第292話 レオにはレオの

 レオが私の腕から抜け出した。

 じっと私を見て、何か言おうとしている。

 こんなとき、ただ、見守ればいいのだろうか?


 リアンが、レオを止めようとする。

 私は、レオの想いを聞きたくて、リアンをとめる。



「レオ、言いたいことがあるのね!

 私、聞いてみたいわ!レオの想い。怒ったりしないから、聞かせて」



 それで意を決したのか、レオは口を開き始める。

 側で、ミアがレオの手をギュっと握っていた。



「僕もミアもお母様も、決して、可哀想ではありません……

 確かに、屋敷ではいないものとして扱われて来たり、お母様は辛い思いをされてきた

 のかもしれませんが……お母様とミアがいるだけで、僕は満足なのです。

 大切にしているものを守れればいいのです」



 私の目をじっと見つめ力強く私に話しかける。

 その話に私は頷くが、納得はしない。



「素敵な話ね。

 リアンとミアを守りたいって……ますます気に入ったわ。

 でもね、レオ。今のあなたでは、リアンもミアも守ることができないのよ」

「何故です?父は男爵位です」

「そうね、でも、リアンは、ダドリー男爵との離婚を決意しているし、もうすぐ

 ダドリー男爵家は、重罪で取り潰しとなるわ。

 そうすると、今、レオが大丈夫だと思っているもは、前提から崩れることになるの」

「取り潰し……罪ですか……?父は、何をしたのですか?」



 私は、答えるかどうするか悩んだ。

 せっかくのジョーの誕生祭だ。

 今日は、楽しく過ごしたいというのが、本音だった。



「デリア、屋敷に戻るわ。レオ、話が聞きたければ、ついてらっしゃい!」



 私は立ち上がり、馬車に乗り込む。

 馬車には、私、デリア、ミア、ナタリーが乗り、御者台にウィル、セバス、ニコライ、レオが乗っていた。

 ジョーは、デリアに抱かれている。

 なんだか、馬車が重量オーバーな気がするけど……と思ったら、2つにわかれるようウィルから指示がきた。

 リアンは後から向かうということで屋敷に向かう。



 黙ったまま、屋敷に着くとデリアはジョーを連れ部屋に戻り、私とウィル、セバス、ナタリー、ニコライ、レオ、ミアが応接室へと足を運ぶ。


 みんなが座ったところで、話の再開をする。



「さっきの話は、まだ、公にはなっていないけど……確実な話よ」

「何故ですか?お父様が重罪というのは……」

「正確には、ダドリー男爵と娘であるソフィアよ」

「姫さん、俺も気になってたんだけど、横領くらいじゃ、重罪にはならないだろ?

 死罪なんて、もっとも重い刑罰だ。

 それを断言できるって、他に材料があるのか?」



 ウィルの質問に頷く。



「ロサオリエンティスというのが、この国がなる前の国名なのだけど、その女王の血脈が

 アンバー公爵家なのは、もう今は知る人は少ないのかもしれないわね」

「アンナリーゼ様、もしかしなくても、ハニーローズがかかわっているのですか?」



 セバスの問いに頷くが、レオとミアはさっぱりわからずいる。



「かいつまんで話すと、ジョーは王家の血を継ぐものなのよ。

 あの子は、特殊な国の法律で守られているの。

 そこまで、わかるかしら……?」



 レオは頷くが、ミアには少し難しいらしい。



「うーん……そうね。

 ジョーは、王様なのよ!その王様の命を狙うと、狙った人や家族が法律……決まり事に

 よって、死刑……死なないといけなくなるの」



 かみ砕いた話をしたら、ミアにもわかったようで震えている。

 それをレオが支えている。

 優しい子だ。



「リアンにはすでに話をしてあるの。

 レオとミアの命を守るのか、それとも男爵と一緒に死ぬのかと。

 すると、リアンは、あなたたち二人を守ると決めたのよ。

 だから、私の側で侍女をすることになったの」

「お母様が、僕たちを守るために……?」

「そうよ。あのまま、あの屋敷にいたら、レオもミアも、リアンさえも死んでたの。

 でも、リアンが決断してくれたおかげで、レオもミアも生きていくことができる。

 ただ、重罪での死を迎える男爵の子どもだと、今よりもっと酷い扱いを受けるわ。

 だから……私の元に来てもらったのだけど、レオもミアも私を恨むかしら?」



 少し考えるそぶりを見せたが、レオはなんとなく理解できたのか頷く。



「僕は、恨んだりしません。それで、お母様もミアも守れるなら……」

「えらいわね!大丈夫よ!あなたたち三人は私が守るから!

 こう見えて、私、公爵だからね。この国で3番目に偉いのよ!

 不便ではあるけど……こちらで生活してくれる?」

「わかった」



 レオは、私へ返事をしてくれる。

 5歳の子どもがどこまで理解しているのか、わからない。

 でも、生きるために男爵家の中で知恵を絞り、母や妹を守ってきていたのなら、きっと私の話もいいところまで理解はしてくれているだろう。



「あとひとつ提案があるのだけど……」

「なんでしょうか?」

「レオとミアをウィルの養子にしたいと思っているの。

 15歳になったら学園に通うためには、貴族の子息令嬢でなくてはダメなの。

 二人とも、学園に通う価値はあると思っているわ。

 もし、ウィルがいいと言ってくれたら、養子になってくれるかしら?

 生活は、リアンと離れて、ウィルと一緒にすることになるわ。

 ウィルは幸い、領地での生活をたぶん死ぬまでしてくれるはずだし、リアンもこちらの

 屋敷で侍女として働くことになるから、会えないわけではない。

 ただ、貴族と従属という身分は、親子でも生まれる。

 それでも、ジョーとの関係を考えてくれるなら、ウィルの養子を選んでほしい。

 レオは、もうすぐ6歳になるのよね?

 貴族として生きていくのであれば、それ相応の教育が必要になってくる。

 時間はあまりないの。

 ねぇ?レオとウィル?よく、考えてみて」



 私は、レオを見てからウィルを見る。

 レオの表情からは何も感じられなかったが、ウィルは明らかに困惑している。

 前々から言ってあったから、ここで困惑されても困るのだけど……そう思っていた。

 ウィルのアイスブルーの目は、覚悟を決めたようだ。

 私を見つめ返す目から迷いが消えた。



「姫さん、養子の件、俺は受ける。

 それで、レオやミアが納得して生きていけるなら。

 ジョーの将来に少しでも幸せな時間を与えてやれるなら、大人の役目として受ける」

「ありがとう……」

「まぁ、まだ姫さんには隠し事が多いからなぁ……それくらいしないと更なる信頼は

 得られない気がするわ」

「そんなことないわ!私は、ウィルや、セバス、ナタリー、ニコライを信頼している。

 言葉以上にね。

 ちょっと待ってて……」



 座っていた席から立ち、自室へと急ぐ。

 ニコライにお願いしていたものを取りに帰ったのだ。



 部屋に戻ると、ウィルとレオが話をしていた。

 そこに、ミアやリアンも混ざり話あっている。

 その姿は、もう親子のような雰囲気を醸し出している。

 ウィルって……人の心に触れるのが、とても上手ね。

 そんなことを、扉の前で見ているとミアがウィルに抱きついていた。

 交渉成立かしら?ふふっと思わず笑みがこぼれる。



「姫さんさ、さっきから見てないで早く来てくれる?」

「はいはい、行きますよ!」

「あぁ、それで……その……」

「僕たち、ウィル様の養子になります!」



 レオに先を越され、ばつの悪そうにするウィル。

 私は、持っていた小箱を机に置き、レオとミアの頭をクシャッと撫でる。



「ありがとう……絶対、私が三人とも守るから……」

「アンナ様、ありがとうございます」



 私は屈んで二人をいっぺんに抱きしめる。

 驚いたのか、体がビクッとなったが、二人とも私に体を委ねてくれる。


 ひとしきり抱きしめたあと、手続きの話になった。

 アンバー領地でのことなので、私の裁可で養子縁組は成るということをセバスに教えてもらい、正式に手続きを今日中にすることにした。



「本当にいいのか?」

「はい、いいです。

 お母様は、お母様に変わりないですから……

 それより、ウィル様、僕と妹とよろしくお願いします」



 ウィルは、レオの挨拶には答えず、レオの頭を撫で、二人の視線に合わせるように屈んだ。



「養父になったんだ。ウィル様じゃ変だろ?

 呼び方は、何がいいか二人で考えて呼んでくれ。

 住む場所は、領地の屋敷に間借りしているんだけど……俺も家持った方がいい?」

「いいわよ、ここで」

「じゃあ、公爵様のお言葉に甘えまして……もう少し二人が大きくなったら考えるよ」



 わかったと答える。

 なんか、すでに懐かれているウィルは、少し、羨ましい。



「じゃあ、手続きも終わったし……レオとミアはリアンと一緒に寝ましょうか。

 もう、結構いい時間だから……」

「いいの?もう……」

「いいわよ!急だったからね、今月いっぱいは、リアンと一緒に生活しなさい。

 ウィルの方も準備が必要だから……」



 子どもたちは嬉しそうにリアンの手を取り、侍女の部屋へと向かう。

 養子になるとは言っても、まだ母親が恋しいに決まっている。

 無理に離れさせたのだ、申し訳なさもあり、リアンとの時間もたくさん取ってあげたいと思うのは、私も親だということだろうか。

 その後ろ姿を見送る。

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