぁ、幼い二人には、これが本物の笑顔なのかは見抜けないほど、ニコライの笑顔は完ぺきなのだ……腕上げてきたなと、こんな些細なことでも感じてしまう。



「じゃあ、今度は二人の紹介ね!レオとミアは、自己紹介できるかしら?」



 うんと頷くレオを不安そうにしているミア。



「じゃあ、レオは自己紹介して、ミアは私が紹介するわ!」



 それぞれ、納得がいったのか頷き返してくれる。

 あぁ、なんていい子たちなんだろう。

 ダドリー男爵の子どもだとは、到底思えないな……なんて、よそ事を考えていると、レオの自己紹介が始まった。



「レオノーラ・ダドリーです。ダドリー男爵の次男です、よろしくお願いします」



 その自己紹介で視線を厳しくしたのは、セバスとナタリーとニコライ。

 そういえば、話していなかったかしら?と考える。



「こちら、ダドリー男爵の娘で、ミレディア。レオの妹よ。

 そして、後ろに控えているのが、ダドリー男爵の第三夫人、リアン。

 ウィルとナタリーは会ったことあるわよね?」

「えぇ、ありますけど……アンナリーゼ様、あの……」

「必要だから側に置いているの。それ以上は何も受け付けないわ!

 仲良くしてあげて!ジョーも二人を慕っているのだから!」



 自分が呼ばれたことが分かったのか、ジョーはウィルから降りて今度は私の方へ歩いてくる。

 抱きとめてやると、嬉しそうだ。



「あと、ウィル……やっぱり、養子のこと考えてほしいのだけど」

「養子って、そのレオとミアのこと?」

「うん、そう」

「あぁ、うん……」



 大人の微妙な空気を感じたのだろう。

 三人の子どもたちは、それぞれ憂いを帯びる。



「すぐにとは言わない。もうすぐ、断罪が始まるから……それまでに答えを聞かせて。

 できれば、受けてほしいのだけど……ダメなら、ノクトに任せるわ」



 ウィルの困惑顔を見ながら、ダメかしらねと心の中でため息をつく。

 できれば、レオもミアも爵位のあるウィルの養子となってほしい。

 今後、ダドリー男爵家はなくなるのだ。

 それでも、生き残りとして何かしら背負わされるかもしれない。

 そのときに、後ろ盾になってあげられるのは、ウィルしかいないのだ。

 私は、断罪する側の人間なのだから……恨まれるかしらね?私。



「なぁ、レオとミア」

「はい、何でしょう?ウィル様」

「あぁ、ウィルでいいけど……親父のこと好きか?どう思っている?」

「父上のことですか?」



 レオは、さすがに考えている。

 生きるために、考えるといことをすでに身に着けているし、不用意に話さないようにと心がけているようだ。

 まだ小さいのに……と、なんだか寂しい。



「私、嫌い!お母様を大事にしないから……大っ嫌い!」

「ミア!」



 ミアを窘めるレオ。

 小さいレオが、ここまで考えながら生きなければならなかった環境は、決していいものではない。

 私は、レオを引き寄せぎゅっと抱きしめた。



「アンナ様……どうかなさいましたか?」

「レオがあまりに不憫で……」

「それは、可哀想ということですか?もし、そうなら……違いますよ!僕は、可哀想ではありません」



 胸をはって、私を見てレオは言ったのである。

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